5-5. 雪合戦は遊びよりも本気で(1/4)
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楽しんでもらえますと幸いです。
雪合戦は三つ巴戦で行われることになった。ペアはくじ引きで決まり、ユウ&コイハ、リゥパ&キルバギリー、サラフェ&メイリという見事なまでに普段よく一緒にいるペアは分かれた。
ムツキ争奪戦の賞品は、雪合戦以降の就寝前までほぼ半日をムツキとイチャイチャできる権利ということになりかけた。それは単純にムツキのモフモフ集中フリータイムが削られただけの話で収まりそうになったのである。
しかし、モフモフたちもまたムツキとの交流を大事にしていたために、彼らの必死な訴えも考慮し、勝った女の子がムツキと一緒にモフモフと遊ぶ権利へと変わった。
「コイハとは別チームだけど、お互いに手加減ナシだよ!」
「もちろん。するからには本気だ」
「私たちもですよ、サラフェ?」
「もちろん、サラフェは相手がキルバギリーでも手加減などしませんよ」
「ユウ様、ムッちゃんは私がもらっちゃいますよ」
「リゥぱん、それは私のセリフだよ!」
もちろん、どの女の子も仲が悪いことはない。ただし、普段はよく一緒にいる相手が敵として立ちはだかることが新鮮だった。
「もこもことした女の子の服装って女の子らしくていいよな」
ムツキがそう呟くように、女の子たちはそれぞれのカラーをした寒冷地仕様の温かそうな服装になる。リゥパは薄緑色、サラフェは青色、キルバギリーは灰色、コイハは白色、メイリは黒色で、ユウは普段薄青だがサラフェもいるために薄黄色だった。
ナジュミネも赤色のもこもことした服装で、約束通りムツキの前にちょこんと座って抱きしめられている。なお、ムツキは彼の髪色と同じ紫色の温かそうな格好をしていた。
「そう言うが、旦那様、暑い時期は肌の部分ばかり見ているではないか」
「……げふっ……こほん。まあ、男だからな。それとこれとちょっと違って、季節に合った服装がいいってことだ。まあ、それはともかくだ。じゃあ、内容を説明するぞ。審判はアニミダックだ」
「任せろ!」
アニミダックは長い黒髪に黒のロングコートといった出で立ちで試合会場を見渡せる場所に立っている。
「アニミはなんで張り切っているの?」
「言わなくても分かるかと」
「あー、まあね」
メイリは不思議そうにアニミダックを見ながら、隣にいるサラフェに話しかけると、サラフェは視線をそのままユウの方へ向けた。メイリもまたサラフェの視線の先に気付き納得する。
アニミダックは4人の始祖の1人であり、生みの親であり元カノのユースアウィスに未だにご執心である。既に彼女がムツキのパートナーとなっていることは知っているものの、自身を身体的にも精神的にも鍛えて奪い返す目論見でいた。
それも知りつつ、ムツキはアニミダックの更生を目的に家に置いているのだ。
「参加者は雪玉や雪壁を作ってはいけない。アニミダックの触手が雪壁を作ったり壊したりしながら、その雪壁のあたりで雪玉をせっせと作るから、それを当てるように」
アニミダックだけが持つ能力、固有能力とも呼ばれるものは【触手生成】である。10種類ほどの触手を無数に召喚できる能力であり、圧倒的な数による制圧力が彼の持ち味である。
普段は彼の右腕に装着されている制限の手甲によって、攻撃禁止と生成数制限が設けられているが、今回の試合のために一時的に制限を解除されていた。
「もちろん、物理攻撃は禁止だし、手足の拘束も禁止だ」
「ダーリン、魔法を使わせないように口を塞ぐのは?」
「まあ、口だけならいいんじゃないか? でも、雪玉当てられちゃうぞ」
「あ、そうかも」
メイリはムツキの説明で理解して大きな〇を手でつくる。
「ムツキ、雪玉は一発当たったらおしまい?」
「いい質問だ。いや、今回は時間制限いっぱいに避けまくって当てまくる感じだ。触手がみんなの当たった回数を数えるし、俺もみんなに付けているバリアの反応で当たった回数を数えられるからな。ちなみに細かくしてもたくさん当たったことにならないぞ。一発分の大きさは決まっているからな。細かくなった分は合計値がだいたい一発分になったら一発で数える」
「りょーかい!」
ユウはメイリ同様にムツキの説明で理解して大きな〇を手でつくる。
「今回、コイハというかミクズとメイリについて、【変化の術】で作った雪玉を当てても当てた数に含まれない。あくまで触手が作った雪玉本体だけだ。もちろん、【狐火】でもダメだぞ」
「はーい」
「ん。ハビーは気付いていたか」
白狐族のコイハは自身の先祖にあたる白面金毛九尾の狐と呼ばれるミクズと人格交代することができた。コイハとミクズで得意分野が違うため、都度スイッチするようにしている。
【変化の術】は黒狸族のメイリや白狐族のミクズが得意とする人を化かすための固有能力であり、【狐火】は白狐族のコイハやミクズのみが使える補助的な固有能力だ。
「あと、ユウとキルバギリーは届かないくらいに高く飛んで攻撃するのも逃げるのも禁止な」
「はーい」
「承知しました」
ユウの浮遊魔法【レヴィテーション】やキルバギリーのブースターは釘を刺される。
「リゥパも【マジックアロー】での迎撃が禁止で、サラフェも水魔法で氷の壁を作って雪玉を防いじゃダメだぞ?」
「はーい」
「分かりました」
妖精族の中でも森人族、エルフ族とも呼ばれるリゥパの得意とする【マジックアロー】は連射性に優れているため禁止となり、サラフェもまた得意とする水魔法での防御を制限される。
「なるほど。全員なにがしかの能力制限を受ける中でどう動くのかが見ものだな」
ナジュミネは制限のある状況下での訓練にもなると考えてゆっくりと縦に頷いている。
こうして、全員が何かしらの制限を受けた状態でムツキ争奪戦の雪合戦は幕開けとなった。
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