リーサストール・ドレーカベイギャ【4】
その間、ほんの一刹那の出来事だった。
「「「メグ───!」」」
方々から私の名を叫ぶ声が飛来する。
防げるかどうか判らないが、私は反射的に魔杖を前方に掲げながら左手を添え、必死に早口で唱えた。
「清流浄化防御!」
するとホワイトオパールの柄頭から、怒涛の水流が峻烈な渦を巻きながら放射される。
その物理的にあり得ない強悍な現象に、私は勢いを支えきれず思い切り後方に数歩よろけてしまう。
黒い火竜が放つ白炎が、私が放った噴騰する渦に衝突すると同時に、物凄い爆音を立てて辺りを熱風と蒸気の膜が猛烈に四散してゆく。
あ、熱いっ…… ⁉
今度はその熱風と蒸気に晒され、想像以上の熱さに思わず顔を伏せ呻いてしまう。
よく見ると防御魔法のシールドが、薄く蛍光グリーンに輝きながら私の周囲を包んでいるのが見えたのだが、それがなければ間違いなく私は全身火傷で見るも無残な姿になって斃れていただろう。
しかし俄に、私の周りからその強烈な熱さがすっと消失する。
はっとして自分の魔法を止め、熱さで背けていた顔を再び前方に向けると、見覚えのある蛍光ブルーの清輝な結界魔法陣が二重三重に展開して私を庇護していた。
里和ちゃん……!
さっきまで一緒にいた場所に視線を移すと、再び黒い巨竜が、私が放った光の鞭───魔法のシェマカーン鞭の黄金色の光に全身を巻かれ、身動きがまともに出来ないにも拘らず、強力な防御魔法陣に囲まれた里和ちゃんやヴィンセントさんのいる場所に向かって火炎放射を続けている。
またそちらに注意を向けさせてくれてるんだ!
そう気づいた次の瞬間、私の体をふわっと何かが後ろから攫い上げる。
「何であんたはそんな無茶ばかりするんだ……!」
予想してた以上の怒号が私の鼓膜を揺るがす。
うんわっ……!
久々に聞く黒髪の青年の怒りの声に、思わずのろまな亀よろしく身も心も竦む。
「は、早かったね」
もうお決まりのように相手に抱え上げられたまま、私が魔杖を右手で握った状態で両耳を塞ぎ、引き攣る笑顔でどうにか間近にあるカイルの白皙にそう言うと、どうやってこの状況を打破しようかぐるぐると逡巡し始める。
里和ちゃん、もうちょっと魔法解くの遅くても良かったのに───
そうこうしてる間に、私はどんどん黒い火竜から引き離されていってしまう。
あぁ、やっぱこうなるか……!
「あんたに早く仕返ししないと、ね───じゃないと、あんたは平気で俺から逃げる」
私が焦りからメタリックな巨竜に視線を奪われていると、むっとした様子のカイルの声が耳元近くに聞こえ、ぎくりとして視線を戻した先の真顔な白貌に今度は心音が跳ね上がる。
平気で逃げるって、言い方……つか、仕返し……?
今回それにイラっとした私は、胸の早鐘を相手に悟られぬよう、わざと相手の額に音が出るほど強く自分の額を突きつけ、売り言葉に買い言葉で声を上ずらせながらも頑なに言い返す。
「逃げてないし! 私は私のやれる事を最大限やらなきゃ、ニウ・ヘイマールに来た意味が───」
ない、と言う前に目の前が暗くなり、私の口を熱く柔らかい何かが覆った。
一瞬、頭が真っ白になる。
「───もう判ったから、俺にも手伝わせてくれ。それなら文句ないだろ?」
互いの額を突き合わせたまま、私が白くしてしまったその滑らかな頬を薄く赤らめ、黒髪の青年はそう宣うのだった。
じゃ、出来れば最初からそう言ってよ………仕返しって言うから……………いや、もう、何か………いいや。
つか、何だろう、そのどこか美少女を思わせる初々しさすら覚えるカイルの妙な色気は───?
そこではたとする。
もしかして、美女エルフは私がかけた魅了を面白がって解かなかったのかも知れない───いや、きっとそうだ、そうに違いない。
このタイミングでまさかの悪戯……?
こんな時に、どっちもどっちだ。
と、私ががくりと頭を垂れた時だった。
上空から猛スピードで何かが落下してきた。
うーん……何か違った方向に進んでる気が───
大幅に書き直すかもですが、何とぞよしなに願います
【’24/07/28 加筆修正しました】
どうかと思いながらこのまま加筆していこうかと……何気に迷走中です
【’25/01/07 誤字修正しました】