リーサストール・ドレーカベイギャ【5】
キィイィイィーーーーーン………!
その奇妙な金属音に私ははっとして顔を上げる。
灰色に煙るアールヴヘイムの空の彼方から、謎の赤い輝きが迫って来るのが見えた。
い、隕石……?
私が眉間に皺を寄せながら内心そんな事を思っていると、まだ私を抱えたまま一緒にそれを見上げていたカイルがぼそりと一言───
「来たな」
えっ? 何が ⁉
黒髪の青年の素っ頓狂な言葉にぎょっとする間もなく、それはますます赤く大きく輝きながら真っ直ぐに黒い巨竜に衝突した。
カッ────!
ズドォオォオォーーーーーン ‼
「サーシャ!」
耳を劈く激しい爆裂音とそこから放たれる紅の閃光に、私は悲鳴に似た声音でメタリックな火竜の名を叫ぶ。
咄嗟にカイルは私を抱き上げたまま庇うようにそちらに背を向けると、一気に熱をもった爆風が土埃を伴った瓦礫の吹雪となって私達を襲ってきた。
全く予想もつかなかった事態に呆然としていた私は防御魔法を張れなかった事に気づき、慌ててカイルに抱きつくような体勢で魔杖を持った手を伸ばし詠唱しようとしたその時だった───
「 仲間の保護と防御!」
そんな私の後ろから聞き覚えのある声がそう唱えたと同時に、眼前に蛍光グリーンの防御壁が展開し、大きな岩石が衝突するのを防いでくれていた。
自分が油断して起こった現実に身震いし、思わず伸ばしていた両手をそのまま黒髪の青年の両肩に回して抱きしめていると、その私の背を軽く叩きながら珍しく親しげな口調でカイルが私達を助けてくれた相手に声をかける。
「助かったよ、弥七」
「───だろ? オレ様を置いていくなんざ、ホントふてぇ主だよな」
私が目を丸くして黒髪の青年から身を離しながらばっと振り返ると、そこには黒い毛皮に梅花紋柄の美しい、大型のネコ科である私の使い魔が凛とした風情で立っていた。
弥七っつぁん …… ‼
その黒ジャガーの麗しい勇姿にじーんと感動しつつ、私は黒髪の青年から飛び退くようにしてその腕から解放されると、そのままの勢いで私のもふもふの従魔に抱きついてゆく。
「何で来ちゃうんだよー!」
流石の弥七も私の子供染みた態度に呆れた様子だったが、どこか嬉しそうな感じを隠そうともせず口を開いた。
「馬っ鹿、それどころじゃねーだろ。黒いドラゴン見ろよ───」
はっ───!
そうだ、サーシャ ‼
黒ジャガーに促され背後を振り返ると、少々不貞腐れた佇まいのカイルの向こうに見えるはずの巨体が、砂煙と火煙が陽炎のように立ち上る中、かき消されたかの如く見えなくなっている。
嘘っ…… ⁉
私はざぁっと血の気が引く心地を味わっていた。
と、とにかくサーシャのところに行かないと!
「弥七っつぁん、あそこまで連れてってくれる?」
「……ハイハイ、主の仰せのままに」
「待て、まだ安全かどうか───」
そのある種冷徹な黒髪の青年の言葉に、私はキッとなってそんな端正な鉄面皮を睨み上げて言い募る。
「それって、こうなるの判ってたって事だよね?」
「……どうなるかまでは判ってなかったが、あいつの事だからリワを守るためなら手加減する訳がない事までは判ってた」
だから、それを知っていたって言うと思うんだ、私は───
そう思った途端、手が勝手にすうっと動いていた。
「おーい、待て待て! 何モメてやがるんだ?」
メタリックな火竜がいると思しき煙の中から、聞き覚えのあるハイバリトンの声が飛んでくる。
そこで我に返り、振り上げてた魔杖を持った右手をぴたっと止め、声のした方へ視線を流すと、烟る砂塵から黒茶色の皮のショルダーつきレザーアーマーを着た大柄の男性が姿を現した。
そして特徴的なその緋色の髪の青年の手には元帥杖と呼ぶにはかなり厳つくて大振りの鎚矛が握られていた。
武器沼にハマってます……
また誤字脱字加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
【’24/07/31 加筆修正しました】