リーサストール・ドレーカベイギャ【7】
黒ジャガーに乗ったまま巨大クレーターを下りてゆくと、メタリックなドラゴンの傍らの男女二人が私に向かって親しげに声を掛けてくる。
「あっ、メグさん!」
「いらして下さったんですね───お待ちしてました」
ひとりはハイティーンな風情のヒースグレーのツーブロック・ソフトモヒカンの少年で瞳の色はヘーゼル、肌も日に焼けてかかなり浅黒く、黒のランサージャケットに同じく黒の細みのボトム、そして黒のアンクルブーツという、平たく言えば着ている物が違うだけでカイルとほぼ同じ黒一辺倒のスタイルだ。
もうひとりは私と身長がさほど変わらない、前髪ぱっつんでキャラメル色のゆるふわセミロングを黒のサテンのリボンでツインテールにしたローティーンな少女で、黒目がちの大きな二重に山吹色の瞳、足元はシングルストラップで黒エナメルのおでこパンプスにレースたっぷりの白のソックス、トープのクラロリなメイド服はキャンディスリーブに白のビブカラー、全体的にフリル多めで甘めのスタイルがとても愛らしい。
「えーと……?」
向こうは一方的に私を知っている様子なのだが、真夜は地味に初対面───つまり、可愛い魔導師見習いの少女から聞いた情報からだと、恐らくこの二人は里和ちゃんの使い魔の……?
私が首を捻って黒ジャガーの背から下りていると、毎度の事ながら背後から黒髪の青年の声が補足説明してくれる。
「真夜は初対面だったな───銀次とピリカだ」
あ、やっぱそうなんだ。
里和ちゃんが話している時たま聞く名前で、確か銀次君が銀狐、ピリカちゃんがシマフクロウの化身だとライカちゃんが言ってたはずだ。
普段は里和ちゃんの指示であちこちに散っている事が多く、私がお目にかかる機会は滅多にない────確かまだ他にも従魔さんがいるという話なのだが。
本当ならもう少しコミュニケーションをとりたい所なのだけれど、今はぶっちゃけそれどころではない私なのであった。
「それで、サーシャは───」
死んだようにぴくりとも動かなくなっている黒くメタリックな火竜に私が駆け寄って行くと、その体が奇妙な蛍光イエローの膜に包まれ、更にその中で幾筋もの光のロープのようなもので地面に繋ぎ止められている事に気づく。
これは……?
私がそれに呆然と立ち尽くしていると、銀次君と思しきヒースグレーのソフトモヒカンの少年が険しい表情で口を開く。
「リワ様に命じられて私達で結界と封印を施させてもらってます───今はイアン様のお陰で無理矢理眠らせる事ができましたが、また黒い火竜が目覚めるとアールヴヘイムを破壊しようとしてしまうので……」
「そんな───里和ちゃんでもサーシャを正気に戻す事が出来ないの ⁉ 」
「はい、残念ながら……今や魔術士ファーマンの力量は、リワ様の想定を遥かに越えているらしく───そうじゃなくても今回、同時に仕掛けられたアールヴヘイム崩壊の呪詛も苛烈で……」
ツインテ前髪ぱっつんのピリカちゃんが悲しげにそう続けた。
だから里和ちゃんとヴィンセントさんは、サーシャの動きをイアンさんが取り敢えず止めた時点で早々に、アーロン様やライカちゃんなどの術者たちと合流すべくここを二人の従魔に任せ、アールヴヘイムの崩壊を阻止するべくこの場を後にしたという。
そう、なんだ───
事の重大さに絶句したまま惑乱していると、銀次君が私を睨むようにして更に言い募ってくる。
「メグさんには悪いが、オイラはこの黒い火竜にはこのまま死んでもらった方がアールヴヘイムのためになると思ってるんです」
「銀ちゃん、何言いだすの!」
「だってそうだろ? 今回どれだけの妖精たちが犠牲になったと思ってるんだよ!」
その絶叫にも似た心の吐露に、私は足元がぐらりと揺らぎ、目の前が真っ暗になる心地を味わっていた。
今までに起こった出来事が次々とフラッシュバックしてきて、どこが悪くてどう間違ってしまったのか、そんな考えが走馬灯の如く際限なくぐるぐると回りだす。
視界まで二重三重に歪み、その不気味な感覚に吐き気まで覚えた。
そのままふらふらと夢遊病者のように、困惑した表情になってそんな私を見ていた銀次君とピリカちゃんの横を抜け、封印されてしまったメタリックなドラゴンの間近まで歩いてゆく。
もしかして、私のせい……?
私がもっと早くサーシャを探し出して、助けてあげられなかったから───
土日月火とバタついておりまして、少々投稿遅くなります
またちまちま加筆修正とかしますが、何とぞよしなに願います
【’24/08/04 誤字脱字加筆修正しました】
【’24/09/10 微修正しました】