アルフェマフトゥル【8】
※ 性的表現の苦手な方はご遠慮下さい ※
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
………今、何と?
私はその言葉が理解出来ない───と言うより、脳が理解する事を拒否しているかのようだった。
どういう意味なんだ、それは………?
私の服を引き裂いていた相手の右手を固く掴んだまま再びフリーズし、衝撃で視線が宙を泳ぐ。
自分の言葉のせいで抵抗する動きを止めた私に、魔術士ファーマンことマックス坊っちゃんはその青黒い貌を姦凶な笑みに歪ませる。
「ようやく大人しくなったな。それが賢い判断だ。無駄に痛い思いをせずに済むからな……」
陰湿にそう言いながら自分の右手から私の両手を剥がし、そのまままた床に押さえつけて私の首筋に酷薄な唇を這わせ始める。
その冷たく湿った蛭の如き気色の悪い感触にぞわっとし、忽ち私は現実に引き戻された。
気づけば恐怖心より怒りが次第に大きくなり、それと同時に口からやっと制止の言葉も飛び出していた。
「やめて……!」
ところが思っていたよりもその声は小さく掠れてしまい、それでもまだ自由に動かせる両足を躍起になってバタつかせて再度抵抗する。
緊張し続けてすっかり口が乾き、出そうとしている声が喉の奥でへばりついているかのような錯覚にまで囚われていた。
そんな私を上から眺めながら然も愉快そうに、大柄な相手はその私のか細い膝をあっさりと割って、体重を乗せながら暴れる私の動きを封じてくる。
「健気だねぇ、メグさんは───そんな真似されればされるほど興奮する変態野郎も多いんだぜ?」
??
やけに口が悪くなってきたな、このヒト……これが本性ってこと?
「それに比べてあんたの黒い火竜は素直で可愛かったよ……あんたに手を出すって言っただけであっさり身を任せたんだからな………!」
生臭い息を私の耳元で吐きかけながら、そんな使い古された脅し文句ばかり羅列する相手に、流石にそれまで私の中で吹き荒れていた臆病風がぴたりと止まっていた。
な・ん・だっ・て───?
私の中で何かが激しく音を立ててぶつりと切れた。
ふ・ざ・け・ん・な…………… ‼
そんな訳があるか!
そう心の中で叫んだ瞬間、私の左手の魔鉱石から煌めく閃光が広がり、暗く淀んで陰鬱だった空間を押し包んでゆく。
すると、私の上の魔術士と思しき人物が急に私から飛び退き、人の口からおよそ出るとは思いがたい奇怪な叫び声を上げ、体を抱えながら床を転がりだした。
よく見るとその体中から黒い煙が上がり、辺りを何か焼けるような焦げ臭さが漂い始める。
そこで私はゆっくりと立ち上がり、魔杖化している左手の甲を徐ろに掲げ、心の中で叫んだ。
『敏速の癒やしの薬師ディアン・ケヒトの名に於いて───スランジの井戸!』
その詠唱と同時に私の足許から鮮烈に水流が渦となって迸り、私の使い魔たちを包み込んでゆく。
同時に彼らに縛りつくように巻きついていた無数の赤黒い毒大蛇もその浄流に呑まれ、断末魔を上げながら蒸散するように消え去っていった。
「───真夜!」
『主……!』
その清漣な渦の中から、石化を解かれた黒ジャガーとクリーム色っぽい熊が、感嘆した様子で目を丸くして私を見つめている。
あぁ、良かった───!
それに胸を撫で下ろしつつ私は、自分の周囲から溢れ出す乳白色の光の奔流の中を、それに焼かれ煙りながら苦痛に転げ回る魔術士に向かい、魔鉱石の貼りついた左手を翳す。
詠唱を始めようとしたその時だった。
『エルフの嬢ちゃん、わしも使え───!』
資料探しに躍起になって、気づけばこの時間……今度はキタキツネが鳴いてました
また加筆修正すると思うので、何とぞよしなに願います
【’24/07/14 加筆修正しました】