リーサストール・ドレーカベイギャ【6】
「イアンさん ⁉ 」
まだ噎せ返るほど方々から煙る中、悠然と緋色の髪の青年はこちらへ歩み寄ってくる。
そして邪気のない満面の笑顔で、私に向かって武器を持っていない左手を振ってみせた。
「よっ、真夜ちゃん! 何か遭ったとリワが言ってたが、無事で何より───大丈夫だったか?」
そう言うイアンさんはどう見ても元気そうだったのだが、念の為つい様式美的に返答してしまう日本人な私だったり……。
「お陰様で……イアンさんもお元気そうで何よりです───って言うか、黒い火竜は───サーシャはどうなってるんですか ⁉ 」
すると緋色の髪の青年は不敵な笑みをその厚めの唇に貼りつけ、すっと右手に持っていた無骨で大振りの鎚矛を掲げて喋りだす。
「やっと、オレがコレでお寝んねさせてやったよ。いや、マジ今回はすんげーしんどかった。リワとヴィンが刺すな殺すなって無茶言うしよー」
イアンさんはぶんぶんと音を立ててそのでっかい鎚矛を握った右腕を回しながら首をゴキゴキと鳴らし、独り言ちるように愚痴っぽく私に向かってそう漏らした。
その緋色の髪の青年の無念そうな様子に、美女エルフと私の兄になってしまった吟遊詩人にはファインプレーに礼を言わねばなるまい、と心底胸を撫で下ろしていた。
しかしホント、よく見ると不思議な武器だ───槌頭が4, 50cmほどの厳つい松笠状で、黒いメタリックな鱗状の鋭い棘のような出縁───というより、ほぼ鋲みたいに無数についており、何の材を使っているのか見当もつかない太めの黒いハンドルは、茶皮のレザーグリップ部分を含めて1mほどの長さのある威圧感満点の戦棍だ。
その上緋色の髪の青年自体が2m近く身長があるデカい人なので、その見た目の迫力と峻厳さは壮絶を極める。
後々聞いた話なのだが、やはり里和ちゃんがドワーフ達に依頼して製作してもらった鬼レアな武器だと知る事になるのだが───この時の私にはそんな事は二の次三の次で。
「途中でカイルが真夜ちゃんが危ないってソッコー助けに行っちまうし……って、おい!」
緋色の髪の青年の言葉が終わる前に、私は居ても立ってもいられず、ひとりでメタリックな巨竜がいると思しき場所ヘ向かって駆け出していた。
良かった、殺された訳じゃなかった───
生きてさえいてくれれば、怪我は魔法で癒やしてあげられる。
その事実に心底ほっとしながら走っていると、
「メグ、オレ様に乗れ!」
いつの間にか私の横で並走していた黒い使い魔がそう促す。
一刻も早くサーシャの所へ行きたかった私は、一も二もなくその黒ジャガーの背に飛び乗った。
そこで当然のように追いかけて来ていた黒髪の青年が、先程から懲りもせず同じ言葉を繰り返して口を挟んでくる。
「真夜、待て! 俺が安全確認してから───」
もーっ、千歩譲って過保護にも程がある!
「カイル、考え方が爺むさいっ!」
「なっ…… ⁉ 」
何故かカイルと一緒に走ってついて来ていた緋色の髪の青年は、私のその言葉に大爆笑する。
黒髪の青年は当然のように、そんなイアンさんの顎に無言でアッパーカットをお見舞いしていた。
相変わらず仲良いコンビだな、と横目でそんな二人を見ていると、私の黒い従魔がぼそっと私に忠告してくる。
「……メグ、もうちょっとカイルに優しくしてやれば?」
その意表を突く言葉に、私は目を丸くする。
えっ?
私、カイルに優しくない ⁉
って言うか、寧ろ逆だと思ってたんですが……そもそものっけから嫌われてたし。
「……心配してくれるのは有り難いんだけど、カイルの言う通りにしてたら私、身動き取れなくなる」
「そんだけメグが大事だって事なんだろ?」
「………まぁ、うん」
この辺が私が毎回もやっとする所なのだが、マーガレットさんだから、なのか、それとも───とつい考えてしまい、我ながら諦めも割り切りもド下手な性分で辟易してしまう。
考えが纏まらぬままそうこうしているうちに、まだ烟る灰色の煙の中から、メタリックな鱗を有した巨竜の姿が徐々にその威容を現し始める。
「サーシャ!」
私はその眼前の状況に青ざめる。
巨大なクレーターの真ん中に黒い火竜はぐったりと横たわっていた。
気づけばもう8月……自分では全力疾走してるつもりですが、我ながら遅筆過ぎてしにそーです
また誤字脱字加筆修正しまくるとは思いますが、何とぞよしなに
【’24/08/01 加筆修正してます】
またやらかしました……イアン久しぶりでもないやん
吊ってきます
【’24/08/08 誤字修正しました】