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アルフェマフトゥル【11】


一騒動(ひとそうどう)の後、私は騒乱のアールヴヘイムから私を助けに慌ててやって来た黒髪の青年と共に、ようやく再びエルフの故郷(アールヴヘイム)へとやって来ることができた。


ただ鬼のように心配だったのは、移動拠点に置いていくしかなかった魔術士ファーマンに化けていた(?)謎の老ゴブリンと、それを見張るように依頼した従魔たちだ。


でもそれも、カイルが来てくれた事である意味一気に解決していた。


一応あの拠点にはそんな事もあろうかと美女エルフが隠し地下室なんぞを(しつら)えており、そこには彼女の強力な結界魔法ががっつり張られた地下(ろう)があったりする訳で───そんじょそこらの術者がどうこうできるレベルの術式ではないのは言うまでもなく。


更に黒髪の青年によると、里和ちゃんであればこの謎の老ゴブリンの正体が見破れるのではないか、との事で。


ただひとつ引っ掛かる事は、そんなカイル氏が何となくこの老ゴブリンに心当たりがありそうな雰囲気だったという事だ───そうだと断言できないのは恐らく私同様、初めて相手に対面したからに他ならない。


いや、もしかすると、逆に心当たりがありすぎて絞りきれない可能性が……なきにしろあらず。


ともかく見た目がご老人なので、地下牢に封印魔法を施した手枷足枷(てかせあしかせ)をして放り込んであるのは倫理的にどうよ、と思われそうだが、この世界では特に見た目に左右される事に意味が全くないのは、先に私の身に起こった事態を(かんが)みれば一目瞭然(いちもくりょうぜん)な訳で───見た目が老人だからって、私にした事は全然許されないんだけども。


取り敢えず使い魔たちには見張りと尋問、移動拠点の保守をお願いして、私達は里和ちゃんが張っておいてくれた転移魔法陣からアールヴヘイムへとやって来れたのだった。


だが到着した途端、生木(なまき)や草花などの焼け焦げる匂いが辺りに充満し、思わず手で鼻を押さえてうっと(うな)る。


そして眼前に広がるエルフの故郷の惨禍(さんか)に私は絶句する。


小高い丘の上から望むその風景は、私が以前見たアールヴヘイムとはほど遠い(むご)たらしいものだった。


あの柳緑花紅(りゅうりょくかこう)な妖精たちの国が、無残にも空をも焼き尽くすような猛火になぶられていた───


よく見ると方々(ほうぼう)に大小様々の真っ暗な(うろ)(ごと)き洞穴が無数に空いており、時折(ときおり)音を立ててその(ふち)が穴の中に崩れ落ちてゆく。


う、嘘でしょ……… ⁉


あまりの凶変(きょうへん)に私が呆然(ぼうぜん)としていると、傍らの黒髪の青年がやり切れない面持(おもも)ちで溜め息混じりにぽつりと漏らした。


「こんな眺め、できれば真夜(マヨ)には見せたくなかったんだけど……」


まさか、これって───


アイラーツァの荒野で遭遇(そうぐう)した壮麗(そうれい)かつ凶暴な黒い巨体が脳裏を()ぎる。


「……サーシャが、黒い火竜(ズメイ)が?」

「………残念だが、そうだ。どんなに必死に、ヴィンが説得しようとしても、リワが魔法で動きを阻止しようとしても、駄目だった───その躊躇(ためら)いのせいもあって、被害がここまで拡大してしまったんだ」


そんな………!


私が早くあの()を助けに行かなかったから?


私の、せい ⁉


ごめん……ごめんね、サーシャ!


いや、こんな所でそんなこと悩んでても、論議しても、後悔してたって駄目だ。


哀しげに私に助けを求めていたサーシャの悲痛な声───最後に見た時の茶髪の竜人(ドラゴニュート)の淋しげな笑顔とだぶる。


迷ってる暇などないのだ。


「───私、行くね……サーシャのところへ」


そう言って傍らのカイルを見上げると、私を見ていたらしい視線とかち合い、(またた)く間に血相を変えて私の魔杖(ワンド)化した左手をぎゅっと右手で握ったかと思うと、必死の形相で叫ぶように止めに入った。


「駄目だ! 殺されるぞ ⁉」


その言葉に私は軽く笑って、黒髪の青年の首に両腕を回して抱きついた。


「ごめんね、カイル。いつも守ってくれて、ありがとう。でも私が行かなきゃ………サーシャが待ってる」


私はほっとする彼のいい匂いを胸一杯に吸い込みながら、その滑らかな皮膚をした首筋に頬ずりする。


最初は面食(めんく)らった様子で私を抱き留めていてくれたカイルだったが、私が耳(もと)でそんな風に言うのを聞いた途端、私を抱く腕に痛いほどの力が(こも)もる。


()()……何、最期(さいご)みたいな事言ってんだ───俺も一緒に行くんだよ! もう二度と、メグを……いや、こんな事で真夜(マヨ)まで失いたくないんだ」



そこで背後から微妙な怒りを含んだ声が掛かる。



「……おい、お前ら、オレ様のこと忘れてるだろ」


あ………。


はっとして声のした方を振り返ると、若草色の楔石(チタナイト)のような瞳を半眼にし、(あき)れたようにそんな私達を眺めている(ブラック)ジャガーが鎮座(ちんざ)していた。


しまった、弥七(ヤヒ)っつぁんも一緒だった!


私は慌てて黒髪の青年から身を引っ()がし、諸手(もろて)を上げながら(ふく)れっ(つら)の黒い従魔のもふもふの首根っこに抱きついてすりすりしまくる。


「モチロン、弥七(ヤシチ)にも感謝しまくってるよーっ!」

「今さら遅いわっ‼」


とか言いながら、私の背にその尻尾をぽんぽんと───少々強めではあったが───叩いてくれる優しい私の使い魔なのであった。


この時のカイルの表情は……見なかった事にする。


どっとはらい。


毎度加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに


【‘24/07/18 誤字脱字訂正かなり加筆修正しました】

私も弥七の事思い切り忘れてました……弥七、ごめんよ

【‘24/07/19 タイトル話数訂正しました】

何かもう、穴掘って埋まりたいです……読みづらさ爆発でホント申し訳ないです

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