5-17. 冬眠明けは明るみより暗がりで
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楽しんでもらえますと幸いです。
寒さも和らいで暖かくなってきている時期。世界樹の樹海の地下にあたる洞窟内、入り組んだその洞窟の先の1つに昏く静かな場所がある。その場所は地底湖のように多くの水を蓄えており、さらには多くの毒蛇が棲む場所だった。
そこで世界樹の根を齧る真っ黒で大きな毒蛇がいる。
「この苦汁の生活もそろそろ終わりを迎えると思えば、良い経験をしたとも言える」
毒蛇の王と呼ばれるニドである。
蛇は竜族に含まれず、妖精族であるため、ケットこと妖精王ケット・シーの傘下である。
ニドはかつてその知性と才能によって、クーやアルを抑えて、妖精族のナンバー2まで上り詰めたこともある。しかし、ある事件をきっかけにして妖精族の王になり替わろうと造反したために、取り押さえられてこの地に長年留められていた。
「ふふっ……いよいよだな……」
既にケットに言い渡された刑期も終え、実はこの地に留まる必要もないのだが、ニドは次なる画策のために、この暗澹たる場所でじっくりと耐えていた。
目的を果たすため、目的を安寧で忘れ去らないための自戒である。
「ふしゅ……」
ある毒蛇はニドの前に現れ、鎌首を上げた後に恭しく礼をするように頭を1度上下させる。
「なに!? 残りの2人が同時に見つかったか! 僥倖! 実に僥倖! 計画は大幅に前倒しになるぞ! さすがは同胞。諸君の働きぶりに私は感謝以外を覚えることなどない」
ニドはユースアウィスが作り出した4人の始祖と呼ばれる2人の魔人族と2人の人族を求めている。その内、魔人族の1人はアニミダックで、人族の1人はレブテメスプで、ニドにとって2人は既に用済みだった。
「4人の血を得られれば……次は……」
ニドは彼らの血を、正確には彼らの能力を求めている。ニドはこの苦汁の生活を続けている内にいつの間にやら【適応】という能力を得ていた。【適応】は取り込んだ血から血の持ち主が持つ能力を獲得できる能力であり、ニドの覚醒した固有能力だ。
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
無数の毒蛇がニドの前に現れる。千をも超える種類の毒蛇たちは、赤や黄の毒々しくも色鮮やかなものから純白や漆黒の美しいもの、様々な柄をもつものまでひしめき合って何かの絵画を描いているかのようである。
「あぁ、もちろんだとも。安心してもらいたい。私も同胞たちの期待に応えるべく、創造の力をある程度我が物とした。残りの2人の力も血さえあれば、我が力にできる」
ニドは既にアニミダックの持つ【触手生成】とレブテメスプの持つ【創造の両腕】の能力を獲得していた。毒蛇で腕がないために【創造の両腕】を使えないという笑い種もあったが、それもまた【適応】によって【創造】という能力に変えて発揮できるようにした。
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「もちろんだとも。目的は変わっておらぬ。安寧の地を得る」
無数の毒蛇が静かに自分たちの王の言葉に呼応する。
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「そう……安寧の地は決して、一時的なものではない」
無数の毒蛇が静かに自分たちの王の言葉に歓喜する。
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「そう、私は新世界を創り、同胞たちとともに楽園を享受する!」
無数の毒蛇が静かに自分たちの王の言葉に忠誠を示す。
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「ふしゅ……」
「さあ、始めよう。時は満ち、鬨の声はすぐに上がるだろう」
無数の毒蛇が静かに目的のために散らばって洞窟から出ていった。
「さて、同胞たちが危険な目に遭わぬようにお前たちも行くのだ。名も意志も持たぬ模造品ども。しっかりと同胞たちの言うことを聞くのだぞ」
ニドがそう呟くと、【触手生成】と【創造】の能力によって、精巧に毒蛇の動きを模した触手が無数に現れる。
「やれやれ……他人の能力を少し使えるというのは便利なものだが、存外面倒で手間なものだな」
ニドは触手を生成できるものの、アニミダックのように全ての触手を自分の一部のように精緻に動かすことができない。故に、模造の蛇たちは簡単な指示しか判断できずに現地で的確な指示をする必要があったため、【創造】の力である程度の自動化と毒蛇たちの指示を受けて動くように作り変えている。
「…………」
「…………」
「…………」
意思も意志も持たぬ模造の蛇たちはニドの指示によって、毒蛇たち同様に洞窟から出て行った。
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