5-Ex2. 欲しいものは物より想いで
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ムツキ争奪戦の雪合戦が終わった後、ナジュミネは風呂場にいた。彼女は風呂場に入るや否や頭から順に上から下までざっと洗い、髪を頭頂部でまとめ、露天風呂へと足を運ぶ。
ムツキの家は、妖精たちも含めると100を超える非常に大所帯であることとムツキが前世からの希望があったこともあり、風呂場が銭湯や温泉旅館並みに大きく、さらに男女で分けられていることもないために実質的に旅館の2倍以上の広さを有していた。
ナジュミネは露天風呂に足を入れ、その後ゆっくりと胸の辺りまで浸かる。
「はぁ……」
ナジュミネの溜め息は、風呂に浸かった時のホッと一息ということだけでなく、先ほどの自身の行動を反省している重めの空気も混じっていた。
「どうして、あんなことでへそを曲げてしまったのだろうか」
ナジュミネの反省している内容は副賞の琥珀の一件である。何の気なしに出しただけのムツキに対して、うっかり自分を除け者にしたという言葉を吐いてしまったのだ。
彼女は雪合戦という単語の時点で、詳しい内容が分からずとも辞退するつもりだった。それは先ほど彼女が自ら言い出していたように、気持ちが熱くなると周りに影響を及ぼし、雪を溶かす可能性があったためである。
「もちろん、旦那様から宝石のプレゼントなんて今後ないとも思ってしまったけれども……」
彼女は先ほどまで琥珀で揺らいで参加するかもと思っていたが、よくよく考えれば、最初から琥珀がもし副賞になっていたとしても、結局自ら降りていたはずという結論に至っていた。
だからこそ、彼女の込み上げていた怒りが難癖であったことに自身で気付いてしまう。
「私……琥珀が欲しかったのかな……?」
普段は妾と言っているナジュミネもたまに私と言うことがあった。鬼族の村で過ごしている時のほか、こうして一人で考えに耽っている時もそうなる。
「琥珀は熱に弱いと聞いたこともあるし、そうなると、私は身に着けていられないじゃん……あーあ、そうだよね……」
ナジュミネは顔を上げ、天を仰ぐようにして視線を空へと移す。また雪がちらほらと降り始めており、雪の舞う露天風呂という風流な情景に、心はともかくとして身だけはしっかりと委ねていた。
「あぁ……旦那様にめんどくさいとか思われてないかな……そんなのやだな……」
「ムツキはそんなこと思ってないと思うよ。それに、ナジュみんは悪くないよ?」
聞き覚えのある愛称を聞いて、ナジュミネはバッと顔を天から声のした方へと向ける。そこには、幼女姿のユウが顎の下までめいっぱい露天風呂に浸かっている状態でナジュミネの方を向いていた。
「うあっと! ユウ、聞いていたのか?」
「まあ、聞こえていたよね。声を掛けようかとも思ったけど、ごめんね」
「いや、いいんだ。妾こそ、すまぬ。取りとめもない話を聞かせてしまったようだな」
ユウとナジュミネはお互いに謝った後、ユウの方からナジュミネの近くまで寄ってきた。
「ムツキは鈍感だからさ。きっと、あ、琥珀って、ナジュみんが欲しがるほど、重要なものなんだってあの時に気付いたと思うよ」
「そう言われると恥ずかしいな……というか、妾は琥珀よりも違うところで怒ってしまったのだと思っているんだ」
「違うところ?」
ユウが聞き返し、ナジュミネはそれに頷く。
「なんだか除け者にされた感じがしてな」
「それこそナジュみんは悪くないよ。後出しするムツキが反省しなきゃ!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
ナジュミネは自分が嫌がっていた部分であるものの、ユウからもらった言葉で少しだけ安心して落ち着かせることができた。
「ナジュみんは自分でも言っていたけど、きっと、琥珀なんてものよりもみんなと一緒に琥珀にときめいてどうしようかなって考えることの方が大事だったんだよ」
ナジュミネはどこか合点がいったようで、ユウの言葉にゆっくりと頷いた。
「そうかもしれないな。聞いてくれて、教えてくれて、ありがとう」
「どういたしまして。これでもナジュみんよりもお姉さんだからね!」
ユウは幼女の姿でお姉さんぶっていた。もちろん、彼女は創世神であるため、この世のあらゆる生物よりも年齢が上の最年長である。
「そんな言い方しない!」
「え? どうした?」
「……いや、何か聞こえた気がして」
地の文にたまに反応できるのはユウくらいである。
「さて、出るとするか」
「私も出ようっと」
その後、ユウとナジュミネは二人一緒に風呂から出て、ムツキの持つ琥珀について、女の子たちで喧嘩にならないようにどう処置をしようか話し合うのだった。
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