5-34. 試練は与えられるより自ら課すことで(1/2)
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ムツキが部屋を出た後、ナジュミネ、コイハ、メイリの3人は無言だった。コイハとメイリがナジュミネに再び寄り添う形で両隣に座る。
ナジュミネにはその優しさが辛かった。
「…………」
「…………」
「…………」
コイハもメイリもムツキのそばにいたいだろう。
彼が困っているなら、たとえ力になれそうになくてもそばにいたいだろう。
もしかしたら、邪魔になってしまうかもしれないけれど、それでもそばで何かできるかもしれないなら、そばにいたいだろう。
きっと2人がそう思っているとナジュミネは確信していた。何故なら自分がそうだからだ。
「……超えるべき試練か」
「試練? そっか! 試練くんを持ってくる!」
ナジュミネの言葉にピンときたメイリがすぐさまムツキの部屋を出て、1階のリビングで待機モードの試練くんをわしづかみにしてから戻って来た。
試練くんは、レブテメスプが作った発明品で、数十センチほどの大きさをしている人形のような姿であり、試練を受ける者にある程度適切な試練を与えるものである。レブテメスプとムツキが対峙していたときは女の子たちに試練を与える役割を持っていたが、最近では幼いモフモフたちにそこそこの試練を与える役割に替わっていた。
「試練くん! お願い!」
メイリが試練くんをベッドの上に置いてから、試練くんを両手で掴んでぐらんぐらんと揺らしていた。
「ヤメンカ! マッタク……ムンズトツカンデ、ユラシオッテカラニ……ランボウスギルゾイ。ナニカヨウカ?」
試練くんは起動してからメイリの手をはねのけてから両手両足を伸ばして、全身のストレッチを始める。
試練くんの視線はメイリの後に、ナジュミネやコイハに移っていく。
「姐さんに毒蛇を克服できるような試練を与えてよ」
メイリの言葉に試練くんはストレッチを止めて、代わりに両手でバツ印を作った。
「ムリダ」
「なんで!?」
思いを置き去りにするような試練くんの冷たい言い方に、メイリが目を細めてしかめ面になる。試練くんはそのメイリの態度に興味もなさげに肩を竦めつつ、その疑問に答えるために彼女の方を向く。
「ワスレタノカ? ナンデモシレンニナルワケデハナイ」
「乗り越えられるものしか試練にならない」
ナジュミネの口からその言葉が出る。それはかつて、ムツキが女の子たちに伝えた言葉であり、試練くんが出せる試練そのものの在り方でもあった。
「ソウダ。アタエルガワトシテ、アマリイイタクナイガ、ナジュミネニ、アタエラレル、シレンノナカニ、ドクヘビニカンスルモノハ……ナイ」
その言葉が試練くんの言える精一杯だった。
「それって」
「少なくとも、姐御は今すぐ毒蛇を超えられないってことか?」
「……カンチガイスルナ。モウヒトツノ、カノウセイモアル」
メイリの言葉、コイハの言葉、勝手に進もうとしていく話に対して、試練くんは間違った方向にいかないように仕方なく参加している。
「あ、試練にすらならない?」
「ソウダ。ソノカノウセイヲ、ステサルノハショウショウ、ランボウトイウモノダ」
「どっちなの?」
「シラン」
メイリの瞳に輝きが少しだけ戻っていたが、試練くんの言葉に再び輝きが失われた上に、彼女の眉根が徐々に下がっていく。
「えぇ……シランって」
「シレンニ、ナラナイモノハ、ハンイガイダ。タダ、ゼンブガゼンブ、コエラレナイモノトハ、カギラナイカラ、カンチガイスルナト、イッタダケダ」
「もー! ぬか喜びさせないでよ!」
「カッテニ、ヌカヨロコビヲシタノハ、メイリダロ……ウワ、ヤメロ! ベッド、ハネサセルナ!」
「意地悪な試練くんなんか、ボヨンボヨンの刑だっ!」
「コラ、タテナイダロ! ヤメロ! ハネサセルナ!」
メイリと試練くんが小さな言い合いになり始め、メイリがベッドを思い切り叩いて、試練くんをバウンドさせていた。試練くんは跳ねに跳ねて、足を使って立つこともできずに身体全体で飛び跳ね回っていた。
ナジュミネはしばらく黙っていたが、やがて、部屋の中でも少し開けている空間の中央に立ち始める。
「姐さん、どうしたの?」
「みんな、動かないでくれ」
「えっ」
「レーヴァテイン」
ナジュミネは右手を突き出して、武器の名前を口にした。
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