リーサストール・ドレーカベイギャ【2】
気づくと、私に抱きついたままトランジスタグラマーな美女エルフは、右手にいつのまにか柄頭に大粒の水晶のついた魔杖を手にし、天に向かって防御魔法を放っていた。
私はそんな美女エルフの体を抱き留めながら、私達のまわりをドーム状に展開する、幾重もの蛍光ブルーの芸術的な荘厳さすら感じさせる防御魔法陣を、我知らず陶然となりながら見上げていた。
それは満天の星が煌めく宇宙空間を眺めている心地に似ていた。
その私を尻目に、里和ちゃんは私の耳元でこそりと何事か耳打ちしてくる。
「……怖い目に遭わせてばかりでごめんね。でも絶対に香月は───」
ドゴォオォオォ………ン!
今度は黒い巨竜が、まるでモーニングスターのようにその鋼鉄の如き黒い棘がたくさん生えている長い尾を、私達がいる付近に向けて大きく振り、地を薙ぐみたいに地面を刳り飛ばす。
気づくと私達はその反対側に出現しており、またもや美女エルフの瞬間移動魔法で助けられていた事を理解する。
すると、もうもうと土煙が烟る中から石や岩、木っ端などが鋭い礫となって豪雨のように襲いかかる。
それも先ほど里和ちゃんが張ってくれた強力な防御魔法により、何重もの層をなしている魔法陣が光の盾となって全て防いでくれていた。
「おーい、大丈夫か ⁉ 」
そこで私達の後方から、よく通る典雅なテノールが聞こえてきた。
何処からともなく流麗な金髪をなびかせ、リュートを抱えながらその気品あふれる麗姿を現したのは、私の兄になってしまったヴィンセントさんその人であった。
「やあ、鮮美透涼な私の妹マーガレット───こんな形だけど、再会できて私はとても嬉しいよ〜♪」
物凄く褒め過ぎな感は否めないが───いや、マーガレットさん自体は超お綺麗な方なんですが───最後の方はなぜかリュートをかき鳴らしながら、歌うようにそう言ってくれた。
私も優しく美しいヴィンセントさんにまた会うことが出来てとても嬉しかったのだが、状況がそれをなかなか許してはくれなかった。
何せ間髪入れず、黒い火竜がこちらに向かって火炎攻撃をしてきたからだ。
ところが───
華麗な私の兄はおもむろにリュートを弾きだすと、その典雅な歌声で辺りに柔らかく風を呼び込み始める。
「天つ普くニウ・ヘイマールを吹き渡り往く風の妖精達よ! その流離な繊手を以て我等を彼の火竜の忿怒の烈息より防御し、その厄災より守護せしめよ!」
ヴィンセントさんの華麗なリュート演奏と共に一気呵成に私達の周囲を暴風が吹き出し、メタリックな黒竜の怒涛のような火炎から風の壁と化して防いでくれた。
それでも防ぎきれない熱風を肌に感じながら、私は思わず叫ぶ。
「サーシャ! もうやめて ‼ 」
そして美女エルフの腕の中から抜け出ると、羽織っていたミッドナイトブルーのドルイドマントの懐から柄頭に大粒のホワイトオパールがついたサンザシの魔杖を取り出し、メタリックな黒い竜に向けて叫ぶように唱える。
「闇の中の紅き焰たるズメイに我は命ず───魔法のシェマカーン鞭を以て、彼のドラゴンを速やかに我が許へ還し給え!」
詠唱とほぼ同時に私の全身から眩い黄金色の光が輝きだした。
やがてその光が魔杖の柄頭のホワイトオパールに集結したかと思うと、その先から黄金色の光の鞭が顕現する。
そこで私がそのまま黒い火竜に近寄ろうとしたのだが、その私の左腕を背後から誰かの手がドルイドマントごと掴んで引き止めた。
はっとして振り返ると、真顔のカイルと目がか搗ち合う。
「近寄ると危険だ。今のサーシャは見境がないんだ」
「でも、ここからじゃ多分、届かない───」
「それは弓矢にはならないのか?」
その黒髪の青年の言葉に、流石に私もぎょっとする。
それってサーシャを殺せってこと…… ⁉
そんなの、絶対に嫌だ。
私は黒髪の青年をキッと睨み上げるが、彼は彼で自分の揺るぎない考えを持っているので、そんな私の甘い考えなどとうに見抜いていて、平然とした態度で私の視線を受け流している。
飽くまで私をサーシャの近くに行かせない気だな───
カイルにとっては、私や里和ちゃん、ヴィンセントさん達の身の安全と命が最優先で、サーシャの命は二の次三の次なのだ。
それなら私にだって考えがある。
すみません……暑さと睡魔と花粉症に勝てない私を許して下さい
【’24/07/24 誤字脱字加筆修正してます】