第39話 頼もしい友人達
葵に学校で嫌がらせを受けている事を正直に話した次の日。晶と朝陽が空の家にやってきた。
二人を家に上げるが、どちらとも――特に朝陽の元気が無い。
昨日の葵のような姿に苦笑を落としつつリビングに案内し、取り敢えずテーブルを囲んで座る。
「それで、和泉にも話したんだって?」
最初から暗い話題をするのもどうかと思ったが、今日は晶と朝陽が泊まりに来ているのだ。
先に憂いを無くしておいた方が気兼ねなく楽しめる。
今日の朝の時点で晶から連絡を受けていた内容を改めて確認すれば、晶が大きく頷き、朝陽の顔が泣きそうに歪んだ。
「うん。空は朝比奈さんに話したみたいだし、朝陽だけ仲間外れにするのは良くないからね。というか――」
「私が元凶なのに、私だけ知らないのは駄目です」
「元凶って……」
昨日、似たような話をしたなと思いつつ苦笑を浮かべる。
正直なところ、朝陽が空に話し掛けただけでやっかみを持たれる事はない。
既に晶という恋人がおり、空が眼中に無い事は他の人も理解出来るのだから。
朝陽の言葉で罪悪感が再び沸き上がったようで、昨日空と言い合った少女はばつが悪そうに顔を曇らせていた。
その姿にちくりと胸が痛むが、表に出さずに朝陽を見つめる。
「そんな訳ないだろ。朝比奈にも昨日言ったが、和泉が気に病む必要なんか無いんだ」
「でも皇先輩が目立ちたくないのに、大勢の人の前で話したのは私です。一番最初に皇先輩の生活を壊したのは私なんですよ」
「という訳で流石に謝らないのはどうかと思って、僕の方から空の現状を伝えるついでに一言言っておいた」
他人事のような態度で接されていたら流石に文句を言いたくなったが、朝陽はそんな態度など取らない。
むしろ嫌がらせをしたクラスメイト達に屈することなく、空に力を貸してくれると信じている。
とはいえ、始まりは確かに朝陽だった。それに便乗する形で葵は空と関係を持ったのだ。
ある意味、元凶と呼べなくもないのだろう。
晶も空と同じように考えたからこそ、昨日クラスメイトの謝罪を遮った時とは違い、朝陽は謝るべきだと思ったらしい。
隣から「やっぱり私も……」という声が聞こえてきたので、視線だけで葵を制して首を振る。
二人が謝罪するのは絶対に間違っているのだから。
「晶の気持ちは分かるが、和泉が気に病む必要なんかない。嫌がらせをする奴が悪いだけなんだ」
「そうかもしれません、でも――」
「和泉、いいんだ。それより、何とかして嫌がらせされないように対策したい。知恵を貸してくれないか?」
一向に引く気配のない朝陽に首を振り、強引に話を変えた。
空が謝罪を受け取らないと理解したようで、朝陽が申し訳なさを混ぜ込んだ苦笑を浮かべる。
誰が元凶かという話はそれで終わり、先程よりも空気が軽くなった。
「取り敢えず物を盗られないようにしたいけど、ずっと教室に居る訳にもいかないんだよな」
「だね。休憩時間に席を離れる時は僕と空が交代で見張れるけど、移動教室とか昼休みはそうもいかないから」
「となると、せんぱいが居ない間に物を盗られない対策ですね」
「晶くんの話だとクラスメイトの男子はアテにならないようだし、人に頼むのはダメだね」
真剣な顔で話し合う三人の姿に、胸がジンと痺れる。
この三人が友人で良かったと、心の底から思った。
「運動着を入れてるバッグを持ち歩くのは現実的じゃないし、あいつらの為に空がそんな面倒臭い事をする必要なんかない。何か案があるかな?」
「鍵を掛けるのはどうですか? クッソむかつく人達ですけど、流石に鍵を掛けてるバッグを持ち運んだり、鍵を壊す阿保な事はしないと思いますけど」
「世の中にはそんな事しないよねって思ってもする人がいるからね……。言い出したらキリが無いんだけど、もしかしたらそういう人達かも」
「皆、割とズバズバ言うよな……」
晶の口が悪いのは知っていたし、葵も口が悪くなる時があるのは知っている。
朝陽も言う時は言う人だと分かっていたが、それでも容赦がなさ過ぎだ。
話し合ってくれるのは嬉しいが苦笑を浮かべれば、三人共がきょとんとした顔になる。
「空に嫌がらせをする奴だよ? 慈悲なんている?」
「そうですよ。そんな人達に気遣う必要ありません」
「立花先輩と朝陽と全く同じです」
「頼もし過ぎるな」
普通であれば、三人を窘めなければいけないのだろう。
けれど空は聖人ではないし、嫌がらせをされればむかつきもする。
味方が居る心強さに頬を緩めると、三人共が嬉しそうに顔を綻ばせるのだった。
「さてと。話が纏まった事だし、取り敢えず行くか」
「だね」
「「はーい」」
嫌がらせ対策の話し合いは大盛り上がりし、一応の案が決まったのでお開きとなった。
昼過ぎに晶と朝陽が来たのだが、既に夕方と言っても良い時間になっている。
ちょうどいいタイミングなので、対策用の道具を揃えるついでに晩飯の材料を買う事になった。
四人でエレベーターを降り、歩きでは少し距離のあるホームセンターに向かう。
話題は嫌がらせの対策から晩飯に移っていた。
「なーんにも決めてないけど何を作る気なの、空?」
「え。まさか俺に全部任せるつもりか?」
「泊まりに来た人が晩飯を作るってどうなのさ」
「まあ、確かに」
「なら、いつも通り私が作りましょうか?」
晶や朝陽が悪い事をするとは思わないので、キッチンを使うのは構わない。
けれど空の家で晶、若しくは朝陽が主体で料理するのは違う気がした。
葵一人に任せるのも申し訳ないので、肩を竦めつつ首を振る。
「いや、いい。俺が作るから、朝比奈は手伝ってくれ」
「いつもと逆ですか。そう言えばせんぱいの料理って食べた事が無いので、楽しみです!」
「……食べさせた事、無かったな」
葵と再会した日から彼女の料理を食べてばかりだったと気が付き、頬が引き攣った。
前々からバイトがある時は葵に晩飯を作ってもらっていただけでなく、休みの日も「折角バイトが無いんですし、ゆっくりしてくださいよ」との事で、結局空は最近料理していない。
流石にいかがなものかと思ったようで、晶がじとりとした目を空に送る。
「偶には作ってあげなよ、空」
「そうだな。すまん、朝比奈」
「私が好きでやってる事なので、謝らないでください」
「それは嬉しいけど流石に申し訳ないから、これからはバイトが休みの時は俺が作るよ」
「む……。せんぱいの料理は食べたいですし、ちょっと悩みますね」
今後の予定を決めつつ、葵や晶との会話を弾ませる。
そんな中、ふと会話に混じっていない人が居るのに気が付いた。
晶の隣へと視線を送れば、朝陽が遠い目をしている。
「皆、普通に料理出来て凄いなぁ…………」
ぼそりと呟かれた言葉に、空気が固まった。
晶の方に視線を移すと、諦観に彩られた表情で首を振られる。
その意味をすぐに理解出来てしまい、葵も同じのようで慌てて彼女が朝陽の傍に行く。
「だ、大丈夫。私だって最初は失敗したから!」
「最初、だけ……? 私は何度練習しても駄目で、晶くんから禁止令が出されたくらいだよ……?」
「「……」」
朝陽には何が何でも料理させないと、葵と目を合わせて誓い合うのだった。




