大草原の石造りの碑 その1
相変わらず草原ばかりを歩いている。ふたつ違うところといえば、仲間ができたことと、行く先に山が見えること。連なった山が海にまで張り出しており、海沿いに行けばかなり遠回りになるだろう。幸いそこまで高いようには見えないので、越えて行ってしまった方が楽だろうという話になった。
「今日動物多くない?」
コマーが同意を求めるようにそれとなく尋ねる。
「なんか私やたらと注目されてるみたいで……。」
「餌とかやったの?ダメだよ〜生態系のバランスに介入するのは〜。」
「してな……いや、したけどその前からなんだよね。」
見られてはいないはずなのに、昨日のことを咎められてすこし冷や汗をかいた。それにしても不思議なことに動物が多い。草原の中を駆ける音が常にどこかしらから聞こえてくるし、鳥も人馴れしていない地域とは思えないほど近づいても飛ばない。カラスが肩に乗っているから尚更警戒されそうなのにどうしてだろうか。
「あっ、えっ!?!?!?え〜〜っ!?!?」
いきなりコマーが叫び声を上げたと思いきや、どこかに駆け出して行った。
「ちょっと、待って…!速っ!?」
かなり本気で走っているのに距離が縮まらない。意外とコマーの身体能力は高いのかもしれない。アーサーに先に行ってもらいながらなんとか追いかけると、コマーが立ち止まった。
「ちょっと……ハァ……いきなりどうしたの……?」
「見てこれ、どう見ても自然物じゃ無い!!」
言われて顔を上げると、4本の石の柱らしきものが2mほどの間隔を空けて四方に立っており、そのうち2本が崩れ倒れている。屋根であったと思われる物が割れて側に落ちており、柱の中心に石碑のような物がある。
「じゃあ、昔ここには人間がいたってこと……?」
「もしくは今もいるのかも?どちらにせよ大発見だよ!!」
てっきり無人島だと思っていたこの島に、人が居たことを示す建造物。全くもってその可能性は考えていなかったが、先住民との対面も起こりうるかもしれない。彼らが攻撃的でないことを祈りたい。
(もしかしたら人間じゃないかもしれないね。)
アーサーが面白い考えを伝えてきた。本気でそう思っているかは分からないが、実際カラスだって手段さえあれば意思疎通だってできている。石造りの建物だって建てようと思えば動物でも建てられるのかもしれない。
「どしたの?」
「いやぁ、アーサーがもしかしたら建てたのは人間じゃないかもねって。」
「あはは、まあこの島の伝承だってあるにはあるし、おとぎ話みたいなことだって有り得るかもね〜。」
「ふふっ、もしそうならもっと新しいのもあるでしょ、動物ならここにだって沢山いるんだしさ。」
とは口では言ったものの、頭では少し期待している。文明を持つ動物なんて世紀の大発見間違いなし、富と名声が脳裏をチラつく。
「石碑も見たことない文字だなぁ……スケッチしとこ。」
コマーはノートとペンを取り出し、石碑や柱の紋様などを書き記していった。覗く限りではかなり精巧に描かれておりそのまま論文に載せられるクオリティであった。
遺跡の観察とスケッチを終え、気づけばもう真昼なのでそのまま昼食をとった。コマーが持参していた乾燥器を用いて、釣った鱈を干しておいたものだ。容器の中に入れた物の水分を取り除く魔法具で、かさばるため邪魔なのではないかと思っていたが、タオルの乾燥から保存食まで何でもござれの優れものだった。食事をしているとカモメ達が物欲しそうに寄ってくるのは万国共通らしいが、怒られるので食べさせてやることはしないでおく。
遺跡を後にし、引き続き草原を歩いていく。午前まではついてくる動物は草原に隠れる小動物やキツネなどであったが、今度はなんと大きな雄牛がついてきている。自分たちの斜め後ろを、一定の距離を保ってとぼとぼ歩いてきている。体格も見たことないほど大きく、鋭く立派な角が生えているためおっかなくて気が気でない。
「あれ?あの山ってあんなに遠かったっけ?」
「え?うーん、まだそんな距離歩いてないし……気のせいじゃない?」
コマーが急に妙なことを言い出した。行く先の山にはまだたどり着く気配はなく、今日歩き始めたあたりから見たサイズ感とは見比べないと分からないほどで、明日の夕方くらいまではふもとまでたどり着けなさそうな距離感だ。
「お、また遺跡があるよ!」
再びコマーの方が先に見つけたらしい。どうやら相当目がいいらしく、細かいものまでちゃんと見えているようだ。私の悩みを容易く見抜くこと、それを可能にしているのがあの目か。
今度は駆け寄ることはせず普通に歩いて向かう。見た目は先程のものとそっくりで、柱二本が折れ屋根が落ちて割れていた。
「同じタイプの建造物みたいだね〜。」
「そういう事ってよくあるの?」
「結構あるよ。石碑があることを考えると内容が繋がってるかもしれないね、まだ読めないけど……。」
と言いつつ、スケッチしようと道具を取り出すコマー。その直後、手が止まる。
「これ、書いてあるの同じだ。」
ノートと石碑を見比べると、確かに同じ文章。それどころか筆跡も同じで、紋様も見比べて違いが分からなかった。そういえば遺跡の崩れ方も全く同じに見える。
「クァー!クァー!」
焦っているのかアーサーが珍しく激しく鳴いていて、どうしたのかと思えば地面を気にしている様子。その場所に生えている草に、2人が座っていた跡、荷物を置いていた跡がくっきり残っていた。