リーサストール・ドレーカベイギャ【3】
そんな私達のやり取りを尻目に、体半分な美女エルフは無差別に攻撃を繰り返す黒いメタリックな巨竜から私達を守るため、何度も魔法陣で光の防御壁を連発し続けていた。
不謹慎にも途轍もなくその姿は壮麗佳美で、『紫炎熄滅の魔法使い』の名に恥じぬ佇まいに思わず見惚れそうになる。
アーロン様やライカちゃんとアールヴヘイムが崩壊しないよう、他の術者達と詠唱してるって聞いてたんだけどそっちは大丈夫なんだろうか、と私が心配してしまうぐらいの激しい攻防が眼前で展開されていた。
私の体の兄であるヴィンセントさんはその里和ちゃんを補助するため、流景にリュートを奏でながら風魔法を筆頭に、周囲に黒い巨竜による火炎放射の延焼を防ぐための水魔法を同時に繰り出している。
普段の穏和で優美なヴィンセントさんからはついぞ計り知れない『石破天驚の吟遊詩人』の凄絶美技だ。
そんな周囲の爆音と熱風が襲う乱闘にそわそわしながら、私の使い魔たる黒ジャガーは、艶やかな梅花紋柄の黒い毛を逆立てて私達を諫めるように大声で割って入ってくる。
「おい、お前ら! こんな時にまたそんな痴話喧嘩してる暇ねーだろ ‼ 」
うん、判ってるんだけどね、弥七っつぁん。
私は束の間の逡巡の後、意を決して左腕を掴んで放さない黒髪の青年に向き直りざま、その左肩に右腕を掛けるようにして相手の端正な白皙に自分の顔を一気に寄せてゆく。
その私の突然の行動に虚を突かれた様子で、それでも私が倒れないようカイルは咄嗟に左手で私の背を支えてくれた───普段はツンケンしてるのに、こういうところで変に人柄の良さが出てしまう相手につい笑ってしまいそうになる。
そして互いの吐息がかかるほどに顔を寄せたところで、私は自分の口の端に薄く笑いを貼りつけると、そんな私から切れ長でブラックオパールの如き双眸を離せないでいる相手の胸に左掌を当て、囁くように呟いた。
「魅了───停止」
途端に黒髪の青年は顔色を変え、不自然な体勢で動きを止める。
「……め、メグ………卑怯、だ、ぞ………!」
流石はカイル氏、私の全力の魔法を抵抗しようとしてくるとは!───いや、こんな非常時なのに言ってみたかっただけです。
我ながら鬼あざとい真似、元の世界でやろうなんて微塵も思ったことないけど───やったところで大爆笑か大不興を買うのが関の山だろうし───所詮、世の中は見た目がある意味100%なんだろうな……綺麗な人はホント得だなとつくづく思う今日この頃。
とか、そんな卑屈なこと言ってる場合じゃーない!
「ごめんね、カイル」
正直、こんなあっさり上手くいくとは思っていなかった私は苦笑を隠せないままそう言うと、黒髪の青年の首に両手を回してぎゅっと抱きつき、そしてすぐに振り返って黒いメタリックな火竜を見据え走り出す。
「メグ!」
背後から私の黒いネコ科の従魔がついて来ようと声を上げるが、
「来ちゃ駄目!」
と、それを制す───新たに私が別な使い魔を連れていってしまうと、サーシャがどんな風になるか想像もつかない。
「里和ちゃん、カイルにかけた魔法、解いてあげてね」
通りすがりに美女エルフにそう声を掛けると、彼女は意味ありげに艶麗な笑みを浮かべウィンクする。
同性でもどきりとしてしまうその姚冶な笑顔なのだが、次の瞬間更にぞくりとし、なぜか後が怖いと感じてしまうのはこれまでの彼女との出来事を考えると致し方ない話ではあった。
と、とにかく、そんな些事にかかずらわってる訳にはいかない───
その間にも間断なく森は焼かれ、輝く黒鉄のような鱗を有した巨竜はそれに追い打ちをかけるかの如く暴れ続けている。
それを防ぐべく奮闘する里和ちゃんとヴィンセントさんに黒い火竜が気を取られているうちに、粉塵と煙が蔓延し足場も悪い中、私はどうにか悲しいぐらいの鈍足でその傍まで必死に駆け寄ってゆく。
「サーシャ、お願い! 目を覚まして ‼ 」
私はそう叫びながら、手にしていた魔杖の先から伸びる黄金色の光の鞭を振りかぶり、満身の魔力と祈りを込めて打ち下ろす───
その光の鞭───魔法のシェマカーン鞭は、唸りを上げながら黒い火竜にヒットし、触手のようにそのスケーリーフットに似た鱗に覆われた巨躯に巻きついた。
メタリックな巨竜は忽ち悲愴な咆哮を上げると、今度は私に向かって火炎を放ってきた。
また後ほど加筆修正させて下さい……もう限界
何とぞよしなに
【’24/07/25 加筆修正しました】
【’24/10/28 微修正しました】