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2-4. この人数での生活も数か月経つので生活スタイルが整ってきた(3/4)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「ムッちゃん、あーん」


「あーん」


 ムツキはナジュミネとともに午前の訓練を終えた後、家に帰った途端にリゥパに連れられて再び外へと出ていた。彼女は事前にケットに相談して、ランチボックスにサンドイッチとサラダを詰めてもらい、水筒にハーブティーを入れて持ってきていた。


 特にこのハーブティーは彼女だけが作り方を知る薬効のある秘密のハーブティーだった。


「美味しい?」


「あぁ、すごく美味しいよ。リゥパのこのハーブティーは何にでも合うよな。しかも、なんだか身体が軽くなる感じもする」


 ムツキはリゥパの作る秘密のハーブティーがかなり気に入っていた。


「ふふっ……そう言ってもらえると嬉しいわ。元気になるおまじないを込めているから。私もこれを飲むとホッと心が安らぐの」


 実はリゥパ自身も気付いていないが、このハーブは人族に本来の滋養強壮効果のほか催淫効果をもたらすものだった。単純な人族とは異なるムツキだからこそ影響は少ないが、一般的な人族であればひとたまりもない。


 しかし、同族のエルフやほかの妖精族にしか出したことがないので、彼女はそのことを知る由もなかった。ちなみに、魔人族にも効果が薄いのか、ナジュミネもあまり催淫効果への自覚はない。


「それに、このサンドイッチも俺の好きな具材ばっかりだし。ん? そう言えば、俺の好きな物だけなのか? リゥパは食べないのか?」


「うーん、ちょっとね?」


 ムツキが自分ばかり食べていることに気付いてリゥパに問うが、彼女は言葉を濁して、別の方向に顔を向ける。


「本当は元気がないのか?」


「違うわ。元気よ。それに、このひと時は楽しいし嬉しいわ。でも、これ以上は言わせないで」


 リゥパがはぐらかすので、ムツキは気になって仕方がなかった。


「ダイエットか?」


「……ねえ、ムッちゃん? デリカシーに欠けているわよ?」


 ムツキにはこの時、リゥパのこめかみに青筋が立ち、彼女の後ろからゴゴゴゴゴ……という音が聞こえるように錯覚した。それだけの凄みを彼女は放っている。


「ご、ごめん……でも」


「でも、そんな必要ないんじゃないか? とか言ったら、ぶっ飛ばすわよ?」


 リゥパの後ろから聞こえる幻聴は徐々に大きくなっている。今にも何かが発射しそうな勢いである。


「ぐっ……いや、でも、なあ……」


 ムツキが居心地悪そうにしていると、ふっと急にリゥパの凄みが消えて、笑顔が戻った。


「ふふっ……ムッちゃん、意地悪してごめんね? 朝ごはんを食べ過ぎたから、ちょっと調整しているだけなの。心配してくれてありがとうね」


「驚かすなよ……」


 ムツキは冷や汗が引くような感覚になる。ふっと大きく息を吐き、緊張の糸が緩む。


「えいっ」


「おわっ」


 リゥパは突如、ムツキに抱き着く。彼は仰向けに寝転ぶ形になり、その上に彼女が寄り添うようにぴたっとくっついている。


「ムッちゃん、ギュってしてー」


「どうした、急に。甘えたい気分なのか?」


 ムツキはそっと抱きしめる。さらっと流れるリゥパの艶やかな髪の毛に、彼は手櫛をするように撫でた。


「そうね。あと、抱き心地を確かめてほしいかな、って。ダイエットが必要に思う?」


「要らないだろ。最高だよ」


 ムツキは本心から話している。それが分かっているからこそ、リゥパは嬉しくもあり、少し寂しくもなる。


「ナジュミネよりもいい?」


「悪いけど、そういう比べ方はしない。俺にとって、誰かだけが1番なんてない。みんな1番だよ」


 そうムツキは選ばないし、選べない。いや、選べとなったら、選ぶだろう。しかし、彼は選ばなくてもいいことに選ぶ真似をしない。それが彼の優しさでもあり強さでもあり弱さでもある。


「……そうね。その方が喧嘩はなくていいかもね。ただ、ちょっとだけイラっとしちゃうわ。誰も聞いていないところでもそうやって、のらりくらりと言っちゃうんだから。私といる時くらい、私が1番って言えばいいのにって思っちゃう」


 嘘でもそんな言葉を聞いてみたかった。リゥパは心の片隅でそう思う。


「そんな虹色のような答えはしないさ。いつだって、俺なりに誠実に接していきたいからな」


「む。そういう話はしていないぞ」


 リゥパは顔を上げてムツキの顔を見つめながら、少し難しそうな顔をして声真似をするかのように普段と違う声を出している。


「……ナジュの真似か?」


「正解。似ていた?」


 リゥパは先ほどの会話などなかったかのように、静かに笑う。


「似ていたよ。でも、俺はリゥパらしいリゥパが好きだな」


「……そういうのを不意打ちで言うの禁止したいわね」


 リゥパはそう言って顔をムツキの胸に埋める。尖った長い耳の先まで真っ赤にしていた。


「それにしても、今日は世界樹と樹海は平和のようね」


「あぁ……アルもがんばってくれているからな」


 アルとは彼らの仲間であり、鋭く黒いツノを生やした山吹色のウサギの妖精のことである。彼はケットやクーが普段樹海にいない分、樹海の不法侵入者を取り締まる警備隊の総隊長としての役割を果たしている。もちろん、手に負えないものはムツキに連絡して、対応してもらうことになっていた。


 そして、ムツキもまた、最強であるために樹海の守護神、衛兵としての役割を担っているのだった。


「そうね……さて、と、昼ご飯を食べ終わったら、もう少しぐるっと回ってからお家に帰りましょ」


「そうだな」


 昼食を終えた2人は楽しそうに散歩をして、夕方前にはお家へと戻っていった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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