5-43. 生き方は諦めるよりしがみつくで(1/3)
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楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキが目を開けると、そこには涙を浮かべたり流したりしている女の子たちがいた。すると、動けることに気付いた彼はバツ悪そうにしながら樹液の中を泳ぐような動作をする。
壁になっている表層部分以外は流動性のある樹液であったために、彼が動くと樹液は押しのけられる。
「嫌だ……嫌だ……嫌だよ……」
ユグはへたり込んだまま、首を横に弱々しく振るばかりだった。彼女は樹液を通すことでムツキを補給源としているため、彼が樹液の中から出てきてしまうとまた弱ってしまう。
「ユグ! 俺が何とかする!」
ユグはその声に反応してゆっくりと顔を上げる。そこにはムツキの二ッと笑う顔があり、彼女は両手を胸に当てて彼をぽーっと見つめていた。
「ムツキ!」
「旦那様!」
「ムッちゃん!」
「ムツキさん!」
「マスター!」
「ハビー!」
「ハビー!」
「ダーリン!」
「うおおおおおっ!」
ムツキは右の拳を大きく振って樹液の壁を内側から破壊し、大量の樹液とともに流れ出てきた。
ユグはホッとする反面、自分の魔力が落ちていく息苦しさを感じ始める。
「ユグ!」
ムツキはユグを抱き締め、魔力を補給し始める。樹液の中にいたときよりも緩やかに、だが、このままでは彼の魔力がなくなってしまう状況に変わりがなく、なくなることも時間の問題だった。
彼らは必要な魔力量を補給する画期的な方法を探す必要がある。
「怖いよ……自分がいなくなるのも……ムツキがいなくなるのも怖いよ……ユースアウィスがいなくなっても困るよ……」
ユグの本音は、全員が息を呑むのに十分な悲痛な叫びに近かった。どうにもならないと言った様子の言葉は全員を焦らせようとする。
ただ一人を除いて。
「俺が何とかする。安心してくれ」
ムツキはみんなを焦らせないようにしっかりとした言葉で応える。
「何とかするって……旦那様、何か秘策が?」
「……ない!」
全員がコケた。ユグは開いた口が塞がらなかった。だが、その言葉を発しても、全員が再び絶望の底に叩き落とされることはなかった。
何故ならまだムツキは自信満々な笑みを浮かべているからだ。
「ムッちゃん! ふざけている場合じゃないわよ!」
「いや、こう、何とかならないかな……俺はやっぱり全部諦めたくないんだ……みんなも頼むよ……知恵を貸してくれ」
リゥパが詰め寄ると、ムツキは笑みを苦笑いに変えつつも諦めることなくそう言ってのける。
少しして、サラフェが笑い始める。
「ふふふ……何とかするって言っていたのが、何とかならないかな、になりましたね……しかも、割とワガママな……ふふふ……ここまで来るとおかしくて笑ってしまいます」
「ふふっ……そうですね。それなら、レブテメスプ様にお知恵を借りましょう。ユウさんなら何とかできる、のようなことを言っていましたし、何か案があるかもしれません」
サラフェを皮切りにみんながクスクスと笑い始める。先ほどまでのシリアスさや真剣さが、どこ吹く風とでも言わんばかりの空気によって、場は徐々に温まっていく。
キルバギリーが踵を返して、妙案を持っていそうなレブテメスプの助けを借りに行こうとすると、ムツキがハッと何かに気付いた。
「ユウならできる……。なあ、ユウ。ユグの魔力消費量? というか、魔力吸収量を減らせないか? それなりの魔力量で活動できるように」
「えっ!? 急に言われても……世界樹の魔力循環量は決まっちゃっているし……」
急に話を振られたユウは笑顔の口が開いたままに驚きの目つきも加わって不思議で複雑な表情になる。
「どうやって決めているのじゃ?」
「えっ……もちろん、魔力を循環して吐き出す量……つまり、世界樹から出ていく量と釣り合いが取れるように、だけど」
「あ、じゃあ、たとえば、ずっとじゃなくていいから、徐々に戻す形でいいから、出ていく量と消費量を減らせないか? 今だけ大きな容器から小さな容器にして、魔力がまた溜まってきたら、みたいな」
ムツキの言葉に、ユウが顎に手をかけ、唇に指を当て、じっと虚空を見つめて考え始める。
「ん-……あ、そうか。たしかに……ニドにこの世界にある魔力を大量に取られたから、どっちにしろ、魔力量が若干足りないし……現在の量に合わせて循環システムをシュリンクする必要があるかも。なんでこんなことに気付かなかったんだろう……」
「しゅりんく? とはなんですか?」
「あ、うん、縮小化ってことだけど、つまり、世界樹の大きさを小さくしちゃう。魔法も前より使いづらくなっちゃうけど……どっちにしろ、世界の魔力量が前より減っているから仕方ない部分はあるかも」
サラフェの質問に、ユウがハッと我に返ってシュリンクの説明をする。その説明にビクンとユグがムツキの中で小さく跳ねた。
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