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2-Ex2. 休憩ができたのでリゥパの回想が始まる(1/2)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「あーら、解放されたわけ? ワンちゃん」


 窓には月に照らされた白フクロウのルーヴァがいた。彼女の金色の瞳は静かにやって来たリゥパを見据える。そして、彼女はケタケタと笑いながら、リゥパにそう声をかけた。


 ルーヴァとリゥパは昔から一緒にいることが多く、部屋も同室でよく話す友達のような関係である。


「ワンちゃん言うな。と言うか、前と同じやり取りさせないでよ! そんなわけないでしょ? ちょっとばかり休憩をもらったの。また寝かせてもらえないようだから……」


「あー……ちょいちょい休憩もらうのね。ぷぷぷ……あーたも若く……」


 突如、ルーヴァの視界が何かに覆われる。それはリゥパの見事なまでのブレーン・クローだった。


「何を言おうとしたのかな?」


 ミシミシという音が出そうだ。加減はされているだろうが、フクロウであるルーヴァはそこまで頑丈ではない。


「いだだだだだだだだだだっ! ちょっと、痛いってば!」


「何て言おうとしたのかしら?」


「……若くてもムツキ様相手じゃ大変ね」


「そうなのよね。ナジュミネもヘトヘトみたいだしね」


 リゥパはブレーン・クローをやめて、ルーヴァを止まり木に戻す。


「ったく、冗談じゃないわよ」


「冗談じゃないわよ? 私はいつだって本気よ」


「そう言えば、あーた、ムツキ様との出会いもそう言っていたわね」


「そう言えば、そうかもね。懐かしいわ」




 時はムツキがこの世界に顕現した3年ほど前まで遡る。


「っ! しくじったわ」


「リゥパ、危ない!」


「ちっ!」


 リゥパは魔物退治の際に、うっかり転んでしまい、足を軽く捻挫していた。しかし、それで魔物の猛攻が止まるわけもなく、じり貧で連れ立っていたルーヴァとともに絶体絶命のピンチだった。


「……大丈夫ですか?」


 その声とともにリゥパの目に映るのは、紫髪の美男子だった。ムツキである。樹海の中だと言うのに、ビジネスカジュアルの出で立ちであり、そして、樹海に入ることは到底許されない人族だった。


 その人族であるムツキはリゥパの前で、数体の魔物を一瞬で屠った。誰の目から見ても強すぎるという一言に尽きてしまう。さらに彼女には、彼の動作の1つ1つがまるで洗練された踊りのように感じ、全てが美しい所作のように見えていた。


「あーしら助かったのね。珍しい客人に助けてもらったわー」


「はっ、そうだ、人族! どこから入ってきたの! 【マジックアロー】」


「ちょっと、リゥパ! あーしら助けてもらったのよ? それ、冗談にならないわよ」


「冗談じゃないわよ? 私はいつだって本気よ!」


 リゥパは【マジックアロー】を唱えて、いつでも撃てるように構える。魔物を一瞬で屠る男に敵うかは分からないが、樹海の守人としての矜持はある。


 しかし、打つ前に見知った姿がムツキの隣にいることに気付く。妖精王である黒猫のケットだ。そのケットが彼女に向かって、両前足と尻尾をぶんぶんと振っている。


「リゥパ、ま、待つニャ! 撃っちゃダメニャ!」


「え、ケット様?」


 リゥパは仕方なく構えを解き、ケットの名を呼んでしまう。何故、妖精族の王、ケット・シーが人族と一緒にいるのか、彼女に到底理解できることではなかった。


「この方はお客様ニャ」


「……人族なんか、どうして?」


 リゥパはムツキへの敵意をむき出しにしたまま、それを仕舞うこともせずにケットに食って掛かる。


「はじめまして、ムツキと言います」


「あーしはルーヴァよ、よろしく」


「よろしく、ルーヴァさん。白くて素敵なフクロウさんですね」


「あらま、お世辞がお上手ね。おほほ」


「…………」


 リゥパはルーヴァに、なんで人族と仲良く挨拶なんか交わしているのよ、と言わんばかりの視線を叩きつける。しかし、ルーヴァからすれば、ケットが客人と言った以上、客人の気分を害することはケットに恥をかかせることになる。彼女はそれをただただ避けているだけだった。


「ほら、リゥパさん、まずはこっちに来てください。ケガを治さないと。立てますか?」


「っ! 余計なお世話よ。自分で立てるわ!」


 リゥパは心を許していないと言わんばかりにムツキの手を拒絶する。彼女は、自分が人族なんかに一目惚れしてしまったことに頭がひどく混乱しているのだった。


「っ……」


 そう、ムツキはリゥパの好みにバッチリだったのだ。彼の整った顔立ち、ちょうどいい身長差、スタイル、そして、服の着こなし、優しそうな声、男ながら美しさも色気も出ているところまで、それは彼女の思い描いていた王子様そのものだった。


「気軽にムツキと呼んでください」


「馴れ馴れしいわね! ……リゥパよ。知っているかもしれないけれど、妖精族の中でも森の人、エルフって種族よ」


「丁寧じゃない方がいいかな? ……エルフは初めて本物を見たけど、綺麗だな」


 ムツキの何気ない一言に、リゥパは耳を優しくくすぐられたかのように感じる。


「っ! ところで、どうして、人族なのにケット様といるの? これから何をするつもりなの?」


 リゥパは頬を赤らめないようにと、自分で危機感を煽るような言葉を発する。ムツキはそれを聞いて、ケットと顔を見合わせた後に、彼女の方へと向き直ってゆっくりと口を開く。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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