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ボウク・ドレイムュル【4】

*続きを読んで下さっている方へ*

話がつながらないと思われた場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい

気になさらない方はそのままどうぞ



『メグ………!』



そんな私を呼ぶ聞き覚えのある声と共に、遠くの方から地鳴りのような音が響いてきた。


えっ、何─── !?


小刻(こきざ)みに揺れだす視界の中、私は慌てて周囲に視線を(めぐ)らす。


すると上空から何かがぱらぱらと降ってきた。


雪?


はっとして里和ちゃん達に視線を移すと、その音は灰色の雪雲(ゆきぐも)(かす)む斜面の向こう側から響いてきていた。


雲で全然見えなかったけど、あの斜面の先って山なんだ……!


『逃げて !! 』


過去の幻影(げんえい)に聞こえる訳がないと判っていても、思わず叫ばずにはいられなかった。


ところが偶然にも、私の声に反応するかのように美女エルフは叫ぶ。


雪崩(なだれ)……!」


(せま)り来る水流にも似た轟音(ごうおん)に、里和ちゃんはダークブロンドの少年の手を取り持っていた魔杖(ワンド)を振り上げた。


しかし(すで)にペリュトンの死骸(しがい)(ふく)め山にあったあらゆる物を呑み込み、二人の背後に雪の弾丸(だんがん)到達(とうたつ)寸前(すんぜん)になっている。


それを見たマックスは咄嗟(とっさ)に美女エルフに握られている手を引き、そのまま自分の腕の中に抱え込む───


雪崩に()まれる瞬間、それでも魔杖の柄頭を(かか)げたまま里和ちゃんは早口で詠唱する。


天災からの(ハガル)防御(アルジズ)転送(ライド) !! 」


下手(しもて)(モミ)の木にいた私も、(あせ)ってその場から飛び立つ───その途端(とたん)、私のいた木諸共(もろとも)周囲の木々も破砕音(はさいおん)を立てながら一気に雪崩に呑まれた。


その風圧と雪煙(ゆきけむり)と冷気に激しく(あお)られながら、それでもどうにか私はそこから上空に()い上がり里和ちゃん達の行方(ゆくえ)を探す。


いや、最後に転送魔法を詠唱してたから、きっと無事なはず───


土埃(つちぼこり)(にお)いが混じる雪煙が立ち込める中、私がそこを旋回(せんかい)していると不意(ふい)にざぁーっと何かが崩れだす音が聞こえてきた。


えっ、まだ雪崩れてくるの…… !?


それにしては随分(ずいぶん)乾いてさらさらした音がする。


『───真夜(メグ)!』


再び私を呼ぶ声と共にその音は(さら)に大きさを増し、頭上から降ってきている事に気づいた。


ぎくりとしてその声がした上空に顔を向けると、冬の(あわ)灰色(グレー)(けぶ)る雲の真ん中に黒く巨大な穴が開いていて、そこから風景が砂のように崩れてきていたのだ。


うそっ…… !?


愕然(がくぜん)とする間もなく、その黒い巨口(きょこう)から大きな白い手が勢いよく突き出してきたかと思うと、そのまま飛んでいた(オオタカ)をやんわりと(つか)み取り、上方(じょうほう)に一気に引き上げられてしまっていた。



×××××××××××



「………メグっ、起きろ!」


深い水中の暗い闇のような世界の中から、その声に強引に引き戻されるように明るい上の世界に浮上してくる。


はっきりしない意識のまま薄く目を開けると、目蓋(まぶた)()け目から黒髪の青年が(ひど)く青ざめた表情で私の顔を見下ろしていた。


あっれー……カイル氏?


私はぼんやりとしたままその(かな)しげな白い端正(たんせい)な顔に左手を伸ばす。


「今日は黒マスクしてないんだね……」


ぼそりと(つぶや)くようにそう言いながら、その青年の白磁(はくじ)のような(ほお)を自分の(てのひら)で包み込む。


マスクない方がいいのに───


温かで柔らかなその感触(かんしょく)に、私は段々(だんだん)意識がはっきりし始めていた。


あれっ……?

ここは、どこだ?


すると魔鉱石(ウォーターオパール)()りついている私の左手の(こう)を、黒髪の青年の白く長い指を有した右手が(おお)ってくる。


「良かった───」


カイル氏は深く溜め息をつきながら、仰向(あおむ)けで倒れていた私の体を抱き起こし、そのままきつく抱き()めてきた。


あぁ……黒髪の青年のいい(にお)いがする。


別々に行動するようになってからそんなに時間は()ってはいないはずなのに、何だか妙に懐かしかった。


そんな黒髪の青年を抱き()めながら、私はそこでようやく自分の状況を理解する。


周囲に視線を(めぐ)らすと、延々(えんえん)と長く古びた本棚が際限(さいげん)なく続く、トスリッチ教本部の謎の白い空間に戻ってきている事に気づいた。


そして里和ちゃん達がいた雪山の空の穴から伸びたあの手は、間違いなくカイル氏の手だったと、今彼の手を見て思い返していた。


助けに来てくれたんだ───あんなに(ひど)い態度とったのに。


申し訳なさで胸がいっぱいになる。


「………ごめんね、カイル……ほんとに、嫌な思いさせて、ごめんなさい」


私はそう心から謝りながら、ひとつの決心をしていた。



彼がそう望むなら、私はマーガレット・マクシェインになろう、と。



また細かく加筆修正とかすると思いますが、何とぞよしなに願います


重複表現誤字脱字訂正、加筆しました

【’24/05/27 脱字修正微加筆しました】

【’25/01/07 誤字修正改行調整しました】

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