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第68話 再び動き出す者達

 学校中が体育祭に向けて盛り上がっていく中、空と葵は至って普通に過ごしている。

 晶や朝陽も興味無いようで、一応嫌がらせに気を付けつつも、積極的に何かをする事はない。

 そうしてあっという間に時間が過ぎていき、あと数日で体育祭となった。


「空、行こう」

「あいよ」


 放課後を知らせるベルが鳴り、いつも通り晶と共に一年生の教室へ向かおうとする。

 そんな中「皇、ちょっと待ってくれ!」という声が耳に届いた。

 声の方に視線を向ければ、去年からのクラスメイト達が居る。


「どうしたんだ?」


 嫌がらせの件で謝罪されそうになってから、彼等とは何となく気まずくてあまり会話していない。

 しかしこのタイミングで話し掛けてきたという事は、用事があるはずだ。

 取り敢えず要件を尋ねれば、空と彼等の間に晶が立つ。


「空に何の用なのさ? まさか、前のような事をするつもりじゃないよね?」

「そんな事しない! ちょっと相談というか、伝えなきゃならない事があって……」

「お願いだ、立花。皇と一度話をさせてくれ」

「頼む!」


 晶の不機嫌そうな声に臆することなく、彼等が懇願してきた。

 何だか晶に守られてるようだなと思ったが、流石に口には出さない。

 代わりに、無言かつ嫌そうな顔をしている晶の肩を軽く叩く。


「ありがとな、晶。でも、ちょっとくらい話を聞いても良いんじゃないか?」

「マジで言ってるの? はぁ……。空は優し過ぎるんだよ……」


 呆れたという風な溜息をついた晶が、空とクラスメイト達の間から退いた。

 晶に口撃されなかった事に安堵している彼等へ、苦笑を向ける。


「それで、ここで話を聞いた方が良いか?」

「いや、念の為に移動したい。……あいつらはもう出て行ったけど、万が一があるからな」


 彼等の言う「あいつら」とは空に嫌がらせをしていたクラスメイト達だろう。

 どうやら、伝えたい事というのは厄介なものらしい。

 気を引き締めつつ隣を見れば、晶が真剣な顔をしていた。


「分かった。そうなると学校の外に出る事になりそうだな。葵や和泉もついて来ると思うけど、それでもいいか?」

「お、おう。それはいいけど、俺達大丈夫だよな? 朝比奈とか和泉に文句言われないよな?」

「男が滅茶苦茶多くなるけど、怒らないでくれよ?」


 彼等は朝陽が初めて教室に来た時の事や、葵が警告した時の事を思い出しているらしい。

 また、空の恋人という事になっている葵と、晶と本当に恋人である朝陽の傍に男が居るので、空と晶が不機嫌にならないか心配しているようだ。

 青い顔をしているクラスメイトへと、苦笑を向ける。


「事情が事情だから、皆と一緒に移動しても葵達は何も言わないだろ」

「だね。それに僕や空が居ない場所で会ってる訳でもないんだし、怒らないよ」

「そ、そうか。良かった……」


 盛大に溜息をついたので、余程心配していたのだろう。

 取り敢えず話が纏まり、皆で教室を出るのだった。





 葵と朝陽を迎えに行き、それから向かったのは空が普段バイトしている喫茶店だ。

 ここに嫌がらせをしているクラスメイト達は一度も来た事がないので、話をするのにうってつけだろう。

 迎えに行ってから喫茶店に付くまで、葵と朝陽は空や晶としか会話しなかったので、クラスメイト達が少し残念そうだったが。

 店長の勝はというと、何かあると察したようでいつものように親し気に話し掛けて来なかった。


「それで、話って何だ?」

「あいつらが、体育祭で皇に嫌がらせをしようとしてるんだ」

「…………そうか」


 この約二ヶ月は大人しかったので、ついに諦めたと思っていた。しかし、実際は違ったらしい。

 呆れ気味に呟けば、隣に座っている葵が大きく息を吐き出す。


「マジですかぁ……。あれで懲りないとか、ホント救えませんねぇ。もうちょっと痛めつければ良かったかな?」

「まあまあ葵ちゃん。ああいう馬鹿は何を言っても無駄だから」

「「「は、はは……」」」


 割と遠慮のない美少女二人の毒舌に、クラスメイト達が頬を引き攣らせた。

 空と晶はとっくに慣れているので、怒りを表に出す女子二人の代わりに話を進める。


「それをどこで知ったんだ?」

「俺がこの前の休みの時に、偶々入ったファミレスであいつらと出くわしたんだよ。そこで話してた」

「で、それを俺達に伝えてくれたと。具体的な方法とかは?」

「何でも、競技中に皇と朝比奈さんを呼び出して、バケツで水をぶっかけるらしい。濡れる程度なら証拠も残らないだろって言ってた」

「まーた幼稚な事を。というか葵も標的なんだな」


 あまりにもくだらない嫌がらせに、溜息をつきたくなってしまった。

 けれど今回は空だけでなく葵も標的との事で、気を引き締める。


「ああ。少し前に酷い目に遭わされたから、仕返ししてやるってさ」

「はぁ? 先にせんぱ――空さんに手を出したのはあっちでしょう。意味分かんないです」

「それだけムカついたって事なんだろうさ。嫌がらせの理由なんて、その程度だろ。な、葵」


 顔が気に食わない。態度が気に食わない。立場が気に食わない。金を持っているのが気に食わない。そして、単に思い付きで。

 そんな事から始まるのが嫌がらせであり、虐めだ。

 そうして嫌がらせが酷くなれば、ただムカつくからというだけでそれが行われる。

 葵ならば分かるはずだとなだめれば、ふすー、と大層不満そうな鼻息が返ってきた。


「それはそうですけど、体育祭中ですよ? 学校の敷地内には生徒以外も居るんですよ? なのに嫌がらせをするなんて……」

「競技中なら校舎の隅には人が来ないし、少しの間ならグラウンドから生徒が離れてもいいからな。やるなら絶好の機会なんだろ」

「安直過ぎませんかね……」

「まあ、そうだな」


 理解出来ない、とばかりに葵が頭を振る。

 空も彼等の心境を予測はしたが、納得はしたくなかった。

 二人同時に溜息をつけば、先程から黙っていた晶が口を開く。


「でも空が居なくなったら僕が、朝比奈さんが居なくなったら朝陽が気付く。そこはどうするの?」


 晶の発言に、彼等が一瞬で申し訳なさそうな顔になった。


「その、だな。……俺達を脅して足止めさせるって言ってた」

「運動着を隠した時に黙ってたし、ちょっと脅せば言う事を聞くだろってさ」

「まさか俺達を利用するつもりだったとは思わなかったよ」

「ふぅん……。で、脅しに屈するんだ」


 一度黙っていたのだから、簡単に脅しに屈するだろう。

 無情ではあるものの、ある意味現実的な晶の言葉に彼等が大きく首を振る。


「そんな事しない! だから全員で皇達に話そうって事になったんだ!」

「どうだか。実際に脅されると、手のひら返ししそうだけど」

「晶」

「何だよ、空。僕は前の状況から――はいはい、分かったよ」


 晶を真っ直ぐに見つめれば、彼はやれやれと分かりやすく辟易へきえきしたように肩を竦めた。

 短い言葉で空の言いたい事を察してくれる友人に、小さく頭を下げる。


「さんきゅ。じゃあ、皆は俺に協力してくれるって事でいいんだよな?」

「し、信じてくれるのか?」

「俺達、一回皇を裏切ったのに?」

「何でそんなに簡単に信じてくれるんだよ」


 晶とは反対にあっさり彼等を受け入れたからか、質問攻めされてしまった。

 前回の際に相当気に病んでいたのだろうと思いつつ口を開く。


「こうして顔を突き合わせてくれるからな。だから、信じる事にしたんだ」


 中学時代は一人だったのでどうしようもなかった。

 けれど空のされている事に憤る人や、罪悪感を覚えてくれる人も居るのだ。

 そんな風に感じてくれている人を、空は突き放したくない。何よりも有難い事だと分かっているから。


「という訳で、全員で対策を考えたい。協力してくれないか?」


 空の言葉に、この場に居る全員が頷いたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 再び動き出す者達。あらやだ、なんかカッコイイ。……まあ誰が動き出すのか予想できるから内容はアレだが。空と同じ競技に参加して大差をつけて勝利する、みたいな方向性じゃないって分かるのがなんだか…
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