アールヴヘイム【2】
「あのー、ちょっと訊いても?」
幾筋もの蔦が絡みつく鬱蒼としたアールヴヘイムの森を歩き続けて早一時───こんな場所に王宮があるとは思えない私なのだが、里和ちゃん御一行様は全然気にしてはいない様子。
先頭に里和ちゃんの従者の蘭丸さん、美女エルフと化したらしい里和ちゃん、緋色の髪の竜騎士・イアンさん、エルフ王の甥っ子のヴィンセント氏、魔導師見習いのライカちゃん、トホホな私、殿は私を鬼威嚇した黒髪のカイルさんという並びになっている。
そんな中、里和ちゃんは生欠伸を押し殺したみたいな表情のまま私の方を一瞥し、気怠そうに返事をしてきた。
気のせいか緋色の髪の青年が、その彼女を見て一瞬だけ表情をだらしなく緩ませたように見えた。
「何───?」
「今どこへ行こうとしてるんだっけ?」
「今回お世話になったエルフの王様に会いに『光芒の宮殿』へ」
あ、間違ってなかった。
つか、思った以上に遠いかも。
その上、今更ながらみんな結構な重装備で歩いている気がする……。
所謂、中世北欧のファンタジー世界でよく見る感じの冒険者風の格好だ。
本日の里和ちゃんは豪奢な銀髪をポニーテールにして赤紫色の組み紐で結び、白のキャバリアブラウスにキャメル色の革のハンティング風ショートベスト、同じく革の濃紫の小さめのショルダーバッグを斜め掛けし、黒のデニム生地っぽい細身のボトムに太めの革ベルト、膝丈の茶革のレースアップブーツ、極めつけはフードつき黒のドルイドマントと言う出で立ち。
相変わらずおしゃれだな、とつくづく思う。
高校の頃から所謂流行りのスタイルとかを追うタイプではなかったのだが、彼女なりのポリシーがあり、常日頃から自分に合った格好を心掛けていたのを私は知っている───多少、独特感はあったが。
私は私で、何せこの世界の事は全然さっぱりすっかりちっとも判らないので、取敢えず彼女に一式任せたら───
白のサテン地に金糸で刺繍を施された、前立てと襟袖にオーガンジーのフリル多めの黒のボウタイつき立ち襟ブラウスに、黒革で太めの編み上げサッシュベルト、グレージュのベルベット生地で細めのボトムに黒の長めのキャバリエブーツ、パールホワイトのベルベット地のフードつきマントといった仕上がりになっていた。
うぉう……!
何、この湧き上がる塚感。
鬼のように抵抗はあったが、他に白のネグリジェしかなかったので黙って着ることにした、が───その時の里和ちゃんのニヤニヤは一生忘れないであろう。
私が嫌がるのを判っててやってるのだから質が悪い。
そしてその塚服(多分違)に着替えた直後、里和ちゃんに用があって偶然入って来た仏頂面のカイル某が、思い切り驚愕したままよろけていたのが印象的だった。
そんなに私が嫌いなんスかねぇ……。
「久々に可愛い香月が見られて嬉しいんでしょ?」
里和ちゃんがけたけた笑いながら、最後に私の髪を編み込んでシルバーの髪飾りをつけてくれた。
カイル某はむうっとした表情になり、何も言わずにそのまま出て行ってしまった。
「……何か里和ちゃんに用事あったんじゃないの、あの人?」
「あったんでしょうねぇ」
漸くこの美女エルフを里和ちゃんだと実感し始めた昨今、こんなシチュエーションに遭遇する度まだまだ自分がメグ───マーガレットと呼ばれる事に違和感ありまくりな私だったりするのだが。
ヴィンセントさんは気を遣って『真夜』と呼んでくれてはいるが、その都度周囲の人の微妙な反応に正直うんざりもする。
ひとつ溜息を吐き、そんな事を思い出していた矢先であった。
「あったよー、フェアリーリング」
都度壁にぶつかり、ますます遅筆になってます
またこっそり加筆修正してしまう予定です
あと遠くに出掛けなければならないので、また遅くなってしまうかもですので何卒ご容赦願います
【’23/12/11 01:02 微修正しました】
【’24/02/20 間違え修正しました】