スヴァルトアールヴァル【8】
結局、あれからスヴァルトアールヴヘイムからの使者が到着したとかで、またぞろ逃げようとしたヴィンセントさんをピリカちゃんが例のロープで阻止しつつ、王宮から迎えに来た物々しい警護の近衛兵たちと共に、迎賓館としても使用されている『月暈の宮殿』へトボトボと連れて行かれてしまった。
後に聞いた話によると、やはりピリカちゃんが使っていたあの普通っぽいロープは里和ちゃん謹製の魔導具で、単純に判りやすく縛っているあいだ一時的に相手の魔力を封じる事ができるらしく───そりゃ逃げられない訳だ、と合点がいった私であった。
因みに、王弟のグリフィス氏譲りで外見が秀麗で人当たりの良いヴィンセントさんは、王宮では主に外交の役割を担っていた。
私の兄になってしまった美青年エルフの前任は、父君のグリフィス公爵がその役目を負っていたらしいのだが、当時そのスヴァルトアールヴヘイムと一悶着起こしてしまい、以降外交のお役目からは外されてしまったという。
───で、迎えに来た近衛兵さん達はヴィンセントさんを守護する意味もあったのかも知れないが、どちらかと言うとこれ以上逃げ出さないように見張る意味合いの方が大きかったらしい。
……ほんとに王族?
こんなに嫌がるヴィンセントさんは見たことが無かったので、一体スヴァルトアールヴヘイムってどんな所なんだろう、と首を捻る。
何せカイルの故郷でもあり、マーガレットさんの産みの親の祖国でもあるとの事だし、例の里和ちゃんの使い魔の銀次君が姿を消した場所でもある。
また間の悪い事に、その肝心な部分を説明してもらおうとした時だったので、黒髪の青年が美女エルフに説明を求めた途端、今度は従者の蘭丸さんがトラブル発生、と慌てて闖入してきて書類の山を吹き飛ばしながら里和ちゃんを連れ去っていってしまった。
以降、戻って来たピリカちゃんに、二人は暫くここへは戻って来られないと伝言され、カイルはきりっとした柳眉を顰ませ、また逃げやがった、とぶつぶつ独り言ちていた。
こうなってしまうと後はもう一つの目的である、私が結果懐柔し従魔になった黒竜に会いに行くしかない───但し、結界の外から話しかけるだけと言う制約つきで。
もし私がおかしな真似をしたら、その時はサーシャの命は……と、かなり直接的に私はアールヴヘイムのお偉 いさん達に脅されている。
ホントこの世界に来てからは脅されてばかりだ。
まぁ、それに関しては、そもそも私が美女エルフとの約束をすっかりさっぱりしっかり忘れてしまったせいなのだが……。
今となってはそんな事ばかり嘆いていてもどうにもならない。
切り替えて前向きに考えていかねば!
黙っていたら流されてばかりだ。
確かにある意味私とサーシャは、今は再び美しさを取り戻した白い妖精たちの国を滅ぼしかけたのだから、それはそれで何の言い訳もできない仕方がない話でもあった。
とにかくこうなってしまった以上、私に責任がある事は間違いないと思うし、私にはサーシャが暴走しないよう魔力をコントロールする術を学んで汚名を濯ぐ義務がある。
その為には、どこぞへ姿を晦ました魔術士ファーマンことマックス坊っちゃんを探し出し、呪いを解かねばならない。
真の名問題も残ってるし、馬鹿みたいに問題が山積している。
アシレマのノウード・タウンから戻って来た私の話を聞いた里和ちゃん曰く、恐らく私はあそこでそれを見つけているはずだ、とか禅問答みたいな無理難題を吹っかけてくれていた訳で───
まじっすか?
正直、鬼怖いけど。
無駄に恐れてなどいられない。
ここはもっと気合いを入れる頑張りどころだ。
しかしながらその前に、移動拠点で緋色の髪の青年と待っている可愛い魔導師見習いに変身魔法とやらを学ばねばならないし、私自体も地味にスケジュールが詰まっていたりする。
───って言うか、こうしてまたあれよあれよと訳の判らないまま、断る暇もないままに、退っ引きならない事態にされてゆくフラグしか立ってない気がする私なのであった。
明日から三日連続で早起きして出掛けねばならないので今回はこの辺で
毎度誤字脱字加筆修正するとは思いますが、何とぞよしなに願います
【’24/10/03 地味に加筆修正しました】
【’25/01/07 誤字修正しました】