リーサストール・ドレーカベイギャ【12】
「……あれ? だってカイルさんがリワ様呼んで来いって───」
今回も体半分の分身体の美女エルフの傍らで、前髪ぱっつんのツインテ少女が小首を傾げ、薄めの眉根を寄せストロベリーピンクのぷっくりした唇を軽く尖らせた。
うーん、ピリカちゃん、女の子版サーシャに続く可愛い3号が現れた!───その上鬼あざとい!
可愛いものに目がない私の脳内には、なぜか今回○ラクエの戦闘音とファンファーレが流れていたのは言うまでもなく。
そこで黒髪の青年は、ばたばた暴れるサーシャの首根っ子を押さえたまま口を挟んできた。
「ただの結果論だよ。でもズメイに関しては、俺には真夜がリワの結界と封印の魔法だけを解いたようにしか見えないんだが……」
その歯に衣着せぬカイルの言葉にぐうの音も出ない私は、とにかく速攻陳謝することにした。
「里和ちゃん、ごめん……私どうしてもサーシャを見捨てられなくて」
そう言いながら、私に向かって助けを求めてジタバタしていた茶髪の青年の許へ近づくと、黒髪の青年が疑っている元凶である禍々しい黒い蛇のトルクに視線を移す。
やっぱトルクは消えてくれなかったか……。
私がその事実にがっくりしていると、再度サーシャが私の体に縋りついてきた───今は色んな意味で疲弊しきっていてそれに抗う気力もない。
「メグっちは何も悪くないよ! ボクのために必死に解呪しようとしてくれて、ボクが壊してしまったアールヴヘイムをこんな綺麗に復元してくれたじゃないか ‼ 」
……何ですと?
茶髪の青年の援護射撃にきょとんとしたまま、私は改めて辺りを見回してみる。
先ほどまでの奇怪で真っ暗な底なしの穴ぼこだらけの大地、灰色の煙が辺りに充満し、オレンジ色の炎が空をも焦がそうとしていたはずの、惨たらしい焼け野原だったアールヴヘイムの風景が一変していた。
白い綿雲が流れる青空。
色とりどりで芳しい香りの花々が咲き乱れる草原。
緑の濃密な森の木々にも、花や実が鮮やかな色彩を見せている。
爽やかな空気が煌めく中を、様々な妖精たちが騒めきながら飛んだり跳ねたり踊ったりしていた。
私がその光景に目を丸くしながら茫然としていると、ざぁっと音を立てて風の妖精たちが通りすがりに笑いさざめきながら私の頬や髪を撫でてゆく。
『この娘が私たちを救ってくれたの?』
『ええ、そうみたいよ?』
『変わったエルフねぇ、オッドアイよ』
『ありがとう、エルフのお嬢さん』
シルフ達がその優美な姿を空の彼方に溶け込ませるのを、ぽかーんとした表情で見送っていると、また黒髪の青年が怖いくらいの無表情さで私の体からサーシャを引き剥がし、右掌でその顔面を鷲掴みにすると、そこから蛍光緑の光を放ちながら謎の電撃音がし始める。
茶髪の青年の悲鳴でようやくはっとした私は、それを止めるべく慌ててカイルの右腕にしがみつく。
その一連の騒ぎを珍しく苦笑しながら眺めていた里和ちゃんは、ポニーテールに引っ詰めたその艶やかな銀髪の頭をぽりぽりと掻きながら口を開く。
「そうだね。あたしとヴィンさんだって香月と同罪だよ。結局、サーシャを犠牲にしたところでアールヴヘイムは完全には救えない訳だし、そもそもの黒幕連中はほぼ野放し状態だからね。でもよく頑張ったね、香月───私たちもホントに助けられたよ」
……ん?
何のこと?
アールヴヘイムがこんな風に綺麗に復活したのって、里和ちゃん達のお陰、でしょ?
私、アールヴヘイムには特段何もしてないんじゃ……。
私がカイルの右腕を掴んだまま目を点にして首を捻っていると、流石に美女エルフは呆れたように溜め息をついて言葉を続ける。
「…… ま、とにかく、無意識なのが末恐ろしい限りだけど、呪詛返しした上にアールヴヘイムまであっさり修復しといて気づいてないんだね、このエルフは───まぁ、魔力の使いすぎで今回もオーバーフロー起こしてるみたいだから、後で治してあげるから落ち着いたらこっちに来てよ。他の術師たちにも面通ししておきたいからさー」
え、他の術師たちって……何か面倒そうだなぁ。
私があからさまに眉間に皺を寄せ、気乗りしない表情でそんな事を考えていると、とうとう里和ちゃんは怒った様子で大きめのキンキラ声で私を叱りつけてきた。
「そんな嫌そうな顔しないの! サーシャの呪いのトルクもどうにか出来る術者がいるかも知れないし───この先のあんた達のためでもあるんだから、ね」
はぁ……肝に銘じます──って言うか、そうか、今回集まってくれた術者さん達の中に、この黒蛇のトルクの解呪方法をご存知の方がいらっしゃるかもなんだ!
その可能性に一気にテンションの上がった私を間に挟み、茶髪の竜人と黒髪の青年の奇妙な睨み合いは地味に続いていた───と、言うより、カイルが一方的にサーシャを目の敵にしている感は否めないのだが。
そしてそんな私達を面白そうに眺めている緋色の髪の青年を始めとするギャラリーが、新たにアールヴヘイムの好奇心旺盛な妖精たちを加えて増えてしまっていた事に気づく。
するとその中から土の妖精らしき赤いとんがり帽子の男の子が出て来たかと思うと、ワクテカな顔で私に向かって言う事には───
「エルフのおねーさん、楽しそうだからぼくも仲間に入ってもいい?」
え、何で?……もう勘弁して下さーい!
しかしそこで、勘弁ならない事態が勃発する。
魔術士ファーマンに化けていた(?)謎の老ゴブリンが移動拠点から逃走したという───
【’24/08/16 誤字脱字加筆修正しました】
親がお盆過ぎると地獄の釜の蓋が開くとか言ってくる……海とか水界隈は特におっかなくなるので、皆様お気をつけ下さいませ
【’24/10/14 誤字修正しました】
【’24/11/24 誤字修正しました】
まだまだありそな名前間違え……悶死
【’25/01/17 誤字修正しました】