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大草原の石造りの碑 その2

 確かに山に向かって、北の方角に歩いてきたはず。周りに起伏がない訳でもないが、流石に一箇所しかない山地を見失うこともない。それなのに、まるで同じ場所かのようにそっくりな遺跡、しかもたどり着いた方角も同じである。おまけにしばらく前に座っていた跡まであるため、同じものが二つある可能性も限りなく低いということ。

 つまり、明らかに同じ場所に戻ってきている。異常事態だ。

「ねぇこれ……同じ場所、だよね……?」

「そうとしか……でも一体……いつの間に……?」

「私ちょっと先行って確かめてくる!!」

 途端にコマーが駆け出す。明らかに焦っているし、ただでさえそそっかしい彼女が心配だ。

「アーサーもついてってあげて。」


 この開けた草原で唯一目立つ山の方角に向かって歩いていたのに、迷ったとは到底思えない。何者かの干渉を受けているのかもしれないが、こんな瞬間移動だとか空間操作みたいな魔法は聞いたことがない。ただ、文明の遺物であろう建造物があったのも事実。この土地には我々とは全く異なる文化、魔法体系が存在するのかもしれない。

 そういえば、コマーちゃんの魔法のことについてはまだ何も聞いていなかったような。もしかすると、彼女が私を嵌めるために何かしている……とは到底思えなかった。あの陽気で素直な性格、考古学への飽くなき探究心、とても演技とは思えない。


「クラーカちゃん……!」

 背後からコマーの声がした。

「大体……2キロメートルくらい……走ったかな……。」

「はい、水。」

 彼女は渡したボトルを受け取るとグビグビと飲み干す。

 水を飲む彼女から目を離した途端、何か大きな物が高速でそばを掠めていった。驚きつつ目で追うと、あの雄牛がこちらに向かって突進してきたようだ。コマーは間一髪で避けていたが、水を零しながら激しくむせていた。アーサーは驚いて飛び上がったまま辺りを旋回している。

 この島の生物は警戒こそすれど、攻撃をしてくるようなことは今まで無かった。雄牛は過度に興奮して見境が無くなっているようには見えず、縄張りに入り込んだ外敵を排除したいといったところか。


 雄牛がふたたびこちらに顔を向ける。体勢を整えるには少しタイムラグがあるようだ。

「何!?なんで襲ってくるの!?」

 コマーが狼狽えている。

「分からない、相当興奮してるみたいだけど……。」

 雄牛は息が荒く、常に鋭くこちらを見据えており、一目見るだけで敵意が剥き出しなのが分かるほどである。

「今はとにかく、動きを止めるなりっ……!」

 喋っている最中に突進され、倒れ込む形で躱す。

「コマーちゃん何か使えるもの持ってない!?」

「猟銃なら……!でも全然撃ったことないよ!クラーカちゃんは!?」

「私飛び道具持ってない!」

 お互い焦っていながらもなんとか作戦を立てようとする。打つ手に乏しく、繰り返し突進を受ける状態では解決策は練り難い。

「ヤバいよ……!もう逃げるしかなくない!?結局ここに戻ってきちゃうっぽいけど……。」

「とりあえず距離を離さないと……!」


 荷物を回収し、一目散に駆け出す。可能な限り速く走りながら、雄牛の動きに常に気を配り攻撃を躱し続けるのは神経を削られる。何度も転びそうになりながら、足を止めずに必死に走り続けた。

 遺跡が見えなくなると、雄牛は途端に追いかけるのをやめ、引き返していった。久しぶりの全力疾走に脚に乳酸が溜まる。コマーはそこまで疲労しておらず、体格と体力の差を感じた。

「はぁ……なんとか、ケホッ……撒いた……かな……。」

「縄張りから出たのかもしれないね。ともあれ一件落着?」

 安堵と筋肉疲労で力が抜け、草地にへたり込む。アーサーが心配そうに覗き込んできたので撫でてやる。

「コマーちゃん……体力あるね……。」

「ん〜まあ、日頃からフィールドワークで駆け回ってるからかな〜。」

「しかし……これからどうするか……。」

「あ〜、結局あそこに戻っちゃうんだよね……?」

 雄牛を撒いたところで、ここから進めない事には変わりない。原因を突き止めないと進めないどころか戻ってしまうし、戻ればまた襲われる可能性だってある。

「アーサー、ちょっと周囲の様子見てきてもらえる?」

「カァ!」

 頼られて嬉しいのか、元気よく鳴いて飛び出して行った。雄牛の様子も伺いたいが、前のように誰かの攻撃を受けている可能性も潰しておきたい。仮に魔法で閉じ込められているとしたら、敵はそう遠くない場所にいるはず。

「ん〜……。」

 コマーが腑抜けたような声を出している。何かと思って彼女の方を見ると、先程のノートを見ながら頭を捻っていた。確かにあの遺跡に戻ってきてしまうのだから、遺跡の石碑やデザイン等がヒントになるかもしれない。何か掴めれば、と思い自分もノートを覗き込む。

「これってさ、牛だよね?」

 コマーが指さしたのは、柱のデザイン。地面のように横に引かれた線の上に、鳥やキツネ、草花などが描かれ、中央には大きめの牛。

「この辺は昔から牛の縄張りだったのかな。」

「でも気になるのがさ、人間はぜんっぜん描かれてないことなんだよ……。」

「……どういうこと?」

「もしかしたら、アーサーちゃんの言ってたこと、マジかも……。」

 先程は笑い飛ばした、遺跡を建てたのは人間じゃないという説。それなら、閉じ込めているのがあの雄牛かもしれないという可能性すら出てくる。

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