リーサストール・ドレーカベイギャ【10】
「じゃ、お後よろしく!」
私は頼り甲斐のある黒ジャガーにあっさりちゃっかりすっかり下駄を預けると、迷うことなくメタリックな黒竜に向かって駆けてゆく。
「真夜、待て───って、イアン……おまっ、いい加減にしろよ!」
その睨み合う弥七と銀次君の向こう側から、自分で言うのも何だが今まで真夜に散々な目に遭わされているにも拘らず、全然懲りた様子のない聞き慣れた声が飛んでくる。
カイルとイアン───二人の力が拮抗しているのか、爆音を轟かせながら激しく取っ組み合う打撃音が辺りに響き渡っていた。
うわー、こんなの○ラゴンボールとかの世界やん……。
この二人、流石ずっと『紫炎熄滅の魔法使い』里和と行動してただけある実力の持ち主なんだな、とつくづく感じ入ってしまう。
ここまで職務に忠実で真面目だから、ヴィンセントさんはカイルを見いだして雇ったのだろうが、ある意味ホントに懲りてないし諦めが悪いのが玉に瑕と言うか、表裏一体というか───いい加減メグに愛想つかしてくれないものかな。
こんな事ばかりしてしまう私と一緒に行動してても、きっと彼にとって良い事などひとつもないだろうし。
イアンさんに至っては元々一国を背負うほどの力があって、周囲の人達が止めるのも聞かず単に里和ちゃんについてきちゃった、みたいな感じらしいけど。
そんな二人に結構な罪悪感を抱きながら、それでも私はサーシャをどうにかして助けてあげたかった。
我ながら凄く我儘だし、アールヴヘイムを住処としている者達にとっては許しがたい話以外の何ものでもないだろう。
許されなくても、憎まれても、償いが通じなくても、そこに存在させてもらう事に意味がないと言われようとも───私もそれに寄り添って黒い火竜と一緒にニウ・ヘイマールで生きてゆけるのだろうか?
下手をすると、何千年もの時の中を……。
そこでふと気づく───追いかけてる物が違うだけで、私とカイルって実は似た者同士、なのか?
それに何となくショックを覚えつつ、やっと私はスケーリーフットに似た光沢ある鱗を持った黒竜に辿り着いた。
遅くなってこめんね、サーシャ……。
私はひとつ大きく深呼吸すると、再び柄頭に大粒のホワイトオパールのついたサンザシの魔杖を黒い火竜に向け、再度ウォーターオパールが貼りついてしまった左手も添え、目を瞑り口に出さずに詠唱する。
『澄清なる陽神かつ聖泉たる女神スリスよ───罪深き魔術士よりかけられたる呪詛の冥き鎖を、その浄光の剣にて断ち切り、この地にかけられし怨讐と共に其の水面を鏡と成して彼の者達に返咒させ給え!』
やがて私の全身が青白く輝きだし、それが腕を伝って魔杖へ流れ込み、柄頭の魔鉱石から強烈な光となってメタリックな巨竜に放たれる。
シャリーーーーーン……!
繊細な破砕音を放ちながら、サーシャを縛りつけていた無数の白い光の縄のような封印も同時に解除する。
これで私の思った状態になってくれればいいんだけど。
そして次は───
今度は左手で黒い巨竜に触れながら、更にサンザシの魔杖を掲げつつ唱える。
「治療と浄化、変化の受容、願望成就……」
それとほぼ同時に淡いライムグリーンの光が私の全身から発せられ、魔鉱石が貼りついた左手を通じてメタリックブラックのドラゴンへと流れ込み、その巨体をも包み込んでゆく。
気づくとその場にいる皆が私達の方に顔を向けており、固唾を飲んで行方を見守っているようだった。
そのライムグリーンの光が黒い火竜を完全に覆うと、徐々にその巨体が縮みだす。
それに合わせて私も左手を添えたまま動いてゆき、目の前の存在の大きさに変化の無くなった時点でようやく締めの呪文を口にした。
「───安定と完了」
私達を包んでいた光も緩やかに収まり、そこでやっと私は大きくひとつ息を吐いた。
すると、視界がぐらりと揺らめいた。
張りつめていた緊張の糸が切れたのだ。
あぁ、またか……我ながらこのバランス悪い魔力の使い方、どうにかしないと。
でも私、頑張った───誰に何と言われようとも、今の自分にできる限りの力を出し切って。
「サーシャ……」
私がどうにか横たわる茶髪の竜人を確認したところで意識が途絶えた。
毎度ですが、誤字脱字加筆修正したりしてます
何とぞよしなに