アルフェマフトゥル【4】
「ご明察」
ミッシャは私の言葉に両手を軽く叩きながら、にこやかにそう宣う。
うっそ……そんなすっかりあっさりぽっくり倒されるような相手とは───
そこで私の黒い使い魔が低く唸りながら、私とミッシャの間に割って入ってくる。
「メグ、待て! スターシャを助けたい気持ちはよーっく判るが、おかしいぞ、そこのマックス坊っちゃんだかの分身野郎の言う事は」
「サーシャだよ!」
緊急時なのに思わず○嶋一哉みたいなツッコミをしてしまう私であった。
宇宙戦艦○マトじゃないんだから。
つか、前もそんな間違え方してたよね……もしかして、ワザと?
───って、とにかく、その弥七の言葉でこのミッシャの言う事にはかなり無理がある事に気づけた。
そこは私の頼りになる従魔たる黒ジャガーに感謝せねばなるまい。
もし分身君の言う通りだとしたら、今アールヴヘイムで黒い巨竜が暴れてるのってあり得ないんじゃないか、と。
「……じ、じゃあ、アールヴヘイムで今起こってる騒動って、ファーマンが倒されていたとしたら、まだ続いてるっておかしいんじゃないの?」
ところが、妙に嫌味のない笑顔をその彫りの深い面に乗せ、ミッシャは軽く肩を竦ませながら私達に向かって言い放つ。
「そんな事はないですよ。モノは呪いなんですから。生死関係なく有効な咒術など、世界中星の数ほどありますよ?」
………うぬぬ、確かにそう言われれば当にド正論だけれども。
それに反論する知識を私は持ち合わせてはいなかったが、私の中の何かが、今のミッシャは異質だと心の中で警鐘を鳴らし続けていた。
そしてその根拠のない予感は、私の場合大抵当たってしまう事が多いのだが……。
とにかく今回の騒動、マックス坊っちゃんがやってる前提で喋ってるんたけど、そこは否定しないんだね。
ならば───
「確かに、ミッシャの言う通りだけども……魔術士ファーマン───マックス坊っちゃん倒した証拠はあるの? いつ頃、どこで? 教えてくれたら信じるし、私と一緒にアールヴヘイムにサーシャや里和ちゃん達を助けに行ってもらいたいんだけど」
我ながら浮気を疑う奥さんじゃないんだから、とか思いながら一気に捲し立てる。
一刻も早くアールヴヘイムに行きたかった。
「メグ……! 馬鹿なこと言うなよ‼」
『成程、これが噂の魔術士ファーマンの分身とやらなんですか……容貌はそっくりですが、まるで写真のネガのような感じですな。面白い』
私のそのとんでもない提案に、必死に止める弥七とは対照的に引っ掛かる事を白っぽい熊が呟くように私に直接思念を送ってくる。
───ん?
そういや何でレラジェは喋らないで思念伝達ばっかしてくるんだろ?
引っ掛かる事が多過ぎて、私は頭を抱えたくなった。
早くアールヴヘイムに行きたいのに、何でこんなおかしな事態になってしまってるんだろう?
ところがそこで、ミッシャがくつくつと肩を震わせ笑い始めた。
「いや、参りましたね、どうも───」
私は首を傾げながら、その分身君の今までとはどこか違うその態度を訝しい思いで眺めていた。
参ってる暇があったら、とっとと説明してもらえると非常に有り難いんだけど。
そんな一種異質な雰囲気の中で、黒ジャガーだけが健気に私を背後に守りながら唸り続けていた。
そこで不意にミッシャの気配が変わった───
「やはりメグさんは面白い───いや、異世界から召喚されたお嬢さんとでもお呼びしましょうか?」
えっ?
私が愕然とする間も無く、ミッシャだった者から何とも形容し難いドス黒い魔力が噴き出し始めた。
そしてその口でミッシャは叫んだ───
「主、逃げて……! 私は、もう……… ‼」
しかし途中からその声は断末魔の悲鳴に変わり、頭を抱えながら悶え苦しみ前に倒れ込むと、そのスーツのジャケットの背中がバリバリと音を立てて裂け、中の褐色の皮膚からゴツゴツとしたモノが膨れ上がってくるのが見えた。
また加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
鵺の鳴く夜は恐ろしい……もとい、トラツグミが鳴いてます(笑
【24/07/07 加筆修正しました】
毎度説明不足ですみません
【’24/07/13 誤字訂正しました】