アールヴヘイム【6】
そんなきゃらきゃらとさんざめく妖精たちに引っ張られつつ、自分の体の新たな情報にかなり戸惑った。
しかし私を見る周りの反応が妙だった件はこれで合点がいった。
要するに私が入ってしまった事で外見に変化が起こってしまったからなのだろう。
私だってすっかり変わってしまった里和ちゃんの外見には心底驚いたし、正直いまだに完全に受け入れきってはいないのだから。
そんなプチ暴露をしてくれた妖精たちだったが、私の困惑を全く気にも留めず、柳緑花紅の円舞の中にどんどん私を引き込んでゆく。
「このコ、エルフだからかな?」
「このコ、エルフだからかもね!」
「そう、エルフなんだからみんなで踊ろう!!」
「みんなで踊ればすぐに『光芒の宮殿』に行けるよ!」
彼らに導かれ小高い丘の上に行くと、そこには淡くクリーム色に光る輪が形成されていた。
目を凝らしてよく見れば、その輪は輝く無数の蛍光カラーの茸で作られている。
わー、めっちゃ綺麗……!
もしかしてこれがフェアリーリング?
私はその幻惑的な光景に感嘆しきりだったのだが、そんな私をよそに、私の体は艶麗なエルフが奏でるリュートの旋律と美女エルフが朗々と唱う瓊音に導かれるように踊り始めていた。
げ、体が勝手に動くんですけど───
体の中から無数の声が湧き上がるように、私は黙ってその衝動に身を任せてみる。
誰も彼もが酔狂乱舞の渦の中、ひとつの高みに向って一気呵成に舞い踊り続けている。
踊れ、踊れ───!
心の赴くままに。
血の沸き立つままに。
あるがままの己に還るのだ!
ヴィンセントさんのリュートから、そんな言葉が神秘的な旋律となって数多の空間に響き渡ってゆくような気がしていた。
ふと気づくと、カイル某が茫然とした表情でぽかんと口を開けてこちらを眺めていた。
その面白い彼の表情に思わずにやりと笑みが溢れる。
人のこと馬鹿にするから───
すると、なぜか黒髪の青年の浅黒い顔が茹でたトマトよろしく真っ赤に染まる。
あれれ……意外に可愛いとこ、あるじゃん。
自分の言った事にしっぺ返しされたんだから、当然だよね。
そんな私の前に詠唱を続けたままの里和ちゃんがにこやかに割り込んできて、なぜか私の手を掴んでくるくると回りながら一緒に踊りだす。
えっ、えっ?
戸惑いながらもなぜか私の体は踊るのを止めない。
気のせいかフェアリーリングの魔力量が一気に上がったように感じたのだが、正直今はそれどころではない私であった。
ちょ、流石に色んな意味でこれは冗談キツイ───!
目が回る…… ‼
だけど止められない、止まらない───主に里和ちゃんが止まってくれる気配が、ない。
私が気が遠くなる寸前で、ようやく里和ちゃんが止まってくれたかと思うと意気揚々と高唱した。
「我は請う───普く光を集めし殿宇である『光芒の宮殿』への途を、我等に恕しを与え導き給え───!」
私が肩で息をしながらその彼女の足元でへばっていると、回転する視界の先にあった魔杖の先端と地面の間から徐ろに青白い光が滲みだし、カッと広がったかと思うとあっという間に私達を飲み込んでいった。
【'23/12/16 23:35 懲りずに修正】
【'24/01/01 20:35 地味に追記してます】
【’25/01/21 微修正】