ボウク・ドレイムュル【9】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たに話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
白い無限の書庫に、魔術士ファーマンこと若かりし頃のマックス坊っちゃんの絶叫が響き渡る。
レラジェの放った2本の光の矢は、驚くほど正確に魔術士の生首の二つの赤光を見事射抜いていた。
やはり当然のように、その矢が中った双眸からは青白い炎が燃え上がり、魔術士の頭全体を覆いつくす。
あぁあぁあ……………!
大小二つの青白い炎を前に私は文字通り絶句し、暫し茫然自失状態になった。
所謂、こんな『筈』じゃなかった、みたいな……弓だけに。
弓引きにしか通じず、その弓引きですら地味に引く駄洒落にもならない感慨が私の胸を満たしていた。
勿論、黒髪の青年も私の使い魔の黒ジャガーも声も無く、ぽかーんとした様子でその惨事を見守っていた。
まさか頼まれた仕事の結果も満足に出せず、その上相手にモロバレしてこんな二進も三進も行かない状況に陥るとは───
もうこれで美女エルフからの説教は確定だ……とっとと帰ってくるよう言われてたのに、私の判断ミスでカイル達までがっつり巻き込んだ挙句に要らぬ危険に晒してしまったのだ。
この先暫く私一人でなんか行動させてはもらえないだろう………うぅ、自業自得とは言え悲しすぎる。
ところが、であった。
気づけば大きな方の炎が鎮火し、その中から小さな人影がむくりと立ち上がった。
「主、ご心配お掛けして申し訳ありません。自分が迂闊だったばかりに、彼の魔術士の術中に嵌ってしまい……お見苦しい姿をお見せしてしまいました」
その聞き覚えのあるお堅い口調の少女の声にはっとし、思った以上に近くで聞こえたその方向に視線を移すと、アミーが何事も無かったかの如く恭しく頭を垂れ、いつの間にか私の足元に傅いているではないか───!
「アミー、無事だったの !?」
思わずそう声も出る───と、言うか、憑依されてても普通に喋れる事に今気づいたと言うか……ははははは。
その私にはカイルと弥七も目を見開いて反応し、どちらも安堵した表情でほっと溜め息をついていた。
毎度心配ばかりかけて申し訳ないっス……。
つか、レラジェの言う『刀背射ち』ってそう言う事か………わっ、判りづらっ。
とは言えそんな私をよそに、金髪縦ロールの少女は非常に晴れやかな表情で私を見上げて言う事には、
「はい、お陰様で。主がレラジェ大侯爵を呼んで下さった上に、御身を犠牲にしてまでワタクシめをお助け下さるとは……光栄の極みにございます」
いや、そこまで大袈裟に言われる感じの事はやってないと思うんだけれども───
「そうであるぞ、アミー殿。私の躰を造る時間と材料が全く無かったからとは言え、主はヌシの為に吾輩をこの麗しき清廉なお体に迎え入れて下すったのだぞ。己が身を何度業火に焼かれ灰と化そうとも感謝し続けるがいい」
再び私の口から不遜な調子の嗄れ声が飛び出る。
私が未熟な上に失敗を糊塗するため後先考えず、ホントはやっちゃいけないだろうその場凌ぎで悪魔と呼ばれる存在を自分に召喚憑依させてしまったのを見事仰々しくバラしてくれていた。
いやいや、レラジェさん、そこまでぶっちゃけられても私がただただ恥ずかしいだけなんですが……。
自分が自分に対して独り言のようにそう喋り倒す奇っ怪な有り様に、私は顔が一気にぶわっと熱くなるのを覚えた。
どっちかって言うと私の煩悩全開の了見が大前提な訳で。
アミーを助けたのだって単純に可哀相と思ったのも事実だけど、そもそも自分の仕事を完遂したいが為だったりするし。
無論、黒髪の青年と私の黒い従魔は苦笑いしながらそんな私の様子を生温かく見守っていた。
普段の行いが悪いから誰もフォローはしてくれない、か……フッ、孤独だ。
だかしかし───
内心がっくりと肩を落とす私に対し、金髪縦ロールの少女の口から半ば諦めていた言葉が飛び出した。
「僥倖でございます、レラジェ大侯爵。貴殿の助力もありまして、主の命令を遂行することが出来ましたぞ。感謝致す」
えっ?
マジで─── !?
そうそう悪い事ばかりは続かないし、私なりに頑張ったご褒美が悪魔と呼ばれてしまっている存在によってもたらされる事となる。
また地味に誤字脱字加筆修正してます
何とぞよしなに
【’24/06/10 誤字脱字加筆修正しました】
【’24/06/15 微加筆修正しました】