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2-1. 慣れてきていたので失敗は辛かった

第2部の始まり始まりです!

約4,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「ふわぁー」


 とある朝。20歳前後の男が大きな欠伸をしながら起き上がる。黒い瞳をとろんとさせた寝ぼけ眼で眠たげな目をゆっくりと右手でこすり、左手が紫の髪の毛をワシャワシャと掻いている。その彫刻かのように整っている顔も眠たげな表情では少し締まりが悪い。


 男の名前は、ムツキ。最強にして現在この世界で唯一の転生者である。


 彼の名前を漢字で書くと1月を意味する睦月だ。男で睦月というのも中々なさそうなものだが、前世の両親からの、誰とでも仲良くできるように、そして、尽きることが無い熱意を持ってほしい、という願いによって、至って真面目に付けられた名前である。本人もとても気に入っていて、転生後もそう名乗っている。


「眠い……」


 ムツキは眠たい目をこすりながら、ふらふらとベッドから抜け出す。髪の色と同じ紫色のパジャマはほどよく新しくほどよく馴染んでいた。ムツキは着替えようとして、ボタンに手を掛ける。


「んー……」


 しかし、ボタンが中々固くて外れないのか、眠たくて指を上手く動かせないのか、ムツキは脱ぐことができない。そして、なんとか脱げそうになった時にそれは起きた。


「にゃっ!」


「あ……」


 ベッドで寝ていた猫が起き上がって、ムツキを見た途端に鳴き声を上げるが既に遅かった。彼も黒い瞳を見せつけるように目を見開く。


バアァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!


 彼のパジャマはもちろん、下着も何もかも身に着けていたものが大きな爆発音とともに弾け飛んでしまった。猫の目の前にいるのは、引き締まった身体をした全裸の美男子だ。彼は破れかぶれなのか、妙な立ちポーズが決まっていておかしい。


「にゃ!」


 すぐさま、猫は隣に寝ていた別の猫や犬を起こして、5,6匹くらいが布団のシーツをはぎ取ってムツキの身体に器用に巻き付けていく。すると彼はまるで古代ギリシャ人のような恰好になる。立ちポーズを決めたままのその姿は、まるで彫刻のようである。


 この猫や犬たちは動物ではなく、妖精のため、二足歩行で歩くことや人語をある程度理解することもできる。そして、動物か、妖精かを見分けることがほぼできず、本人たちが隠し通せれば、気付かれることは全くない。


「久々に……やってしまった……」


「にゃー……」

「わん……」


 ムツキはようやくポーズをやめて、膝から崩れ落ちるように床に座り込む。周りの猫や犬が彼に近寄って、その肉球でぽんぽんと彼の身体を軽く叩いて慰めている。


「ありがとう。いつも、ありがとう」


 着脱不可の呪い。自分で衣服を脱ぐことができない呪い。無理に脱ごうとすると服が弾けてしまう。


 そう、ムツキは最強である代償として、さまざまな呪いがかかっていた。その呪いのすべてが日常生活に支障をきたすレベルである。故に、彼は一人で生きていけず、モフモフな妖精たちや彼の築き上げようとしているハーレムの女の子たちにお世話をしてもらわないといけなかった。


「ムッちゃん! さっきの爆発音は……な、に……何、その格好? やけにワイルドね? イメチェンでも急に始めちゃった? まあ、そんなムッちゃんも素敵よ」


 扉を開けて入ってきたのは、ムツキを愛称で呼ぶ女性だった。彼女はリゥパという名前で、白い肌と長く尖った耳が特徴的な見目の美しいエルフである。彼女は若干スレンダーな体型、瞳の色や髪の色は淡い緑色をしており、髪がショートボブで短く綺麗にまとめられている。


 そして、彼女は寝起きなのか薄緑色のベビィドールを着ており、むき出しになっているすらっとした白い手足や鎖骨が扇情的に映える。


「違う。寝ぼけて脱ごうとしたら、すべてが爆散した」


 ムツキは普段、ここまで落ち込むことはないし、弱々しいところは見せないようにしている。しかし、しばらくこの呪いを上手く回避していたという慢心と油断からの失敗により、自虐的になってしまっているようだ。


 リゥパは彼を優しく抱きしめる。彼女は彼の頭を抱え込むようにして自身の胸に寄せて、彼のさらさらの髪を梳くようにゆっくりと頭を撫でている。


「自尊心も爆散してしまったのね。よしよし、いいこ、いいこ。そんなうっかりをしちゃうムッちゃんも大好きよ。こんなことで誰もムッちゃんを嫌わないわ、私もナジュミネもユウ様も、もちろん、他の皆もね」


「旦那様! 爆発音がしたが、大丈夫か? 敵襲か? 敵はどこだ!」


 次に入ってきたのは、ムツキを旦那様と呼ぶ女性だった。彼女はナジュミネという名前で、元・炎の魔王の鬼族の女の子である。鬼族といっても、角がない種族で、肌もリゥパ同様にきめ細やかな白い肌をしている。彼女はまるで陶器の人形が動き出したかのような華麗な姿で、ウェーブの掛かっている真紅の長い髪が動くたびに、見た者に炎の揺らめきを想像させる。さらには、真紅の瞳と釣り目がちな目は、奥に秘めた意志の強さやある種の自信を表している。


 そして、彼女は、上に赤色の軍服を纏い凛々しい姿ではあるものの、胸の張り方や腰回りの大きさを見れば、スタイルの良さが容易に分かる。なお、着替えの途中で急いで来たようで、下のパステルピンクのドルフィンパンツが上着の軍服の間からチラチラと見え隠れしている。


「敵は俺自身だ……」


 ムツキの返答にナジュミネは不思議そうな顔をする。


「ん? どういうことだ?」


「ムッちゃん、寝ぼけて自分で着替えようとしたら、着ていたものがすべて爆散したらしいわ。初めて見たけど、割と勢いのある呪いみたいね……」


 リゥパが捕捉の説明をする。


「この仔たちがシーツで最低限隠れるようにしてくれたんだ。俺は自分一人で満足に着替えられない幼児レベルなんだ……」


 ムツキがひどく自虐的になっており、見かけを気にする様子もなくリゥパの胸に顔を埋めたまま、どんよりとした黒い瞳をしてナジュミネの方を向いて答えていた。


「なるほど。だから、そんな格好なのか。旦那様でもそんなうっかりをしてしまうのだな……。む。ところで、リゥパ、なんでどさくさに紛れて旦那様を抱きしめているのだ」


 ナジュミネもリゥパもムツキのハーレムの一員である。人族や妖精族の多くは一夫一妻制を採用しているが、魔人族は原則として多夫多妻制を導入している。魔人族の中の種族によって異なりはするものの、概ね多夫多妻の制度は認められている。


 ムツキは人族であるものの、多夫多妻制度があるこの世界で男の夢である一夫多妻のハーレムを目指して邁進中だった。


 なお、ナジュミネは第二夫人であり、リゥパは第三夫人という位置付けになる。また、彼の第一夫人はこの世界の創世神である女神だった。


「ムッちゃんを慰めてあげているのよ。自尊心も爆散しているみたいだから、放っておけなくてね」

ムツキはなされるがままになっていた。彼はリゥパになでなでをされ続けている。ナジュミネの嫉妬の炎が少しばかり灯る。


「そうか。それなら、妾もその役を買って出よう」


「こういうのは早い者勝ちじゃない?」


 第二夫人、第三夫人という順番はあって、対外的には順位があるものの、実際のところはそこに上下の格差などはない。つまり、お互いに平等であり、優位はない。


「むむ。それはズルいぞ」


 ナジュミネはリゥパと反対側からムツキを抱き寄せる。自分の強みを生かそうとして、ナジュミネは少し強引に行動する。


「っ! ズルくないわよ。と言うか、ズルいって言うなら、ナジュミネ! 私よりもアレの回数が多いじゃない! 少しは譲りなさいよ!」


「それは……反論できない……が、減らすのも嫌だ……」


 リゥパはムツキから離れ、少し声を張り上げながら、ナジュミネも彼から離れるように誘導する。ナジュミネは自分が彼女のことをズルいと言った手前、彼を抱き寄せ続けることもしづらく、仕方なくリゥパの目の前に立つ。


「にゃー」

「わん! わん!」


 再びモフモフたちがムツキに優しく寄り添う。その時、突然、彼の頭上から幼女が現れる。彼女は彼の大きな背中にダイブする。それは、まるでおんぶをねだる子どものようだった。


「ムツキ、また寝ぼけて服を着替えようとしたの? よしよし、あの2人は夢中みたいだから、ここは私が慰めてあげるわ。いいこ、いいこ」


 幼女の名前はユウ。彼女はこの世界の唯一神である女神ユースアウィス。ムツキの第一夫人でもある。


 ユウは白いナイトキャップに薄青色の寝間着姿で現れた。背中が隠れるくらいの長い金髪に透き通るような白い肌をしていて、ぱっちりなお目目の中には綺麗な青い瞳がその存在感を主張している。お人形さんと呼ばれても遜色ないほど、理想的で綺麗な姿である。


 しかし、幼女の姿に騙されてはいけない。彼女は神であるが故に、どのような姿にも変わることができ、実年齢は……。


「年齢は言っちゃダメ!」


「どうした? 急に」


「何でもないよ♪」


 そして、ユウは地の文を察知した上で、介入できるほどの力を有している。そのため、彼女の年齢を伝えることはできない。


「ところで、【テレポーテーション】で現れるなよ」


 ムツキは少しずつ元気になってきて、ユウに小言が言える程度に回復した。


「ムツキに教えてもらえたこれ、便利よね。私とムツキくらいしか使えないのがちょうどいい感じよね」


 ユウはムツキの小言を意に介していないようで、ニコニコと綺麗な笑顔で自分の話を淡々と続ける。


「半分も話を聞いてないな?」


「都合のいいことしか聞かないよ?」


 ユウは眩しいくらいの満面の笑みである。


「自分の芯が強すぎるだろ……」


 ムツキは呆れ返ったが、神様とはそういうものでもないと務まらないのかもしれないと思うと、強く言うことができなかった。


「いいこ、いいこ」


「もう大丈夫だ。みんな、ありがとう。」


 ムツキが元気を取り戻したので、リゥパ、ナジュミネ、ユウは自室へと戻る。彼は、猫や犬に着替えさせてもらった後、食事を取るために1階へと降りていくのだった。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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