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ファルシマ・ストゥ【4】


(しばら)くして居間(リビング)に戻って来た緋色の髪と黒髪の青年二人の対照的な雰囲気に、何気(なにげ)に私はたじろいでいた。


久々の湯船にリラックスした様子(ようす)のベージュの部屋着になったイアンさんは、がははがははと笑いながら通りすがりに私の背をバシバシ叩き、男性陣用の寝室へ消えていった。


現在ライカちゃんは、この移動拠点警護中の白っぽい大きな熊(ナヌラーク)黒い(ブラック)ライオンの状況を見に行っており、その後で地下にある美女エルフの魔法研究室で片づけと私に教える魔法の準備をするとかで、居間には私と使い魔の(ブラック)ジャガーのみだ。


「……ごめんなさい」


風呂上がりでほかほかと湯気の立つオリーブグレイの部屋着になった黒髪の青年に、取り()えず素直に謝っておく私であった。


前髪が相変わらず長くて(すだれ)状なのだが、(さら)()れて重苦しくその表情を見事隠しきっている。


「………いや、俺も見ると思い出す程度で、人前で脱げないぐらいの不便さしかなかったし」


その言葉に思わずうっ、となる。


いやいや、充分不便でしょ、それって。


早速(さっそく)だけど、今から消させてもらうね」


私はそう言うと座っていたソファーから立ち上がり、リビングの三人掛けの長椅子の方に彼を促す。


するとカイルは軽くそれを制したかと思うと、濡れてもっと(つや)やかになった翠髪(すいはつ)から面映(おもはゆ)そうな黒瞳(こくどう)(のぞ)かせ、やけに体裁(ていさい)悪げに口を開いた。


「別に急がないから今じゃなくてもいいよ。真夜(メグ)だって疲れてるだろ」

「───いいから。私の心配ばかりしないで、たまには自分の体も大事にして!」

「……判った」


私にしては珍しく語気荒く強めの言葉に、黒髪の青年は多少面食らった様子でそう返事をし、髪の毛からぽたぽたと(しずく)(したた)らせながら三人掛けのソファーに大人しく座り込んだ。


「その前に、風邪引くから頭()いた方が良くない?」

「放っときゃ乾くから」

「えっ ⁉ 綺麗な黒髪なのに、(いた)むよ?」

「………面倒臭い」

「───もーっ! 私が拭くから ‼ 」


どうして男の子ってこういう了見なんだろ?


私はずかずかとした調子で彼の前に立つと、その肩に掛けてあったタオルを手に取り、そのままわさわさと黒髪の青年の頭を拭き始める。


実は親の髪を切ったり染めたりしてた事があり、何気にこういうのは慣れている私なので、何だが懐かしいな、とか思いながらわさわさと満遍(まんべん)なく拭き上げてゆく。


しかし細身とは言え、カイルはかなり体格の良い青年なので、何だか妙に大型犬を拭いてるような錯覚に(とら)われていた。


そう言えば、不思議と私の従魔の(ブラック)ジャガーと並んで(たたず)んでいる風情が、何だかやたら似て見えたのを思い出し、つい笑みが(こぼ)れてしまう。


そこで(にわか)に黒髪の青年の上体が前後左右に───要するに、私が拭こうと力を入れる方向に揺れ始めた。


ん───?


気づくと彼はその切れ長の目を閉じ、安らかな寝息を立て始めていた。


あっれー……相当疲れてたんだね、カイル。


髪の毛も大分乾いてきたので拭くのをやめ、私はそのまま傷跡を消す事にした。


ゆらゆら揺れる黒髪の青年の上体を左手で支え、タオルを背後のセンターテーブルに置こうとした時だった。


彼の上体が思い切り私の体に寄り掛かってきていた。


うっ……お、重っ。


脱力した人間はとにかく重い。


そうじゃなくてもカイルは全身(しな)やかな筋肉の(よろい)を着ているかのような、数々の歴戦を(くぐ)り抜けてきたであろう実戦的な体躯(たいく)の持ち主だ。

どう考えたって軽かろう訳もなく。


私は仕方なくそのまま黒髪の青年をどうにか自分に寄り掛からせながら起こさぬよう、やはりセンターテーブルに置いてあったマルチカラーの遊色効果の綺麗なホワイトオパールが柄頭(ポメル)についたサンザシの魔杖(ワンド)を右手で(つか)む。


そして蹌踉(よろ)めきながら魔杖(ワンド)(かか)げ、無詠唱で残りの傷跡を消すための魔法をかけ始める。


───ルイムルウンアル!


乳白色の光が魔杖(ワンド)魔鉱石(ホワイトオパール)から輝きだし、それが徐々(じょじょ)に私の体を伝うように包んだかと思うと、カイルの肩を支えていたウォーターオパールのついた左手を経由して、眠り込んだ青年の体をもふんわりと包み込んでゆく。


すると、今まで(ふね)()いでいた黒髪の青年がはっとした様子で(おもて)を上げ、切れ長のブラックオパールの(ごと)双眸(そうぼう)を大きく見開いて私に(もた)れ掛かったままじっと見つめてきた。


あ、何かヤヴァい、この感じ───


私は慌てて取り(つくろ)うように苦笑(にがわら)いする。


「あー……起こしちゃった? 勝手にやっちゃっ………てぇっ ⁉ 」


言い終わる前にカイルの両手が私の体を抱きしめてきた。


「ちょっ……と! まだ魔法かけてる途中なんだけど───」

「……うん………(すご)く気持ちいい───このまま寝たい」


えっ…… ⁉


そこで微妙にバツが悪そうなアニメ声が飛んでくる。


「それじゃ、お二人用にお部屋用意しますけど───」


ばっと振り向くと、リビングの出入り口に所在(しょざい)なげな魔導師見習いの美少女がそわそわしながら立ち()くしていた。


「大丈夫! 私はライカちゃんと一緒に寝たいから ‼ 」


頭に一気に血が上るのを感じながら、思わず私はそんな訳の判らない事を叫んでしまっていた。


騒々(そうぞう)しいな………お前ら、いい加減オレ様の存在無視するのやめてくれないか?」


今度はソファーの陰から(ブラック)ジャガーが、欠伸(あくび)をしながらのそりと身を起こす。


弥七(ヤシチ)……ホントごめん。

無視してる訳じゃないんだけど、ね。


そんなわちゃわちゃ状態の中、取り()えずカイルの体半分の傷跡の残りは───何とか奇跡的に綺麗に消せていたので我ながらびっくり。


思わず○イドリアーン、と両拳(りょうこぶし)を上げ叫びたくなったのは言うまでもなく。


更に私のかけた魔法は、おまけで黒髪の青年の疲労回復とリラックス効果まで付加していたらしい───そもそも回復・治療・状態異常解除魔法ではあるのだけども……うーん、奇跡的に謎の効果があるとか、我ながら何か違う気がする。



ところがそこで、ピリカちゃんから連絡が入った。


探索(たんさく)中の銀次君がスヴァルトアールヴヘイムで失踪(しっそう)した、と───



うーん……段々エピソードタイトルに偽りありな感じになってきてしまってる気が

また寝落ちしまくりだしたので、また後ほど加筆修正さけてもらうかもなので、何とぞよしなに願います


寝落ちしながら書いていたせいか、気づくと下線の引いてある謎の文言があった───「ゆ)やひそ」私は一体何を書こうとしてたんだろう……?

【’24/08/29 微加筆修正しました】

【’24/08/29 エピソードタイトル変更】

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