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5-46. 物語の終わりはバッドエンドよりハッピーエンドで(1/5)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 この世界の中心には世界樹がある。その世界樹は一時期に比べて半分ほどに小さくなってしまったが、元々がすべてを認識できないほどに大きすぎたために半分になったところで認識できる者はほとんどいなかった。


 その世界樹の周りにはさまざまな木々が生い茂り、それらを含む一帯が世界樹の樹海と呼ばれている。さらに、その外側のすぐ傍にはログハウス調のとてつもなく大きな家があった。


「紅葉が見たいな」


 季節は暑い時季から涼しい時季へと変わり終わった頃だ。


 20歳前後の青年が窓ガラスから見える青々とした世界樹の樹海を見つめながら、少し思いに耽っているような寂しげな瞳で佇んでいる。


 彼はまだ半袖ワイシャツにベージュ色のチノパンというビジネスカジュアル姿をしていて、見た目が切れ長の目の中にある黒い瞳、彫刻かのように整っている顔、艶のある紫色の髪の毛、見るからにシュッとした身体つき、という理想的な美形の青年だ。


「紅葉を見たいなあ」


 青年の名前は、ムツキ。この世界で最強にして唯一の転生者である。


 彼の名前を漢字で書くと1月を意味する睦月だ。男で睦月というのも中々なさそうなものだが、前世の両親からの、誰とでも仲良くできるように、そして、尽きることが無い熱意を持ってほしい、という願いによって、至って真面目に付けられた名前だ。本人もとても気に入っていて、転生後もそう名乗っている。


 彼のこの世界での目的は、スローライフを送ることだ。それもモフモフやハーレム付きのかなり贅沢なスローライフである。


 その目的の下、彼は世界樹の守護者として妖精族とともに世界樹や樹海を守ることを生業にしていた。


「世界樹の樹海は紅葉しニャいニャ?」


 ムツキの近くで、人間の子どもサイズの猫が少し呆れたような声色で、ムツキの独り言のような言葉に返事をする。


 猫の名前はケット。


 ケットはほとんどの毛が黒色で、ただ胸元にだけ白いふさふさの毛を蓄えており、さらに、キラキラとする金色の瞳と、感情表現が豊かな2本の長い尻尾を持っている。2本の後ろ足で器用に二足歩行をしており、2本の前足はまるで人族の手のように動かしていた。


 ケットは見た目こそ動物族の猫だが、実際は猫の姿をした妖精族であり、本名をケット・シーという妖精族の王でもある。今はムツキのお世話係筆頭として日々を楽しく過ごしている。


「あー、紅葉を見たいなあ」


「珍しく外に出たがっているニャ……まあ、しょうがニャいかニャ……」


 ムツキはケットの言葉に反応しているような反応していないような曖昧な雰囲気で、ただただ「紅葉を見たい」という言葉を繰り返している。


「あー、でも、まだ、みんなに許してもらえなくて、樹海にすら行けてないもんなあ」


「あ、本題に移ったニャ」


 それもそのはずで、ムツキはあのニドの一件以降、ほとんど外に出ることが許されていなかった。彼の家の敷地内にある畑や牧場などを散歩することまでは許されていたものの、それより外へ行くことを許されずに樹海の調査すら代わりの者が行っている状態だった。


「みんなで紅葉が綺麗な山を散策しながら、やがて、山の頂上に着いて、一面見渡す限りの紅葉の彩られた山々の美しい景色を見て、少し涼しい空気を吸いながら、みんなでわいわいしながら、美味しい物を食べて飲んで、ちょっと遊んだり何かしたりしちゃって、あ、それに、野山になっている果物とかを笑いながら食べちゃったりして、とにかく、この時季の良いとこどりの何かをしたいなあ」


「ご主人にしては、そこそこの計画が練られているニャ……」


「あー、モフモフしたり、イチャイチャしたりしながら、この時季の楽しいことをしたいなあ!」


 もちろんムツキは、家で妖精族をモフモフすることも、女の子たちとイチャイチャすることも大好きで、そこに異論も否定もない。


 しかし、彼は欲張りであり、自由も謳歌したかったのだ。いろいろなものが選べる自由の中で選んだり選ばされたりすることが楽しいのであり、彼は選ぶものが少ないことを良しとしなかった。


 ケットは少しばかり呆れたような雰囲気を醸し出しつつ、話を聞くことにしたのか、ムツキに近付いていく。


「ニャー……ご主人?」


「おっと、ケット! そんなとこにいたなんて! 何かな?」


「さすがにそれは白々しいニャ……」


 しばらくの沈黙。


「ごめん……」


 しばらくしてのムツキの口から出てくる詫びの言葉。ケットはその言葉に反応して2本の尻尾を床に力なく這わせる。


「ニャー……まあ、オイラもそろそろよいと思うニャ! だから、みんニャがいいニャら、とびきり美味しいピクニックランチを用意するニャ!」


 ケットは胸元の白いふさふさの毛を撫でながら、ムツキに力強く言い放った。


 美味しいピクニックランチ。


 この言葉にムツキは救いを見出した。美味しいごはんを理由に、お出かけの提案を女の子たちに打診できるからである。


「ピクニックランチ……本当か!?」


「二言はニャいニャ! みんニャがいいニャらニャ!」


「ありがとう……ケット……。ケットは恩人だ……」


「そこまで言われると大げさ過ぎるニャ……許可を取れたら、また言ってほしいニャ!」


「分かった! 許可取ってくる!」


 ムツキは、女の子たちから紅葉狩りピクニックの許可を得るべく、意気揚々と2階にある女の子たちの部屋の方へと向かって行った。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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