スヴァルトアールヴァル【3】
私がそう切り出しながら、その書類等で雑然としたソファーセットの美女エルフの対面に腰を下ろした時だった。
ここまで案内してくれたその里和ちゃんの従者の蘭丸さんは、私たちをこの部屋に通した後、速攻また彼女に次の仕事の指示をされ、溜め息をつきながら同じように事後処理で忙殺されていると思しきヴィンセントさんのサポートに回されてしまっていた───ほんとご愁傷様です。
するとそこであっけらかんと里和ちゃんは宣う。
「あぁ、いなくなっちゃったんでしょ、あの子」
銀次君は美女エルフの使い魔とは言え、さらりとあの子呼ばわり。
何か軽い感じだな。
「探さないの?」
「あの子の家出は割としょっちゅうだからなぁ……」
その意外な内容に思わず絶句する。
そんな話でそんな反応─── ⁉
思春期の家出少年か……!
と、突っ込みたくもなる。
とは言え、そんなふざけてもいられないので、単刀直入に予てよりの懸念を伝えてみた。
「……私が原因じゃ?」
「何で?」
「いや、銀次君に言われちゃったんだけども……」
私はアールヴヘイムで黒い火竜と対峙した時、そこで初めて会った里和ちゃんの従魔たちとの経緯をかい摘んで話した。
「……へぇ、銀坊があんたの事、転生者、と?」
「里和ちゃんが教えたんじゃ───?」
「私の使い魔たちの中でそれ知ってるのは蘭丸だけのはずなんだけど………まぁ、使い魔の中でも銀次は悪い意味でも敏いからなぁ───自分で嗅ぎつけちゃった可能性は大、かも。そもそもそういう仕事ばっかさせてるし」
そこでやはり仕事柄疑り深い、私の背後にいるカイルが口を挟んでくる。
「誰かから入れ知恵された、とかはないのか?」
「………うーん、どうだろう。現状としては無いとは言えないかもね。でも、個人的には無いと思うんだけども」
美女エルフの考えは尤もだ、と私自体も思う。
私だってサーシャや弥七がそうなったら、同じような反応するだろうし、もしかすると里和ちゃん以上に感情的になって、うちの子に限って状態になるやも知れなかった。
とは言うものの、もう一つの疑念がある訳で───
「リワの主観なんて今は必要ない─── 一番の問題は、移動拠点で真夜たちを襲った奴だよ」
相変わらずぴしゃりと必要事項のみを話す黒髪の青年に、私は思わず後方を振り仰ぎ、彼が何を言い出すのかとハラハラしていた。
「あー……うん、ソレね」
「心当たりは?」
「あり過ぎて笑っちゃうぐらい」
「………ふざけんな」
テヘペロする美女エルフに、一気にカイルの周囲の空気がピリッと張り詰める。
やめてやめて、耳が痛くなるから。
「………お前、どんだけ真夜に怖い思いさせる気なんだよ?」
また剣呑な雰囲気を纏った青黒いオーラのような煙が、黒髪の青年の躰からゆらりと立ち上り始めた。
それに私はぎくりとし、思わず何度か目を瞬かせ、それでも視えているその謎のオーラに眉根が寄る。
何でこんなものが視えるんだろ……?
私が自分の奇っ怪な異変に戸惑っていると、流石に拙いと思ったのか里和ちゃんは早々に自分の不誠実を認め謝罪した。
「ごめんごめん。だってあたしの周りが敵だらけなのはホントの事だし───それなら、君だって心当たりあったんじゃないの?」
美女エルフがあっさりすっかりしっかり謝ったせいか、拍子抜けしたみたいに黒髪の青年から青黒いオーラがすうっと引いてゆくのが判った。
それに思い切りほっとしていると、今度はその里和ちゃんの言葉に困惑気味な様子で話しを続ける。
「……そりゃ、思い出すなと言う方が無理な話だろ」
「まぁね……悪気が無いぶん面倒な話だったからね」
………一体、何の話なんだろ?
その二人の会話に首を捻っていると、私が座っていた茶革の三人掛けソファーの傍らで何時の間にか眠っていた黒ジャガーがふと身を起こし、私たちが入ってきた扉の方に耳を傾けた。
程なくしてドアの向こうからバタバタと誰かが走り込んで来る騒々しい音が聞こえてくる。
「私の妹が───メグが来てるんだって ⁉」
大きな音を立ててドアが開いたかと思うと、私の兄になってしまった王弟の息子であるヴィンセントさんが慌てた容相で飛び込んで来たのだった。
今年『も』猛暑の所為で雑草花粉症が酷く、薬飲んでもほぼ効かず、目から鼻水、鼻から涙……くしゃみ止まらず未だにマスクが手放せません
更新が滞りがちですが、地味に頑張って書いてますので、何とぞよしなに願います
【’24/09/15 誤字脱字加筆修正しました】