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5-24. 昔話は懐かしさより悲しさで(3/3)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 数十万はいるであろうその毒蛇たちの塊からはそれだけの魔力を感じられず、ニドが感じ取れる魔力から察するに、数千にも満たない個体が何とか死を免れて気絶状態に陥っていた。


 故に、今ここで動き回れている毒蛇は毒蛇の王ニドのみである。


「かはっ……がっ……はぁ……はぁ……ははは……はははははは…………眠るにはまだ早いのではないか?」


 ニドはようやく息が整えて、それでも誰に聞こえるのかと思えるほどに小さく震えた声で、反応のあるはずのない方向へ話しかける。


「そう、実は起きているのだろう? まさかのこれだけの数の同胞が寝たふり……いや、死んだふりか? 驚かせないでくれ」


 しかし、毒蛇たちからの返事はない。


「いやはや、どうか冗談はやめてほしい……私はそういった類の冗談への対応の仕方が分からない。私なら十分驚かせてもらった。さぁ……」


 やはり、毒蛇たちからの返事はない。


「あまり強情だと、いくら同胞に温厚な対応ができる私でも怒ってしまうぞ……? いや、冗談だ。怒らない。怒るわけもない……」


 毒蛇たちからの返事はない。


「だから、頼む……返事をしてくれないか? 頼む……返事を……返事をしてくれ……」


 ニドはやがて言葉が少なくなり、小さな声で懇願することだけを必死で続けていた。


「ニド! ここにいたのか!」


 現れたのはクーだった。忙しくなく動き回っていたのか、舌を少し垂らしながら、息を切らした状態でニドの前に立つ。


「クー! これは一体どういうことだ! お前たちは何をしていた! 何故、ケット様はこれほどまでに強力な【制圧】を! 気でも触れたか!?」


 ニドは自分の身体以上に膨れ上がった怒りを押し殺しながらも漏れ出た非難の声をクーにぶつける。


「ああ……そうだ! 俺とアルが魔人族を相手にしていて、ケットも別な場所へ向かっていて手薄になった一瞬の隙を突かれてしまったんだ……何らかの魔法か固有能力で潜んでいた人族に、ケットの家族が殺されてしまった!」


「何!? か、家族が!?」


 ニドが同胞を失ったことと同様、もしくはそれ以上のことがケットにも降りかかっていた。その事実を聞いて、ニドの怒りが一瞬にして吹き飛んだ。しかし、悲しみは消えるどころか増していく。


「ああ! そのせいでケットの精神が不安定になって【制圧】が暴発したんだ! それで状況把握の手が足りてないんだ! ……ちっ……そうか……だが、ボサっとしてないで、ニドはこの地域の被害を調べろ! 種族によってはほぼ全滅だぞ!」


 クーは毒蛇によってできた死体の山を一瞥した後に、驚きを隠せないニドに伝えるだけ伝えて消え去った。


「人族……」


 静かになった場所でニドは頭の中を必死に整理する。


「人族……が……だと? 私が……見逃してしまったというのか……」


 ニドは、人族の侵入を許したことについて信じられずに、侵入者が人族ではなく魔人族ではないかと疑ったが、魔人族の相手をしていたクーが保身のためにそのような嘘を吐くわけもないと知っているために、その事実を覆すことができない。


「魔法……固有能力……私が気付かず……私が気付いてさえいれば……私のせい……なのか……」


 同胞は死んだ。


 ケットの【制圧】によって同胞は死んだ。


 人族に家族を殺されたケットの【制圧】によって同胞は死んだ。


 自分が見逃して侵入を許してしまった人族に家族を殺されたケットの【制圧】によって同胞は死んだ。


 人族を矮小なる者と高をくくって油断をしていた自分が見逃して侵入を許してしまった人族に家族を殺されたケットの【制圧】によって同胞は死んだ。


 ニドは自身の落ち度と理解し嘆く。


「あぁ……嘘と言ってくれ……」


 各地に散らばっていた妖精族もまとめて保護しようとケットに具申して精力的に動いた結果、今回の被害を大きくしたのは自分だ。


「私は……」


 樹海なら人族領や魔人族領でひっそりと隠れながら棲むより安全だと同胞たちを通じて伝え回った結果、今回の被害を大きくしたのは自分だ。


「私は……」


 果たして、そうだろうか。


 その時、ニドの冷静で賢い頭が鎌首をもたげた。


「私が見逃したであろう人族によってこの事実がもたらされてしまったことは認めよう……そして、結果的に被害を増やしたのも私だと認めよう……だが……私に如何な落ち度があろうと……同胞殺しはケットがしたのだ……私ではない……私ではなく……乱心したケットが我が同胞に……」


 消し飛んでいたはずの怒りは残り続ける悲しみによって再び生まれ、その矛先が自身の仕える王へと向く。


「許さぬ……許さぬぞ……同胞殺しが王などと虫唾が走る……私が同胞たちを真の繁栄と安寧へと導くのだ……」


 その毒牙はこの時を経て人族や魔人族に向けられるだけでなく、毒蛇以外の全てに向けられることになった。


「私が王……いや、創世神にも近い存在になり、新世界を創る……」


 こうして、毒蛇の王は見果てぬ野望を手に入れた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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