第96話 心を込めたプレゼント
「上がりましたよー」
デザートを摂った後はきちんと片付けをし、お互いに風呂を終えた。
火照った頬を緩めた葵が、空の前に来る。
いつもなら空に背を向けて髪の手入れをされるのだが、彼女は期待を込めた瞳で空を見つめていた。
可愛らしい葵の姿に笑みを零し、傍に置いていた綺麗にラッピングされている箱を差し出す。
「お待ちかねの誕生日プレゼントだ」
「ありがとうございます! 開けていいですか!」
「勿論。というか、これから使うんだし開けないと駄目だからな」
「えへへ、ですね!」
葵がラッピングを慎重に取り除いていき、現れた二つの小物を手の平に置いた。
そのうちの一つは、美しい装飾を施された櫛だ。
部屋の照明を受けて輝く櫛を、緩んだ表情で空へと差し出してくる。
「それじゃあ、手入れをお願い致しますね!」
「任せろ」
葵から櫛を受け取り、まずは湿った金髪をドライヤーで乾かした。
その後は、受け取った櫛で髪を丁寧に梳かす。
「ふふ。誕生日プレゼントに手入れ用の櫛って、いいですね」
「喜んでくれるのは嬉しいけど、よくよく考えたら俺が一番これを使いそうだな」
見惚れる程に綺麗なセミロングの金髪は、梳かすだけでも大変だろう。
そう思って誕生日プレゼントの一つに選んだが、現在風呂上がりに葵の髪を手入れするのは空の役目なのだ。
苦笑を落とせば、葵がちらりと後ろを向いて柔らかく目を細める。
「お風呂上りにしか髪を手入れしない訳じゃないですし、せんぱいが買ってくれた物を私に使うんです。細かい事は言いっこナシですよ」
「助かる」
葵が納得しているならばそれでいいと、微笑を零して手入れを続ける。
特に問題なく手入れを終えると、次は二つ目のプレゼントだ。
こちらも葵から受け取り、艶やかになった金色の髪を纏め、そこに取り付けた。
鮮やかな蒼色のバレッタが、葵の髪に良く映える。
「ありがとうございます。二つ目のプレゼントはどうですか?」
「似合ってるし可愛いぞ。髪を纏めてるのもいいな」
これまで、葵はセミロングの髪をストレートに伸ばすだけだった。
そのせいでゲーム中等は鬱陶しそうにしている時があったので、誕生日プレゼントの二つ目に選んだのだ。
首の後ろで纏めているだけなのだが、それでも随分とイメージが変わる。
素直な感想を口にすれば、葵が嬉しそうにはにかんだ。
「ふふ、イメチェンってやつですね。こっちの方が好きですか?」
「どっちの髪形でも好きだぞ。これにはこれの良さがあるし」
「ふむ。具体的には?」
「髪を纏めてるから活発なイメージが強くなるかな。……それと、うなじが綺麗だ」
元々明るいイメージのある葵だが、髪を纏めているとそれがより強くなる。
そして普段は全く見えないうなじが見えて、妙に色っぽい。
マニアックな気がする褒め言葉に羞恥が沸き上がり、顔を逸らす。
揶揄うか怒られるかだと思ったのだが、葵は端正な顔を歓喜に彩らせた。
「せんぱいの性癖でしたか。これは新しい発見ですね」
「ドストレートに言うんじゃない」
「でも、好きなんですよね?」
「好きというか、いいなぁ、みたいな」
「それは好きと言っているようなものですよ」
くすくすと軽やかに笑った葵が、何故か空に背を向ける。
内心では引いているのかと思いきや、葵はその場から動かない。
それどころか、彼女が僅かに振り向いて楽し気に笑んだ。
「バレッタって首の後ろで纏めるだけじゃないんですよ。ポニーテールにも出来るんです」
「やれと?」
「せんぱいの好きなうなじがよく見えるんですが、しないんですか?」
「……やらせていただきます」
バレッタを一度外し、髪を纏めて先程よりも上で止める。
美しい金糸が垂れる光景も素晴らしいが、バッチリとうなじが見えていた。
空に見せつける為か葵はその場から動かず、楽し気な笑いを零す。
「どうですか? お気に召しましたか?」
「気に入ったよ。ありがとな」
「いえいえ。せんぱいがこっちに髪形を変えたい時は好きに変えてくださいね」
「……ありがとよ」
どうやら、これからは好きに髪形を弄っていいらしい。
外でポニーテールにしてもいいが、葵のいつもと違った一面を他の男に見られたくはない。
家の中だけに留めておこうと思いつつ、感想を述べてカーペットから立ち上がった。
音で判断したようで、葵も立ち上がってくるりと身を翻す。
「こんなにいっぱいプレゼントを貰えるなんて、最高の誕生日です。本当に、本当にありがとうございます!」
眩しさすら感じる笑顔に、思わず目を細めたのだった。
残り4話です。




