ボウク・ドレイムュル【5】
「ほーらやっぱり、自分で直に謝ったほうが良かったろ、メグ?」
そんな私達の頭上から、どこか変に陽気な渋い低音ボイスがからかうようにそう言ってくる。
ゔ、この素敵なバリトンは───
「弥七…… !! 」
私はバッと黒髪の青年から手を放し、声のした方へ上体を向けた。
そこには艶やかな梅花紋柄の毛皮を有した黒ジャガーが、私達を何だか優しげな表情で眺めていた。
後からライカちゃんに聞いた話だが、弥七が小猫の姿に戻って即行里和ちゃん達のところへ助けを求めに行ってくれたのだと言う。
「 無事で良かった!」
いつもの様にそのまま私の黒い使い魔に抱きつこうと手を伸ばすと、なぜか黒髪の青年の腕が私の胴体に巻かれたまま放してはくれなかった。
………む?
とは言え私の従魔は手の届く傍にはいてくれていたので、私は少々頑張って弥七の首元の毛皮に思い切り手を伸ばし、わしわしと撫でてその無事を喜んだ。
あー、このもふもふな触り心地……最高!
また楔石のような若草色の綺麗な瞳を見ることが出来て心底ほっとしていた。
「おっと、無事に決まってんだろ。メグがちゃんと回復防御魔法かけてくれてたからな───ってか、睨むなよ、カイル。邪魔して悪かったな」
「別に、お前なんか睨んでねーよ。生まれつきこういう目つきなんだよ───それより、ここから出るぞ」
その割にはどこか不機嫌そうな仕草でそんな私を立たせ、それから相変わらず忍者よろしく黒ずくめの服装のスレンダーな背高い体を立ち上がらせる。
そのカイル氏の言葉を聞いて私は非常に焦った。
何せ、まだマックス坊っちゃんの真の名を見つけられてはいなかったからだ。
「もう少し待って!」
「───あ? あんな目に遭って、駄目に決まってるだろうが」
うっ……言い返せない。
美女エルフからはドジ過ぎるエルフと化した私をとっとと連れて帰って来い、とお達しを受けてトスリッチ教アシレマ教会本部の入る建物内部へ、小猫姿の黒ジャガーと共に転送されて来たのだそうで。
何せかなり不気味な事に、ある意味ここまでの騒ぎになっているにも拘らず、トスリッチ教側に何の動きもない現状だ。
用心のため私達の存在がバレないよう、里和ちゃんから強力な結界魔法を施してある魔鉱石化した水晶や菫青石、針水晶、黒瑪瑙、幻影水晶等のビーズブレスレットを持たされて右手につけてはいたのだが、普段人がいるような場所じゃない上に気づかれてないにしても、怖いぐらいに静かすぎた。
とは言え、里和ちゃんの前で一人で───厳密には弥七と一緒なのだが───やれると大見え切った手前、こんな迷惑かけた挙句に手ぶらでは帰れない。
仕方ない、最後の恥ずかしい手段を使おう。
私はそのまま黒髪の青年の胸に縋りつくようにしてしがみつき、上目使いに相手の目を見つめて頼み込む。
使えるものは何でも有効的に使わなければ……!
「お願い───もうちょっとで判りそうなの!」
「………お前、ホント強くなったな」
強くならないでか!
ちょっと前だったら恥ずかしくて絶対に出来なかったあざとい行動だ。
それは決して褒め言葉では、無い───かと言って、貶している訳でも無さそうだった。
その言葉の後には『色んな意味で』がつくのも判っている 。
流石のカイル氏もかなり呆れた様子で、思わずぼそっとそう漏らした程度の言葉だったのだろう。
その証拠にと言っては何だが、私が白皙にしてしまった彼の頬が、赤く染まっているのを見逃さなかった訳で。
「仕方ないな───メグには俺も謝らなきゃならないし……今回は俺からの詫びだ。好きにしろ」
その言葉を待ってました!
私は嬉しさのあまりその勢いのまま、ばっとその黒髪の青年の長めの首根っこに飛びついた。
「許してくれてありがとう! カイルが来てくれたからすごく安心だし、私もっと頑張れる」
必ず私を助けてくれるし、護ってくれる。
今までにない私の行動パターンに、然しものカイルも想定外だったのか、珍しくよろけてそんな私の体を受けとめていた───そこで更に私が意外だった事には、彼も嬉しそうにそんな私の態度を受け入れてくれていた事だった。
うーん……これが正解、なのかなぁ?
恐らく私がマーガレットさんになれる道程はかなり遠そうだ。
斯くして、再び私は例の書物と相対する事となる───
半寝落ち状態でちゃんと書けてるか心配 ( 普段から書けて無いですかそうですか
そんな訳でまた後ほど追記とかしますので、何とぞよしなに
【’24/10/28 微修正しました】