5-48. 物語の終わりはバッドエンドよりハッピーエンドで(3/5)
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楽しんでもらえますと幸いです。
サラフェとキルバギリーの部屋。部屋の住人である彼女たちのほか、ムツキ、メイリ、コイハがそこにいた。
「で、ここに来た、と」
サラフェは、元・水の勇者であり、真っ青なフリフリワンピースパジャマを着て、透き通るような青い髪を両サイドにまとめたツインテール姿の人族の女の子である。
彼女はまるで着せ替え人形が動き出しているかのような可愛らしい顔をしており、彼女の垂れ目がちな目の中にある瞳の色がその髪の色と同様に綺麗な青色、肌が健康的な褐色、体型がとてもとてもスレンダーで真っ直ぐスラっとしているというさまざまな要素を盛り込んだ特徴的な女性だ。
彼女がムツキの説明でひとまずの状況を理解したように、首を小さく縦に振っている。
「そうなんだ」
ムツキが理解してもらえたことで嬉しくなって力強く肯いていると、サラフェは次第に若干頬に赤みを帯びながら口を開く。
「で、次にですが、何故、サラフェはムツキさんに抱っこされているのでしょう?」
「……そこにサラフェがいたから、かな」
「当然のように言わないでください。あと、耳元で囁かないでください!」
今、ムツキはサラフェのベッドの上に座った上で、サラフェをちょこんと膝の上に乗せたままで話していた。お互いに向き合うような形での会話ではなかったが、彼がぎゅっと抱きしめており、密着した状態で彼女の耳元で囁いているため、周りまで思わず頬を赤らめている。
「サラフェはマスターとのスキンシップが嫌なのですか?」
そうサラフェに問うのはキルバギリーだ。
彼女は、人型兵器でありながらも綺麗な容姿をしていて、灰色のポニーテイルに瞳も同じように灰色であり、肌とも外装とも言える表面が薄橙をベースに少し光沢のある薄い虹色を帯びているかのようである。
「別に嫌というわけでは……でも、皆さんのいる前でされるのは恥ずかしいじゃないですか!」
「周りに人がいなければいいのですか?」
「っ! それは……まあ……その……あうううううっ……」
以前にも覚えがあるキルバギリーの冷静なツッコミにも関わらず、サラフェはやはり返しきれずにあたふたと慌てふためく。
「ふふっ……サラフェは語るに落ちましたね。マスター、次は私にも甘めなのをお願いします」
「おいおい、話が進んでないぞ……」
コイハがツッコミを入れたところで、ようやく場が落ち着きを取り戻し始めた。
「……そうでしたね。サラフェとしては、ムツキさんに賛成ですね。毒蛇の件もそうでしたが、後手に回った結果とも言えます。そうなると、家に全員が引きこもること自体が危うい結果を生む可能性もありますよね」
「なるほど」
サラフェは努めて論理的に自分の解を伝えようとする。今までに起きた事実だけを踏まえ、今後がどうなるかを案じる。
ムツキは相槌を打って終わる。
「それに何より、皆さんの覇気というか、元気があるように思えないですから」
「ありがとう」
ただし、サラフェは論理や事実だけで終わらせない。きちんと周りの感情や雰囲気も掴んだ上で持論を重ねられる。
「で、何故、サラフェはムツキさんに頭を撫でられるのでしょう?」
「そこにサラフェがいたから、かな」
「サラフェを膝に乗せたのはムツキさんでしょう……」
ムツキが明るい笑顔でサラフェの頭を優しく撫でると、サラフェは少し身を竦めた後に払いのけるわけでもなく、文句を垂れつつも為されるがままに撫でられる。
「あれ? サラフェ、嫌なの?」
「別に嫌というわけでは……って、繰り返させないでもらえますか!?」
メイリの問いにサラフェは顔を真っ赤にして怒り始める。すると、周りで笑い声も起き、悪くない雰囲気が辺りを包んでいた。
彼女がいることを知るまでは。
「楽しそうにしているな」
「ナジュ!?」
ナジュミネが部屋の入口で壁にもたれかかっていた。赤色のタンクトップにピンク色のドルフィンパンツ姿はまるで寝起きかのような出で立ちだが、髪は綺麗に整えてあって、表情もしっかりとしている。
「そこまで驚かなくてもよいだろう? 旦那様の姿が見えなかったから、探していただけだ」
「いや、驚いたわけじゃ……ナジュ」
ムツキの予定はナジュミネ以外の話を聞いた後に、彼女と話してお互いが納得する形を模索することだった。
彼は予定外のことに慌ててしまっただけである。
「……勝手にしてくれ」
「え?」
話を途中から聞いていた様子のナジュミネは、ムツキの思いと異なる方向へと向かう。
「途中まで聞かせてもらった……妾にも分からないんだ。だから、みんなに強要はできない。だが、すまない。妾はまだ受け入れられない。だから、妾のことなど無視して、みんなで遊んでくるといい」
「いや、ちょっと、それは」
「すまない」
それはナジュミネなりの妥協、そして、拒絶だった。それが分かっているムツキは引き留めようとするも止まらなかった。
彼女は彼の引き留めさえも拒んで踵を返してから、いつもらしからぬ音を立てつつ、廊下を移動して、その後、扉を破壊したかのような音を出してから、急に静かになった。
サラフェの部屋もまた沈黙で静まり返ったが、サラフェが口火を切る。
「ムツキさん、ナジュミネさんのところへ行ってあげてください。サラフェとキルバギリーはリゥパさんを呼んでから、頃合いを見てそちらへ行きます」
「じゃあ、僕とコイハでユウを呼びに行こうかな。姐さんの部屋に集合ってことで」
「あぁ……でも……もし……うぶっ」
サラフェがリゥパを連れ、メイリがユウを連れてくるという話になったものの、ムツキがナジュミネと話もできそうにないという戸惑いを露骨に声色として出したため、サラフェがくるっと振り返って、ムツキの顔を両手でぐにゃりと変化させる。
「でも、もし、ではありません。ムツキさん、しゃんとしなさい。ナジュミネさんと話し合って、きちんとみんなで仲良くできるのはムツキさんしかいないのです」
「わ、わかった」
ムツキは面白い歪み方をした顔のままに頷けないので、言葉で理解を示した後、サラフェを膝から降ろしてナジュミネの部屋へと向かった。
「サラフェママだ」
「サラフェママですね」
「誰がママですか!」
メイリとキルバギリーの言葉に、サラフェはムッとした様子で先ほどよりも声量を上げた。
「ダーリンより年上だしね」
「マスターより年上ですから」
「……ちょっと待ってください。サラフェくらいだとお姉さんでは……それにサラフェより遥かに年上もちらほら……それよりも行きますよ!」
サラフェは目の前にいるメイリとキルバギリーを見つつ、この家で禁句に近い年齢の話をごにょごにょとしてから、リゥパとユウをそれぞれ呼びに行くのであった。
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