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1-Ex7.ケットは家にいると思っていたら少し出かけていた

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

「たまには樹海を散歩するの気持ちいいニャ。またたびニャいかニャー?」


 ほぼ全身が黒色の毛並みに胸の辺りだけ白いふさふさをたくわえている猫のケットは樹海の端をぐるりと周るように散歩をしていた。2本の長い尻尾をゆっくりと揺らしながら、4本足でしゃなりしゃなりと歩く姿は猫としての優雅さを体現している。


「しかし、今回もクーに追い出されるとは思わニャかったニャ。いっつもご主人が調査に行くとニャると追い出されている気がするニャ。……優しい奴ニャ」


 クーなりにいつも昼夜問わず働き詰めのケットにも休みをあげたいと思っているのだろう。ケット自身は楽しく仕事をしているので休みなどなくてもよいのだが、周りが心配するので休まざるを得ない。


 ただ、クーはいつも少し手荒く、ケットを口に咥えた後に山のように大きくなり、そして、ぶんぶんと首を振り回して、ケットを遠くへと投げ捨てるのである。


「クーの口下手もいつまでも治らニャいニャ。まあ、その方が奴らしいけどニャ」


 やがて、ケットは樹海に住むシカの妖精たちとたまたま出会う。シカの妖精たちは珍しいものを見たといった表情の後に恭しく礼をして、樹海の近況をケットに語るのだった。


「ニャるほどニャ、ニャるほどニャ」


 ケットは最初こそ立ち話くらいに聞いていたが、長くなりそうだったので倒木の上で腰を据えて聞き入っていた。すると、どこからか嗅ぎつけてきた、イノシシやクマ、キツネ、サル、トリなどの様々な妖精たちがケットを囲むように集まって来た。


「おぉ、いつの間に、こんニャに。みんニャ、久しぶりニャー。今日はお休みをもらったから、ゆっくりみんニャの話を聞きたいニャ」


 すると、妖精たちは一斉に話し始める。まるで森の動物が合唱、コンサートでもしているかのようだ。


 ケットはそれらをすべて聞き取っている。


「ニャるほどニャ。順番に聞きたいことがあるニャ。まずは最初に話してくれたシカの話だけどニャ」


 今度はケットがそれぞれの話に対して、答えたり意見したりしていた。それを妖精たちはじっくりと聞いている。今度はまるでケットの朗読会のような状態になる。それは1時間ほどかけてゆっくりと話される。


 その後、サルがケットの話に意見したり、キツネがそのサルの意見に反対したり、すると、他の妖精たちの話も出てきて、いろいろと話が交錯していく。ケットがおもむろに口を開く。


「みんニャ、鎮まるニャ。意見を言い合うのと、相手を否定し合うのは違うニャ。相手を批判せず、意見に対してだけ別の意見をぶつけるニャ。相手を否定したら喧嘩にニャるニャ」


 ケットは静かに、しかし、王たる威圧を過不足なく放つ。委縮させ過ぎず、増長させ過ぎず、厳しくも慈愛も込めた話しぶりに妖精たちは納得して鎮まる。


「みんニャの意見はどれも正しいニャ。だから、正しいかどうかだけではニャく、どうあれば、良くなるかを考えるニャ。正しいことが良いこととは限らニャいニャ」


 ケットは自分にも言い聞かせるような口ぶりで話す。過去に自分が正しいと思うことを為して、何かがあったことは容易に想像できる。


「正しさは揺らぐニャ。それは相手や状況次第で小さくも大きくもニャるけれど、必ず揺らぐものニャ。それはみんニャに理解してほしいニャ」


 こうして、ケットと妖精たちの話し合いは終わりを迎え、お互いの身体をこすりつけ合った後に、次に会う時までに皆で出した答えを聞かせてほしいと伝えた。


「最後に、ご主人に会ったら、みんニャ、モフモフさせてあげてほしいニャ。ご主人はそれが楽しみで樹海の調査をしているようニャもんだからニャ」


 ケットがそう言うと、妖精たちは賛同しているようで楽しそうな鳴き声を出していた。ただし、要望もあるようで、各々がそれを口にする。


「待ってニャ。メモするニャ。えーっと、撫でてほしい場所が違って、頭派と背中派と尻派がいるニャか。たしかにオイラも頭や顔周りが一番好きニャ。喉がゴロゴロ鳴っちゃうニャ。お腹は触らせてあげたい気持ちもあるけど、やっぱり、ちょっと警戒しちゃうニャ」


 ケットはこの前、撫でられた時のことを思い出す。頭から尻までゆっくりと撫でられたが、頭と首のあたりが気持ちよかったようだ。妖精であっても、触って喜ぶポイントは変わらないらしい。


「ありがとうニャ。このメモはご主人に渡しておくニャ。あとは、一緒にいるアルにもその時に伝えてほしいニャ」


 その後、解散となり、ケットは独り歩きを再開して小さい溜め息を吐いた。


「って、偉そうなことばかり言っていたけど、オイラもまだまだだからニャー。王様ニャんて大層ニャもんじゃニャいニャー。」


 ケットはケタケタと自分のことを笑いながら踵を返し、家への帰るように歩いて行った。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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