ボウク・ドレイムュル【10】
私達はトスリッチ教アシレマ教会本部から脱出し、現在はノウード・タウンのオフィス街の一角───予め探してあった人目につきにくい場所に身を寄せていた。
そこで美女エルフが迎えに来るのを待っている訳なのだが、下手に魔法を使うとまた魔術士ファーマンに察知されて何をされるか判らないので、前もって強力な防御結界を張っていたレンタルオフィスから、小猫化した元々このアシレマの精霊である弥七に呼びに行ってもらっていた。
勿論、私があの白い無限の書庫で例の書物に呑まれて、最初に弥七が助けを呼びに行ってくれた時もここから里和ちゃん達の所へ行っている。
カイルが笑いを堪えながら、これまでの私の七転八倒を労ってくれた。
「ま、良かったんじゃないか? 随分個性的なやり方だったけど、いかにも真夜らしいオチがついて」
───それ、どう言う意味?
と、思わず某ローカルCMの○地康雄さんみたいに聞き返したくなる私であった。
そりゃ、里和ちゃんみたくスマートに(?)色んな騒動や事件を治められるに越した事はないんだけども……。
結局、私があのグロスマン家の個人情報が記された書物の中に引きずり込まれ、あそこで見た若かりし頃の魔術士ファーマンことマックス坊っちゃんは、彼がその本にかけた呪詛が具現化された現象だったのは言うまでもなく。
あれからまた、もうその必要もないのに私が例の書物の中に潜ろうと試みたのだが、やはりそもそもが魔術士の罠と言うか呪いの現象の一部であった為か───それとも私の未熟さが原因なのか───あの雪崩以降の続きを見る事は出来なかった。
それが私が召喚した堕天使たるアミーによって、結果的にレラジェの力も加わって解呪の運びとなったのだが、私の使い魔の黒ジャガー曰く、どうせ張本人である魔術士が戻って来てすぐにまた別の強烈な呪詛をかけるだろう、との事。
私はそこで弥七の言葉にはて、と首を捻る。
何か私があの本の中で見聞きしたものと、美女エルフの元一番弟子の現在の行動に乖離があるように感じたからだ。
あれって恐らく、誰かに知って欲しくて仕組まれていたのではないか、と。
だとしたら───
とは言え、黒髪の青年から言わせれば、魔法使いリワを誘き寄せるための一連の罠( 私を含む )の一部なんじゃないか、との話で。
罠、ねぇ……。
まあ、真の名を美女エルフに知られちゃ、間違いなく今度は魔術士の本体がアミーみたく簡単に首と胴体を別々にさせられるだろうし、レラジェのようにそのどちらも業火で焼き尽くして永遠に灰に帰すだろうけども。
それだけの事を、マックス坊っちゃんは既にやってしまっているのだ。
んで、私が例の書物の中で見つけた魔術士ファーマンことマクシム・ジュダ・グロスマンのトスリッチ司祭から受けた聖なる名前は、『救済者』であった。
これで魔術士ファーマンは里和ちゃんに成敗されてしまうのか……。
私が釈然としない面持ちでそんな事を考えていると、そんな私の傍らで黒髪の青年が安堵した様子で、溜め息混じりにぼそりと言葉を漏らした。
「俺としては何とか無事に終わってくれて良かったよ……とにかく、真夜が戻って来てくれて」
ん……?
私がこの世界に来てから、訳を知っている仲間だけの時は皆気を使って本名───って、言うのもおかしい気はまだするけど───で呼ぶようにしてくれていた。
でも最近はついうっかりバレてもマズいので、『メグ』や『マーガレット』でいいよ、と言ってはいるのだけど。
もう『メグ』と言われるのにも大分慣れたと言うか、ある意味馴染んできてしまったと言うか。
鏡見ても当たり前だけど本来の自分の顔じゃないし、何が自分で何が自分じゃないのか、鏡の中のメグさんが何を考えていたのか判りようもないので、自分と比べる事すら出来ない───いや、皆から聞いた話によると、優しくて聖女と呼んで差し支えないほど素敵な女性だったらしく………自分と正反対過ぎて、マジ引くし頭抱えたくなる。
もしやこれも美女エルフの復讐の一環なのかも、と思う昨今。
疑心暗鬼もここ極まれり、だ。
当の取り替え子の里和ちゃんは、自分で言い張って前の世界の名前で通してしまったらしいけど、私の兄になってしまったヴィンセントさんは私の気持ちがよく判る、とか言ってくれて、率先して真夜と呼んでくれていた。
因みに、こそっと教えてくれたヴィンセントさんの元の名は、多河克彦さんと言ってイケメンミュージシャンだったのだ───無論私も知っていたのだが、話を聞くまでは結婚しててお子さんがいたとまでは知らず……。
「もう『メグ』でいいよ。いちいち呼び方変えるの面倒臭いでしょ?」
「……だって、真夜はメグじゃないだろ」
この時期の夜の田舎道はフロントに虫が雨のように降り注ぎます……地獄(T_T)洗車しなきゃ
そんな訳でまた修正しまくると思いますが、何とぞよしなに
108話───煩悩の数だ(笑
【’24/06/14 加筆修正しました】
【’24/07/13 誤字訂正しました】
【’24/09/24 少々訂正しました】
【’25/01/07 誤字修正改行調整しました】
【’25/01/17 誤字修正しました】