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【完結】最強転生者のゆかいなスローライフ生活 ~最強なので戦いに巻き込まれるけれど、意地でモフモフとハーレム付きのスローライフにしがみつく!~  作者: 茉莉多 真遊人
第1部3章 森人(エルフ)の姫リゥパの登場

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1-34. 世界樹がいつもと同じだと思ったら少し変だった(4/5)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「ムツキ様、とりあえず、そいつを世界樹から引き剥がして、地上に落として!」


 ルーヴァは大蛇ヤクルスの口の中から飛び出し、少し離れた場所からムツキに向かってそう叫んだ。これ以上、魔物の負の魔力を世界樹に近付けたくなかったからだ。


「了解っと! 【スリップ】!」


 ムツキがヤクルスの身体を振り回すと、ヤクルスの身体は【スリップ】により滑りやすくなっており、巻き付いていたはずの世界樹からいとも簡単に離されていく。


「なに?!」


「そのまま落とすぞ! おらっ!【テレポーテーション】」


 ムツキは思い切り下に投げつけ、自身は地上まで【テレポーテーション】で一瞬にして移動する。地上にはリゥパ、ナジュ、アルが臨戦態勢で待ち構えており、ほかの妖精たちは既に避難していた。


「ムッちゃん!」

「旦那様!」

「マイロード!」


 3人はムツキに気付き、それぞれが声を上げる。ムツキはそれらに返事をすることなく、そのまま続けて叫ぶ。


「全員伏せろ! 【ウィンドウォール】」


 ムツキは頭上に向かって、風の壁を生成する。風は流れを作り、世界樹から樹海の方へと強風を吹いている。そこにやってきたのは先ほど投げ落とされたヤクルスだった。強風によって、その巨躯は樹海の数本の木をなぎ倒しながら倒れ込む。


「ぐっ……人族か、魔人族かは知らんが、中々にやるな……」


 ヤクルスは起き上がり、舌をチロチロと出し、ムツキを警戒している。大蛇はとぐろを巻いて、臨戦態勢に入る。


「ムッちゃん……あれは蛇? やけに大きいけど。」


 リゥパは蛇をよく森で見かけるからか、大きい以外の興味はさしてなさそうにしている。


「みたいだな……最初は小さかったんだろうが、世界樹の正の魔力を吸って、負の魔力にしつつ、あんなに大きくなったみたいだな。ん? ナジュ?」


 ナジュミネはムツキの袖を引っ張り、ガクガクと震えている。


「す、すまぬ。蛇はダメなんだ……」


 いつもとは違う弱々しいナジュミネのセリフに、3人は驚いた。


「ちょっと、ナジュミネ。それじゃ、ムッちゃんの邪魔にな……」


「……蛇はダメだ。蛇はダメだ。蛇はダメだ。蛇はダメだ。蛇はダメだ!」


 リゥパは少しおどけた感じにナジュミネを非難しようとしたが、ナジュミネから消えた表情と震える全身、そしてまるで壊れたおもちゃのように小さく呟く姿を見て、次の言葉が出なくなった。


「大丈夫か、ナジュ! リゥパ! ナジュを頼む! 俺はこいつをもっと遠くに連れて行く! アル、一緒に来てくれ!」


 ムツキはナジュミネを抱き寄せたかったが、やむなくリゥパに彼女を任せることにした。


「分かったわ!」

「あ……旦那様……」


 リゥパはナジュミネの手をムツキから無理やり引き剥がし、へたり込む彼女が蛇を見ないようにしっかりと抱きしめる。


「イエス、マイロード!」


「こちらの都合ですまないが、もっと遠くで話し合おうじゃないか! 【レヴィテーション】」


「ぐううううっ!」


 アルの返事を確認し、ムツキはアルを肩に乗せた後、ヤクルスの大きな牙を雑に持って、どこかへ飛び去ってしまう。


 残されたナジュミネとリゥパ。ナジュミネはまだ小さく震えている。リゥパは彼女の頭をしっかりと自分の胸に当てて、静かにゆっくりと頭を撫でている。


「あーあ、まったく。これじゃ、さっき、ちょっとばかり意地悪言っちゃおうかなって思った私が嫌な奴みたいになっちゃうじゃない。別にそういう嫌なキャラを確立したいわけじゃないのよ? よしよし。もう蛇はいないわよ」


 リゥパは場を和ませるように軽口を叩くが、ナジュミネが反応する様子がない。しばらくすると、小さい嗚咽が聞こえてくる。


 ナジュミネが泣いているようだ。それが蛇への恐怖なのか、その恐怖が去った安堵からか、はたまた、自分の不甲斐なさを呪ってかは分からない。ただ、彼女は小さく身体を時折震わせながら涙を流していた。


「すまぬ……。蛇だけはどうしても……」


「いいのよ。昔、怖いことがあったのね?」


 リゥパは子どもをあやすようにして、ナジュミネに優しく話しかける。


「あぁ。子どもの頃に毒蛇に噛まれて、2日ほど生死を彷徨ったことがある。それ以来、どうしてもダメなんだ……。蛇を見ると身体が強張って、汗が止まらなくて、動けなくなってしまう」


 ナジュミネは思い出しただけでも震えてしまうようだ。


「安心しなさい。誰にだって、怖いものはあるわよ。というより、よく樹海で見かけなかったわね。割といるはずなのだけど」


 それは奇しくも先行していた妖精たちが危険そうな生物を先んじて除外していたため、ナジュミネの目に蛇が映ることはなかったようだ。


「ううっ……旦那様との調査、大丈夫だろうか。このような体たらくで、これからも連れて行ってもらえるのだろうか……」


「……震えて動けなくなるほど怖い蛇を避けるよりも、ムッちゃんと一緒に過ごしたい気持ちが強いなのは本当に尊敬しちゃうわ。迷惑かどうかって話なら、私には分からないわ。それを決めるのは私じゃないもの。直接聞きなさいな」


 リゥパは下手な慰めをせずに淡々とそう答えた。しかし、頭はまだ撫で続けている。



 ところで、ナジュミネは生死を彷徨った以降、プロミネンスと過ごし始めるまで生きた蛇を見ることがなかった。それは彼女が毒蛇に噛まれた後、ナジュ父が数か月かけて、村の付近の毒蛇や蛇を全滅させてしまったからである。今もなおナジュ父は定期的に流れ着いた蛇などを根絶やしにしている。


 そして、それによって、村付近の生態系を大幅に狂わせてしまっているのは別のお話である。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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