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5-40. 叱りは怒りより愛情で

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 ウロの閉じようとする力が増す中で、無数の触手が全力でこじ開けようとする。さらに、その触手と協力して、ワルキューレたち9人を外装モードで身に着けたエニアード・ハーミット・ラグナレックがウロの前に立って、ウロが開く方向へと最大出力で腕を動かしていた。


 アニミダックがユウの隣に立ち、レブテメスプはエニアード・ハーミット・ラグナレックの中からひょいと顔を出している。


「アニミダック……レブテメスプ……」


 へたり込んでしまっていたユウは力なく2人の名前を呼ぶ。


「おいっ!」


 アニミダックがユウの胸ぐらを軽く掴んで真剣な目つきで睨みつけるので、彼女は今までに見られなかったまさかの状況に目を見開いて見つめ返すように彼の顔を見る。


 彼は歯を剥き出しにギリリという歯ぎしりの音を立てるも、眉根が下がっていて眉全体で八の字を描いていた。


「アニミダック……?」


「……見損なったぞ! ユースアウィス!」


「たしかに。創世神ユースアウィスともあろう者が無様極まりないね!」


 アニミダックが叫び、レブテメスプもそれに合わせて自分の意見を口にする。その間も触手が全身を震わせながらウロを閉じさせまいと必死に引っ張っていた。


「だって、だって……」


 ユウはふるふると震えながら、首を横に振って弱々しい言葉を小さくか細く呟いている。


 アニミダックは胸ぐらを掴む手に力がこもり、ぎゅっという音を立てる。


「いいから、ムツキを連れ戻してこい!」


「だって、ムツキが世界樹を抑えないと……他に方法が……っ!」


 ユウはその次の言葉が出なかった。


 彼女には自分を犠牲にするという選択肢もあったからだ。


「いや、たくさんあるでしょ……毒蛇に何を吹き込まれたのかは分からないけど、ユースアウィスはダメなとこがあっても創世神だよ? それがまんまと口車に乗せられて、涙目で目を潤ませているからって、他の選択肢をぼやっと見失っている場合じゃないぜ☆」


 いつの間にかレブテメスプがユウやアニミダックの近くまで歩いてきていた。彼は短パンのポケットに入れていたハンカチを取り出して、彼女の頬や目に留まる涙を優しく拭う。


「レブテメスプ……」


「誰も犠牲にしない方法はきっとあるさ☆」


「……俺がいない感じで会話するなよ」


 溜め息がこぼれていそうな声色になったアニミダックの言葉とほぼ同時に、彼らに近付く足音がいくつも鳴っていた。


「蛇はやはりいなかったか。賭けに勝ったな」


「ナジュみん!」


「毒蛇の王が持つ唯一の美徳が仲間思いなのじゃ。ともすれば、危険な樹海の中に毒蛇はいないのじゃ」


「ミクずん!」


「さて、みんな、準備はいい? 僕には若干見えたからね? 僕は今、ダーリンに本気で怒っているんだ。今回は特に最大級で怒っているんだ! 帰ってくるって約束したのに嘘をついたんだから! みんなで連れ戻して、それからたっぷりとお仕置きだ! 嘘をついたことを後悔させてやるんだから!」


「メイりん師匠!」


 ユウが声に反応して周りを見渡すと、ナジュミネがリゥパに、ミクズがキルバギリーに、メイリがサラフェに魔力を少し供給し、なんとか立てる状態にまで補給する。


「悠長にしてんじゃねえ! 穴も閉まる力が強くなってきたし、ムツキだっていつまで無事か分からねえんだぞ! 世界樹が俺らの魔力を吸わなくなったら、おそらく、ムツキは完全に吸収されているぞ」


 アニミダックはユウから手を離し、触手を動かすことに集中し始めた。


「アニミダック……うん、行ってくる!」


「助かった」

「見直したわ」

「ありがとうございます」

「過去のことは許してあげます」

「助かったのじゃ」

「ありがとう!」


 それぞれがぞれぞれなりの言葉をアニミダックに掛けて、暗く深いウロの中へと入っていく。


「かっこいいね☆」


「いや、な、ん、で、てめえは遊んでやがる!」


 レブテメスプがどこからかお菓子を取り出してパクっと口に含み、その上でアニミダックを小ばかにするかのように話しかけると、アニミダックはウロを閉じさせないように触手を強化しながらレブテメスプに文句を付けていた。


「いや、ボクは頭脳労働だからね☆ というか、それよりもさ、なんだか損な役回りだね☆ ムツキが居ない方がいいんじゃない?」


「バカ言え、実力でユースアウィスを取り戻す以外の選択肢はねえ! そう言うお前こそ、なんでここまでするんだよ!」


「まあ、手伝うというか? 約束してあるんだよね☆」


「は? 約束?」


 アニミダックが怪訝そうな顔をしていると、レブテメスプが笑った。


「そ、約束☆ 娘を泣かしたら、地の果てまでぶっ飛ばすってね☆ 約束はきちんと守ってもらわないとね☆」


「はっはっはっ! それいいな。俺も今回の迷惑料でぶっ飛ばしてやる!」


「じゃあ、それまで頑張らないとね。さあ、持久戦だよ、エニアード・ハーミット・ラグナレック。いや、ワルキューレたちもいるから、スーパー・エニアード・ハーミット・ラグナレックだ!」


「相変わらず、名前が長いんだよ!」


 以降もアニミダックとレブテメスプはウロを開き続けることに全力を注いだ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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