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5-Ex6. 勘違いは物事の正確さより進むべき方向で

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 剪定作業が終わり、ユウの調整も入った後、各方面からの情報を回収したナジュミネがムツキとユグの方へと近寄る。


「旦那様、ユグ、剪定が終わってユウが少し手を入れたようだが……どうだろうか?」


 ナジュミネの言葉を聞いて、ムツキとユグは自身を見回した後にお互いの様子を窺う。しばらくして、2人が同じタイミングでうんうんと首を縦に振った。


「俺は魔力が吸われづらくなったかな」


「うん。オレも息苦しい感じがしない」


 ナジュミネは嬉しそうに2人を見て肯く。


「そうか! みんな! 達成したぞ!」


 そのままナジュミネは振り返り、妖精族やほかの女の子たちがいる方に向かって高らかに達成を宣言した。


 静かになっていた世界樹の周りが一転して歓喜の声に包まれる。


「よかった!」

「よかったです」

「無事に終わりましたね」

「終わったのじゃ」

「やったー!」

「にゃー!」

「あおーんっ!」

「ぷぅぷぅ!」

「きゅー!」

「ぴぃっ!」

「きっ!」

「ぴぴっ!」


 その様子を見て、ケット、クー、アルは背中合わせに座り始めた。


「はあ……やっとニャ……今日はすごく大変だったニャ……」


「早く帰りたいものだな」


「久々にゆっくりしたい気になりましたね」


「オイラはこの後家事ができる気がしニャいニャ」


「家に待機しているやつらに任せるしかないな。ゆっくり休め」


「そうですよ。たまには休まないと」


 さすがのケットも疲れ果てたのか、うんうんと肯いた後に動きが緩慢になって、コクリコクリと舟をこぎ始めた。


 クーもアルも小さく笑う。


「それでは解散だ! ありがとう! それぞれ気を付けて帰るのだぞ」


 ナジュミネの言葉に妖精族が三々五々で帰り始める。女の子たちは疲れたのか、座る者もいれば、ゆっくりとストレッチをしている者もいた。ただし、全員がムツキをチラチラと見て、帰るタイミングを見計らっているかのようだ。


「ナジュ、仕切りありがとうな」


「いやいや、旦那様のためとあらば」


 ナジュミネは嬉しさを隠しきれず、帽子を目深に被りなおして、動き回って汚れてしまった髪の毛をぱたぱたと軽く叩いていた。


「それにしても、調査と違って、事前に蛇を追い払っていないから大丈夫かなと思ったけど、大丈夫でよかった」


 ムツキの言葉で場が凍った。主に凍ったのはナジュミネであり、嬉しそうな顔が固まり、手がパッタリと止まる。


「……え?」


「……え?」


 ナジュミネが素っ頓狂な声をあげるので、ムツキもつられて素っ頓狂な声で返す。


「え? え? 毒蛇はニドが全数連れて行ったのでは? 樹海に毒蛇がいないのでは?」


 急に不安を覚えたナジュミネが自分の身体を抱き締めながら、かがんで背を低く保ちつつゆっくりとムツキの方へと向かう。


「ん? たしかに妖精族の毒蛇はニドと一緒にいなくなったみたいだけど、妖精族には普通の蛇もいるし、なんなら、動物族の蛇や毒蛇はいるぞ?」


 ナジュミネは汗が全身からぶわっと出て、顔に滝のような汗の流れをダラダラと作っていた。


「毒蛇が蛇じゃないのか?」


「えっと、毒蛇はその名の通り、毒のある蛇で、毒のない蛇もいるぞ? 毒蛇は蛇だけど、蛇が全部毒蛇じゃないぞ……って、なんか、集合だっけか……前の世界にあった数学の勉強みたいな話になったな……」


「……嘘だ」


「嘘じゃない」


「嘘だ、そんなこと……そんな……それじゃ……」


 ナジュミネが縋るようにムツキの身体に密着する。


 その背後に現れたのはイタズラ好きのメイリで、意地の悪い笑顔を貼り付けつつ、ナジュミネの後ろで小さく呟いた。


「あ、蛇」


「ひっ!」


 ナジュミネは肉体的にも精神的にも疲れがあってか、泣くことさえもせずにそのまま引きつった顔をしてすーっと気絶した。


 ムツキはナジュミネを片手で支え、ユグと入れ替えてナジュミネを抱き寄せる。その後、彼の視線はものすごく気まずそうな顔をしたメイリに向けられる。


「メイリ……さすがにそれはひどくないか?」


「うん……ものすごく後悔している……どうしよう……」


 ムツキの目にもメイリの動揺は容易に見て取れた。


「ちゃんと謝れるか?」


「……一緒に謝ってくれる?」


「はあ……仕方ないな」


 メイリが縋るようにムツキの身体に密着し、うるうるとした瞳で彼を見つめる。


 ムツキは小さく溜め息を吐いた後に渋々といった様子で一緒に謝ることを了承した。


「……なんじゃ、姐御は気付いてしまったのか」


「気付いた?」


「いや、姐御が毒蛇で動けていなかったのは知っておるじゃろう? それが急に樹海に入る雰囲気になったから、姐御のちょっとした勘違いを聞いてから指摘せずに合わせたのじゃ。その方が都合も良いしな」


「ナジュの勘違いが発端とはいえ、ミクズもなんだかんだで後で怒られそうだな」


「うっ……一緒に謝ってほしいのじゃ」


「はあ……2人とも仕方ないな」


 ミクズが縋るようにムツキの身体に密着し、うるうるとした瞳で彼を見つめる。これでうるうるとした瞳で彼を見つめる半獣人2人の絵が完成した。


 ムツキは小さく溜め息を吐いた後に、2人のふさふさのしっぽを触りながら、渋々といった様子で一緒に謝ることを了承した。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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