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1-5. 珍しく来客だと思ったらハーレム候補の魔王だった(1/3)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 人族の軍隊を追い払ってから数日が経とうしている頃、ムツキは魔人族の城下町へ買い物に来ていた。レンガ造りの街並みに彼は異国情緒を感じる。


「そこそこになったな」


 ムツキは普段と異なる旅人の服といった感じの安い綿や革でできている服装をしている。彼はスローライフで収穫したものや戦いから得た武器や矢を売り、そのお金で必要な雑貨や農具などを買いに来たのだ。そのため、いつものビジネスカジュアルのような服装では目立ってしまうために着替えている。


「……おじさん、これはどういうものなんだ? 見たところ、穴の開いた箱のようだが」


「兄ちゃん、お目が高いね。これは、ここに魔石を入れると、中にある風属性発生機と水属性発生機が稼働して、部屋に適度な潤いと爽やかな風を提供してくれるんだ。乾燥しやすい時期や地域では重宝されている魔道具さ」


「ほー。試しに買ってみるか」


「毎度あり! おまけでお試し用の小さな魔石をつけちゃうよ! 今後もごひいきに!」


 樹海の妖精族たちは、敵対心のない獣人族や半獣人族たちとの交流が少しばかりあるものの、魔人族や人族との交流が一切ない。そのため、魔人族が作る魔道具や人族が作る道具については、中々手に入れることができない。


 ムツキであれば、見た目は少しばかり変装すればどちらにも見えるので、彼は買い物役を自ら買っているのだ。


 ただし、珍しいもの好きが災いして、多少、無駄遣いもしてしまう。


「自分にできることをやる、だからな」


 ムツキは送風機能付き加湿器のような魔道具を購入し、その後、薬用の空き瓶をいくつかと肥料も必要なだけ購入する。


「そろそろ、買い物は終わったかな」


 昼過ぎの活気はまだまだ続いている。魔人族にはいろいろな種族がおり、いろいろな色の違いはもちろん、体格や腕や脚の本数が異なるものもいて様々である。


「そこのお方」


「もしかして、俺……じゃなくて、私ですか?」


 ムツキは突然呼び止められて、ドキッとしてしまう。変装がバレたのか、と勘繰る。


 目の前には、髭をたっぷりとたくわえた老人が立っていた。老人は少しばかりみすぼらしい風体で灰色のローブを纏って、ローブのフードを目深に被っている。そのフードの奥底に光る紅い目がやけに映えている。


「はい。少し他の者と違うように見えましてな。旅人さんですかな?」


「まあ、そんなとこですかね」


 ムツキがそう答えると、老人はフードを外して、見事な白髪とともに嬉しそうに笑った。


「なるほど。旅人さんは運が良い。10分ほど待つと魔王ナジュミネ様が城下町の視察ということで、近衛兵たちとともに練り歩かれる。炎属性を使わせれば最強とも謳われ、それに……」


「それに?」


「絶世の美女なんじゃ」


「見よう。ぜひ、見よう。ありがとう。本当にありがとう!」


 ムツキは今まで買い物をさっさと済ませていたので、魔王を見る機会がなかった。しかし、絶世の美女と言われて見ないわけにもいかない。


 彼がワクワクしながら、老人の横で雑談を続けながら待っていると、たしかに10分ぐらいで、奥の方から物々しい集団が現れた。武装した近衛兵の列と魔王の行進である。


「……すごい、あれが」


 ムツキからは語彙が消え去っていた。


 炎の魔王ナジュミネ。老人が言っていたように、絶世の美女に間違いなかった。


 まるで陶器の人形が動き出したかのような華麗な姿で、真紅のウェーブが掛かった長い髪が動くたびに、見た者には炎の揺らめきを想像させる。さらには、真紅の瞳と釣り目がちな目は奥に秘めた意志の強さやある種の自信を垣間見せていた。


 彼女は肌を極力見せない軍服に軽甲冑を組み合わせたような姿ではあるものの、彼女の特注品であるその鎧の胸の張り方や腰回りの大きさを見れば、スタイルの良さは容易に想像がつく。


「旅人さんには、ちと残念かもしれんのう。今日は戦闘服じゃ。たまにドレス姿もあるが、あれは儂には刺激が強すぎる」


 老人はぶるっと身を震わせた。


「いや、俺もこれでも十分すぎるくらいだ。ドレス姿はさぞ美しいのだろう」


 ムツキは絵画に描かれるようなナジュミネのドレス姿を想像した。


「もちろんだとも。魔人族の中でも5本指には入る!」


「なんだと、ナジュミネ様のような方が他に4人もいるというのか!」


 ムツキは老人に合わせて、ナジュミネに様付けをする。魔人族に変装しているのだから、魔王に敬意を払うのは当然の対応だ。


「そうだとも。それぞれ方向性が異なるが、いずれも美女、美少女に間違いない。そして……」


「そして?」


「いずれもフリーだ」


「……夢をありがとうっ!」


「はっはっは。旅人さん、こんな老人に付き合ってくれてありがとう。また機会があれば会いましょう」


 老人が手を差し出し、ムツキも手を伸ばして固い握手を行った。


「こちらこそ、ありがとう。この町にはたまに来るから、その時にはぜひとも」


 そうして、ムツキと老人は別れた。ムツキはその後、絶世の美女に興奮冷めやらぬままに【テレポーテーション】で帰宅した。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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