スヴェイダ・ヴァトン【2】
その場所は、煌めく森を抜けた先にある、暗い森の奥にひっそりと存在していた。
明るかった光満ちる森とは対象的に、その名の如く妙に陰鬱で、アールヴヘイムに存在しているとは思い難い奇怪な雰囲気さえ漂う森だった。
大小太さ様々だが比較的背高い針葉樹林が密生しており、湿り気の強い独特なスパイスにも似た青臭さが、私たちの周りの空間に色濃く淀み立ち込めている。
今回は黒髪の青年が私の前を歩いていた。
理由は単純───目的地までの道が無いのだ。
いや、実はそれは何気に間違えで、この暗い森の周囲全てに入り口も道もあるとも言えた。
要するに、許可された者だけが入る事ができる場所なのだ。
そしてその許可された道案内と姿なき鍵の印章を与えられているのが、カイルのみと言うだけの話ではあった。
あらかじめ指定された場所を彼が進んでゆくと、草木が勝手に避けて目の前に道が開けてゆき、私たちが通り過ぎると元の状態に戻ってゆく───そんな感じだった。
現在の私は、ある意味この先に監禁封印されてしまった存在と同程度の罪人に等しい存在であると判断され、更にこの場所に入るために所持していた魔杖や危険と判断された魔導具は全て取り上げられ、魔杖化している左手も黒革の魔導手袋でがっちり封印されてしまっている。
ここまでするかー……。
経緯を冷静に考えると仕方がないとは言え、私的にはかなりしょぼーんな状態ではあった。
そこで不意に脳裏に無数の真っ黒な影法師が現れ、覆い被さるようにして私に罵声を浴びせかける光景がフラッシュバックしてくる。
途端に目眩を覚え、胃がむかむかとしてきて吐き気まで催してきた。
落ち着け、私───もう、この世界にはあいつらはいないんだ。
人に疎まれたり意地悪されるのは慣れているとは言え、表面上は出す気なんて絶対ないけど、それが辛くないという訳でもないし悲しくない訳でもない。
ただ、それを表に出してしまうとそれをしている相手を喜ばせるだけだし、その相手の思う壺になるなど以ての外だからだ。
意地悪する手合いには、スルーするのが一番だと私は思っている。
あんたのつまらん意地悪なんか●んこ以下だ。
そう言う意味すらも微塵も感じさせない表情で通り過ぎるのだ。
大抵相手は拍子抜けしたような表情をする。
以降は、まぁ、そういう根性悪は陰口叩くのも止めはしないが、反応しなければ粘着質の意地悪をしてこようとする根性まではない場合が殆どだ。
もし物理的に手を出してきたらそれは普通に犯罪だ。
がっつりきっちりしっかり証拠を取って反撃すればいいのだ。
世界は広い。
時間は有限だ。
そんなつまらない狭い世界はほんの一時的なものだ。
一生なんか続かない。
かかずらわっているだけ時間の無駄だし、そんな時間があったら別の楽しい事をした方がよっぽどマシだ。
耐える事なんかないし、我慢なんかしなくたっていい。
「逃げるな!」なんて奇麗事は聞かなくたっていい。
自分を粗末にする相手の言葉なんか●ソなのだ。
自分を大切にしてくれる人達や場所は絶対にある。
そして自分が思うほど、周りの幸せそうな人達も意外に孤独だったりするし、幸せなフリしている事に気づいてしまう時もあるかも知れない。
あなたがこの世界にいるのは、この世界に望まれたから生まれてきているのだ。
あなたはこの世界で生きていていいのだ。
誰に許可も赦しも請わなくたっていい。
生狡くて痛々しい相手の不幸に呑まれちゃ駄目だ。
人間に限らず、放っといたってこの世の生き物はいつかみんな嫌でも命を全うする。
そんなつまらない相手のために、あなたの貴重な命を捧げる必要なんか全然ない。
あなたはそこにいるだけで美しくて稀有な存在なのだ。
そこにいるだけでいい。
そこにいて欲しい。
それがエゴでも。
だから私は里和ちゃんに謝りたかったのだ。
許してなんかもらえないのは、こちらに来てからの話でよく判ってはいる。
それでも───独り善がりで自分勝手な了見だと判ってはいるんだけど。
脳裏に最後に貰った年賀状の言葉が閃く。
『そっちに帰ったら会いたいね』
気づけなくてごめん、と───
エピソードタイトル後ろ倒ししてます
古ノルド語を調べ倒した結果ですが、多分間違ってる気が……凹
そんな訳で、また誤字脱字加筆修正するとは思いますが、何とぞよしなに
【'24/10/07 誤字脱字加筆修正しました】
【'25/04/11 誤字加筆修正しました】