表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/100

第22話 問い詰められた結果

 新学期が始まって二日目となった。

 葵とは家が隣だが、特に待ち合わせはしていないし、そんな関係でもない。

 なので時間に余裕を持って家を出て、学校へと向かう。

 暫くすると同じ制服を着た人達が増えてきたが、ちらちらと視線を向けられている。


「ま、そりゃあそうだよな。あんだけ目立ってたんだし」


 昨日は正門付近で葵や朝陽と会話していたのだ。

 沢山の人が空を見たはずだし、顔を覚えられてしまったのだろう。

 平穏な学校生活を送れなくなった事に後悔はないが、それでも気持ちは沈む。

 肩を落としながら教室に辿り着き、扉を開けた。

 すると多くの瞳が一斉に空へと向けられ、教室が一気に静かになる。


「おはよう」


 正直なところかなり気が滅入るが、それでも挨拶の声を響かせた。

 何食わぬ顔で席に向かおうとすると、一年生の時に同じクラスだった男子達に取り囲まれてしまう。


「おい皇、昨日一年生の二人と話してたよな! 説明を求める!」

「知り合いだったのか! 知り合いだったのかよ!?」

「どういう関係だ! 白状しやがれ!」

「待った、待ってくれ。一斉に話されると訳が分からないって」


 残念ながら空は大勢の人の言葉を一度に聞ける能力など持っていない。

 何とかクラスメイト達をなだめつつ、ちらりと晶の席へ視線を向ける。

 空が教室に入って来るまで大盛り上がりしていなかったので察してはいたが、彼はまだ来ていないらしい。

 おそらく、チャイムが鳴るギリギリに登校して囲まれるのを避ける為だろう。

 空もそうすれば良かったと後悔しつつ、席に向かいながら彼等の質問に答える。


「銀髪の子の方は晶の知り合いで、金髪の子はその友達なんだよ」

「成程。それは分かったが、皇と接点なんて無くないか?」

「よく分からないけど、銀髪の子が俺と話したかったらしい。晶とよく一緒に居るからってさ」


 空の口から晶と朝陽が恋人だと告げるのは野暮だ。

 朝陽が空と話したかった理由も、口にするつもりはない。


「で、金髪の子は面白そうだからって事で会話に混ざってきた」

「それって滅茶苦茶美味しい位置じゃねえか! 羨ましい! 爆発しろ!」

「ちょっと話しただけでそこまで恨まれるのか。理不尽過ぎないか?」

「あんなに可愛い子と話せただけで、俺達からすれば許されない行為だ!」

「まあ、気持ちは分かる。すまん」


 空とて、葵や朝陽のような美少女と会話する機会は無いと思っていたのだ。

 逆の立場であれば、嫉妬していただろう。

 流石に彼等のように問い詰めはしないが。

 とはいえ彼等も本気で嫉妬はしておらず、冗談の延長のようなものだ。

 本気で妬まれないのは、去年の立場の賜物たまものだろう。


「全然悪いと思ってないだろ! 畜生ー!」

「いい思いしやがって! タンスの角に小指をぶつけやがれ!」

「机でひじを打って痺れろ!」

「恨みのレベルが低すぎるだろ」


 空と葵達の接点が盛り上がりに欠けるのか、些細ささいな恨み言を言われる程度で済んだ。

 これで一応は目の敵にされないだろうと、安堵に胸を撫で下ろす。

 このままの流れでホームルームまで過ごせると思ったのだが、会話に混ざって来なかった近くの男子が「なら」と声を上げた。

 空を含む近くの男子よりも顔が整っており、隠しているつもりだろうが微笑の奥に本気の嫉妬が見え隠れしている。


「皇が一年生達と知り合えたんだし、折角だから紹介してくれないか?」

「なら伝えておくよ。その後がどうなるかまでは流石に保証出来ないけど」


 葵や朝陽の返答は分かり切っているが、一応の誠意を見せなければ目を付けられてしまう。

 空に出来る事をすると笑顔で伝えれば、溜飲りゅういんが下がったのか微笑を見せてくれた。


「おお、助かる。後で立花にも頼んでおいてくれよ」

「そういう頼み事は自分で言わないと効果が薄くなると思うぞ? 伝言ゲームって内容が少しずつ変わるみたいだし」


 平穏な学校生活が崩れたとはいえ、空はクラスメイトと敵対するつもりはない。

 だが厄介事を押し付けられるような、体の良い便利屋に甘んじるつもりもないのだ。

 唯一の例外は、晶への橋渡し役くらいだろうか。

 それとなく空の意思を主張すれば、一瞬だけ不愉快そうに顔をしかめられた。

 とはいえ一理あると思ったのか、すぐに平静な態度に戻る。


「確かにな。そうする」

「あー、その、前原。立花はそういうの断ると思うぞ?」

「そうそう。あいつ、そういう紹介役とか好きじゃないみたいだし」


 晶の性格を知っているクラスメイトが、慌てた表情で説得した。

 しかし彼は意見を曲げるつもりなどないようで、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「自分だけ良い思いをするってのか? ……決めた。絶対に紹介してもらう」


 当然のように紹介して貰えると思っている彼に、心の中で合掌がっしょうした。

 こういう類の人間は一度痛い目を見るべきだ。

 あえて何も言わずに見守っていると、近くのクラスメイトから物言いたげな視線をいただく。

 残念ながら手立てはないと首を振れば、哀れな者を見るような目で意気込む男子生徒を見つめた。

 その後は空がきちんと説明した事で、教室内が一応の落ち着きを取り戻す。

 しかしそれも長くは続かず、晶が教室に入ってきた事で再び盛り上がった。


「……おはよう」

「おう立花。おはよう」


 誰よりも早く、先程意気込んでいた男子生徒が晶に近寄る。

 にこやかな笑みを浮かべているが、明らかに張り付けたようなものだ。

 晶の性格を知っているクラスメイト達が固唾かたずを呑んで見守る中、彼等は会話を続ける。


「皇から聞いたけど、あの銀髪の子と知り合いなんだって?」

「朝陽と知り合い? ……ああ、そういう事。知り合いというか、付き合ってるよ」


 空が詳細を口にしなかった事を察しつつも、晶は予想通り朝陽との関係を暴露した。

 大胆な発言に女子は黄色い声を上げ、男子は美少女が彼氏持ちだという落胆の声を上げる。

 紹介して貰えると思っていた男子はというと、頬をひくつかせていた。


「そ、そうなのか。じゃああの金髪の子を紹介してくれよ。朝陽――だっけ? あの子の友達なんだろ?」

「は?」


 晶の目がすうっと細まり、面倒臭そうな雰囲気が剣吞なものへと変わる。

 一年生の頃に晶の歯に衣着せぬ物言いを体験した、若しくは目撃した人達が一斉に溜息をついた。


「朝陽を名前で呼んでいいのは僕だけだ。人の恋人を名前で呼ぶとか、随分無神経じゃない?」

「し、仕方ないだろ。名字を知らないんだし」

「だからって名前で呼ぶの? 少し考えれば駄目だって分かる事だろ。それとも考えられなかった? なら過度な期待を掛けて悪かったね」

「なっ!?」


 晶の口が悪いのは確かだし、こればかりは空も擁護ようご出来ない。しかし、決して的外れな指摘でもない。

 名前呼びなど個人の感性と言われればそれまでかもしれないが、頼む側の立場というものがあるのだから。

 それに恋人の名前を他の男が口にすれば、不機嫌になるのは当たり前だろう。

 朝陽と親しくない人であるならば、尚更なおさら


「生憎と、そんな人に紹介する義理はない。というか、回りくどい事なんかせず直接話に行きなよ」

「でも、立花や皇から紹介してもらった方が――」

「無下にし辛いって? そういう姑息こそくな事を考える人に、朝比奈さんがなびく訳がない。諦めた方が良いよ」

「い、言いたい放題言いやがって……!」


 少し圧を掛けてやれば、晶が怯えて発言を撤回するかもしれないと考えたのかもしれない。

 だが、その程度で意見を曲げる訳がないのだ。

 案の定、晶があざけるように唇の端を釣り上げる。


「そうやって脅せば従えられると思ってたら大間違いだ。残念だったね」

「お前ぇ!」

「殴る? それとも一旦退いて嫌がらせする? 僕はどっちでもいいよ?」


 一触即発の空気だが、晶は全く態度を変えない。

 それどころか、さあ来いと言わんばかりに両手を広げている。


「でも、絶対に仕返してやる。朝陽に手を出すなら、学校にすら居られなくしてやるからな。覚悟しろ」


 多少問題を起こした程度で、学校を辞めさせられる訳がない。

 しかし憎悪を瞳に秘め、低い声での発言には強い意志が込められていた。

 もし朝陽に何かあれば、晶は宣言通りにするだろう。

 それこそ、自分の身がどうなったとしても。


「……」


 晶の圧に押されて、今まで激昂していた男子が固まる。

 シンと静まり返った教室に、予鈴の音が鳴った。


「あぁ、朝っぱらから疲れた……」


 先程までの圧を消し、晶が自分の席へと向かう。

 その途中で空と目が合い、へらりと微笑んだ。


「やっぱり空なら僕より早く来て多少説明してくれると思ったよ。ありがと」

「……それはいいけど、この空気どうするんだよ」

「知らない」


 我関せずといった風な晶が、自分の席について荷物を整理し始める。

 固まっている男子はというと未だに立ち直れていないようで、腫れ物扱いをするように誰も話し掛けていない。

 そして腫れ物扱いされるだろう人物はもう一人居る。


「ふわぁ。ねむ……」


 呑気に欠伸を噛み殺す晶の姿に、大きな溜息をつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] さすが晶さん、好きな子の為ならなんでもできるのかっけー! [一言] いやほんと晶も言ってたけど自信あるなら自分から声かけにいけばいいのに。 やり方が姑息だから印象も悪くなるとか考えられない…
[良い点] あんだけ目立ってたんだし。二年はもちろん、三年生も空を見てどうしてそうなったと疑問が浮かんでただろうけど、新一年生からしたらもしかすると空のこと人気者の一人くらいの印象になってたりしない?…
[良い点] 初日から腫れ物扱いされるのはきついだろうなぁ… 人の恋人紹介しろはキッツいなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ