表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/100

最終話 鮮やかな花の下で

「戻ったぞ。交代だ」


 ひと悶着あったものの、すぐに晶達の所へと戻った。

 のんびりしている二人に声を掛けると、晶が申し訳なさそうに僅かだが顔を曇らせる。


「結構早く戻ってきたね。もっとゆっくり回ってもいいのに」

「いいさ。勝手が分からなくてあちこち散策した結果、戻って来れませんじゃ笑い話にもならないし」

「そう? なら遠慮なく交代させてもらうね。朝陽、行こう」

「うん。皇先輩、葵ちゃん、ありがとうございます!」

「楽しんできてねー!」


 晶達を見送り、葵とその場に腰を下ろす。

 買ってきた晩飯をビニール袋から取り出して口を付けようと思ったのだが、葵はじっとそれらを見ていた。


「どうした?」

「ねえ、せんぱい。食べさせてくれませんか?」

「了解だ。ほら、あーん」


 これまで葵に食べさせた時は、必ず家の中だった。

 今回は周囲に人が居るものの、その程度で拒否はしない。

 それに、周囲には少なからず空達のような男女で来た人が居るだろう。

 大勢のうちの一人なのだからと快諾し、手に持っていたたこ焼きを葵の口へと持って行く。

 小さな口が開き、すぐにたこ焼きを飲み込んだ。


「あふ。あふぃ、れふ」

「す、すまん。大丈夫か?」


 歩いている間に多少冷えたかと思ったが、そうでもなかったらしい。

 口をはふはふさせる葵は可愛いものの、流石に心配になる。

 とはいえ杞憂のようで、頷きが返ってきた。


「ぁい。……ん、美味しいですね」

「なら良かった」

「じゃあ次は私がしますね。ふー、ふー。はい、あーん」


 どうやら、今回は空にも食べさせるつもりらしい。

 葵が空の手からたこ焼きを受け取り、きちんと冷ましてから空の口へと持って来る。


「あーん。……美味いな」

「ですよねー。食べさせる側になるのは新鮮で、ちょっと恥ずかしいですけど」

「同感だ」


 お互いに笑いを零し、ゆっくり食べさせ合っていく。

 その間に晶と朝陽が帰ってきて茶化されたりしたものの、楽しく過ごしていると花火が打ち上がる時間になった。

 誰もが黒い夜空を見上げる中、「忘れて行きましょう」と葵が敢えて言っていた内容に触れる。


「ありがとな、葵。あいつらに言い返せてすっきりした」

「いいんですよ。というかもっと言ってやっても良かったくらいです」

「ははっ。葵は相変わらずだな」


 見た目の美少女さに反して意外と口が悪いが、そんな所も好ましい。

 この少女が居なければ、空は昔の痛みを引きったままだっただろう。

 胸を満たす温かいものをしみじみと感じていれば、隣から「……その」と気遣うような声が聞こえてくる。


「辛く、なかったですか?」

「ぶっちゃけ、全然辛くなかったよ。むしろあの時虐められた原因が分かってすっきりしたくらいだ。……葵との時間を邪魔された事は、むかついたけどな」


 空は昔の出会いに恐れていたり、あの男子を怖がっていた訳ではない。単に、顔すら見たくなかっただけだ。

 再会してしまったのならと理由を尋ね、知った後はさっさと視界から消えて欲しかった。折角の葵とのデートなのだから。

 わざとらしく唇を尖らせれば、くすくすと軽やかな笑い声が耳に届く。


「なら良かったです。結構心配だったので」

「もう大丈夫だっての。そりゃあ未だに他人を簡単には信用出来ないけど、落ち込んじゃいない」

「……ですか」

「ああでも、葵は別だぞ。あいつらと話してても、葵が俺から離れて行くって全く思ってなかったからな」


 完全に過去を乗り越えたとは言わない。それでも、葵だけは信用出来る。

 彼女はずっと、これから先も傍に居てくれるはずだ。

 けれど、その為にはもう少しだけ近付かなければならない。

 弾む心臓の鼓動を抑えつけ、ずっと待っていてくれた葵へと柔らかく笑む。


「だから、言わせてくれ。葵、好きだ」

「――」


 まさかこんなタイミングで言われるとは思わなかったのか、葵が目を大きく見開いて固まった。

 そんな彼女の綺麗な顔を、打ち上がった花火が照らす。


「お、ついにか。綺麗なもんだなぁ」


 葵から視線を逸らし、夜空に咲く花を見上げる。

 返事をこの場で聞く必要はない。前からお互いの気持ちは通じ合っていたし、今更好意を断られるとも思っていないのだから。

 今はただ、この花火を楽しむ事だけに集中する。


「……」


 腹に響く音を感じ、色とりどりの花を無言で楽しむ。

 はしゃぐのもそれはそれで良いが、空はこういう楽しみ方が好きだ。

 なので一言も声を出さずに眺めていると、シャツのすそが引っ張られる。


「うん? どうした、あお――」


 花火を見ないのかと首を彼女の方へ向けた瞬間、視界が美しい顔で占められた。

 唇にとてつもなく柔らかい物が触れ、頭が真っ白になる。

 空が完全に固まっていると、柔らかい感触が離れた。

 しっかりと見えるようになった顔は、艶やかに色づいて幸福に満ち溢れた笑顔に彩られている。


「ふふ、そういう狡い告白をするせんぱいには、おしおきです」

「……あのなぁ。こういうのって男からするもんじゃないのか?」

「別に女からしちゃいけないってルールは無いでしょう? それに、今したかったんです。駄目ですか?」


 こてんと可愛らしく首を傾げた葵は、花火に負けないくらいに魅力的だ。

 何も言い返す言葉が思いつかず、がしがしと頭を掻く。


「駄目じゃない。……これからも、よろしくな」

「はい。よろしくお願いします、せんぱい。いえ、空さん(・・・)


 随分前に催促して、「いつか」と言われていた呼び方。

 今までは、その呼び方をしなければならない時にしか口にしなかったはずだ。

 それが葵なりの覚悟の表れだと分かり、唇が弧を描く。

 あえて反応せずにいると、葵が空の肩に頭を乗せた。

 甘い香りがふわりと香り、空の心を擽る。


「綺麗ですねぇ」

「ああ、綺麗だな」


 寄り添い合いながら、花火を見上げる。

 これからも葵に振り回されながら、けれどこうしてずっと一緒に居るのだと確信を抱くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 結構早く戻ってきたね。もっと二人でのんびりしてても良かったのに、とでも言いたげだが第二のエンカウントがないとも限らないからなぁ。葵の友人(?)やら前原とばったり遭遇とか、クラスメイトの女子…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ