5-15. 世界樹は平常より微かな異常で(1/2)
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花見の翌日。ムツキたちは朝早くから世界樹に向けて出発していた。途中途中、いろいろな妖精族と話をしたり、植物や動物、虫やキノコなどの観察をしたりと調査らしい調査もしていく。
ムツキは女の子たちが楽しく進めるように、ところどころで綺麗な花の群生地に寄って一息つくようにもしていた。
「いろいろと綺麗な場所があるのですね。確かにお呼ばれしてよかったです」
サラフェは花が好きで、誰よりも花を長く眺めていた。
「マスターは思ったよりも女性のエスコートができるようで、綺麗な場所をいろいろと教えてくれますよ。今度からサラフェも本格的にどうですか?」
「え、ええ……うーん……虫がちょっと……どうしても……蝶くらいならいいのですけどね」
しかし、サラフェは虫が大の苦手で、小さな羽虫が近付くだけで周りの方が驚くような恐ろしい形相になる。
「あと、外で水浴びはちょっと恥ずかしいです……」
「大丈夫です! マスターは覗いてほしいと言われなければ覗きに行きませんよ?」
「……決して覗いてほしいと言わないですし、あと、覗いてほしいと言われて嬉々として覗きに行くムツキさんを想像したくもないですけど。というよりも、ムツキさんのことだけに限らないです」
後一押しと思ったキルバギリーが明後日の方向へと押していくので、サラフェは彼女の意図を汲み取りつつも押し戻していた。
「……サラフェ、キルバギリー、着いたぞ。ここが世界樹の根元だ」
ムツキはサラフェとキルバギリーの会話を聞きつつも参加せずに、鬱蒼とする茂みを進んでしばらくすると、ナジュミネやリゥパ、メイリ、コイハが開けた所で待っているのを見つけて、目的地に着いたとサラフェやキルバギリーに伝える。
世界樹の根元。開けたように見えるのは、大小さまざまの世界樹の根が地面にまるで床を作り上げているかのように張り巡らされており、ほかの植物が生えないからである。
サラフェが世界樹を見回すが、大きすぎる世界樹に圧倒されるばかりだった。
「近くで見ると、その大きすぎて……大きさがむしろ分からなくなりますね。木の壁が横にも上にも延々と伸びているような……これが木だとはとても……」
サラフェが言うように、世界樹は大きすぎた。幹は木の壁と彼女が呟いてしまうほどに幅広く背も高く大きい。彼女が落ちている世界樹の葉を見つけるも、自分よりも大きいことに驚きを隠さない。
「ユグ、いるか?」
「ユグ?」
ムツキがユグと呼ぶと、その名前に聞き覚えのないサラフェが聞き返す。その彼女の聞き返すタイミングとほぼ同時に、張り巡らされた世界樹の根の一部が動いて、穴を作り、その穴の中から一糸纏わぬ少女の姿をしたものが現れる。
その少女は新緑色の長髪と木のような薄茶色の肌をしており、顔立ちや見た目が幼い姿のユウと見間違えるほどに似ていた。
少女はまぶたをぱちりと開けるとムツキの方を見る。その瞳は、白目とも呼ばれる強膜の部分が黒くなっており、黒目とも呼ばれる虹彩が白くなっているため、初めて見る者たちに違和感を覚えさせる。
「いるぜ! ムツキ! 今日は大勢だな!」
「これは……木の精霊? 髪の色といい、見た目といい、幼いリゥパさんというか、緑色の髪をしたユウさんというか」
「オレのことか? オレは世界樹の化身だ! ユグってのはムツキが付けてくれた名前なんだぜ」
ムツキは前世で知った世界樹の名前からもじって、世界樹の化身である木の精霊の名前をユグと決めた。
「見た目よりもやんちゃな感じの喋り方なのですね」
「主な話し相手がお喋りリスのラタくらいだったから、ラタの口調が移っちゃったんだよな……」
ラタとは世界樹の上から下までを四六時中駆け回るリスのことである。普段は頂上にいる鳥の姿をした妖精たちや根の奥深くに潜む毒蛇の王ニドとお喋りをして過ごしている。しかし、樹海の洞窟が世界樹の恩恵を得られずに寒い時期に当然のように寒くなるため、ニドは冬眠という深い眠りに落ちてしまう。
そのため、ラタはユグを新たな喋り相手として喋りかけていた。おかげでユグがラタの口調を覚えてしまい、誰かと話すときにラタの口調になってしまうのだった。
「あーっはっはっは! 見た目はユースアウィス様を真似てみたからな! そもそも、喋れる相手を増やしたかっただけだから、見た目は気にしないし、口調も気にならないけどな!」
明朗快活という言葉に相応しいカラっとした表情と口振りをしている幼女はみんなの心を明るく照らす。
「いつも通りといえばいつも通りだが……ユグ、変わらず元気か?」
「あっはっはっは……うーん……元気なんだけど、でも、ちょっといつもより元気が少ない感じだな!」
「大丈夫か?」
「多分、大丈夫だぜ!」
ムツキの問いは真剣だった。世界樹の調子が悪いことはすなわち、この世界における魔力の循環システムの調子が悪いことを意味する。
しかし、当の本人、世界樹の精霊であるユグはそこまでの危機感がないためにとても軽い返事をする。
「多分じゃ困る。ちょっと診るぞ」
ムツキがそうユグに告げると、彼の手がユグの身体へと伸びていった。
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