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1-25. 樹海の真面目な調査だと思っていたらそこそこ楽しかった(5/5)

約2,000字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 その後の調査では、意気揚々としているナジュミネがとても微笑ましかった。ムツキや妖精たちもそれにつられて楽しそうだ。


 洞窟の中ではコウモリをまじまじと眺めたり、上から生えている無数の鍾乳石を見たり、大きなネズミの魔物と戦ったりすることもあった。


「やはり、魔物も出るのか」


 ムツキの創ったライトに照らされて、ナジュミネとアルは彼とともに洞窟内を地上へと戻り始めていた。


「あぁ。どうしてもいろいろな魔力が溜まってしまうからな。負の魔力も多いんだ」


 正の魔力から妖精が受肉して現れ、負の魔力から魔物が受肉して現れる。


 妖精は敵意を持たなければ、悪戯をすることはあっても攻撃はしてこない。しかし、魔物は敵意の塊であり、魔物以外の全てを攻撃対象としてくる。中には魔物もさえも食らう魔物がいる。


「魔人族は妖精と魔物の違いを理解できているようなんだけど、人族はどうもごっちゃになっているようだ。多分、魔力に関しての理解が浅いんだろう」


 ムツキがナジュミネにそう説明すると、呆れたような表情で小さく溜め息をつく。


「人族は本当に仕方のない奴らだな」


「はは。そういう俺も一応人族なんだけどな。あぁ、でも、樹海の偏屈魔王だっけか」


「もちろん、旦那様は特別だ。それに、もう、そんな意地悪を言わないでくれ!」


 ナジュミネは、あの時の安っぽい挑発をしていた自分をからかわれたように感じて、顔を真っ赤にする。


「ごめん、ごめん。ところで、コウモリもかわいかっただろう? あまりモフモフしてないけれど、あのくりっとした目がとてもキュートなんだ。あと、洞窟にはいないけど、森の方にも別のコウモリがいてね。それは白くて小さくて少しモフモフしていてオモッチみたいな感じなんだけど、こう、そっと触ると、つぶらな瞳がこちらを見つめてきて」


「マイロード、ご歓談も良いですが、足元にはお気を付けください。あと、ミセスが引き始めています」


「旦那様、やっぱり、モフモフのことになると、ちょっと怖い」


 いつか見た素直な笑顔といつか聞いた率直な感想である。それらはムツキの心にグサリと刺さる。


「うっ。いつか俺と同じくらいモフモフを愛するようにしてみせる! あ、さっきのネズミは魔物だったんだけど、妖精のネズミもいて」


「マイロード、一旦落ち着いて先ほどの流れを理解してください。ミセスがドン引きしています」


 アルはムツキをたしなめる。


「すまん。興奮しすぎた。どうも好きなものを熱く語る気質はどうも治らないようだ。さて、と。ようやく、地上だ。皆のところに戻ろう」


「今日はどこで野営するんだ?」


「こっちだ。明日は一日世界樹を登ったり下りたりするから、いつも、世界樹に近付きつつ、さらに水辺の近くで野営しているんだ」


 やがて、小さな湖のほとりにある野営地まで辿り着き、少し早めの食事を始める。


「我らの命の糧になったものたちへの感謝の祈りを込めて」


「いただきます」

「いただきます」

「にゃー」

「ワン」

「ぷぅ」


 昼と変わり映えのない質素な食事ではあったが、今日の話で場が大いに盛り上がる。全員が気付いた頃には、月が明るく周りを照らしていた。


「さて、話もまだまだ尽きはしないけど、明日は早いからここで終わりにしよう。最後に水浴びをして汗を流して寝よう」


「妾から先に入ってもいいか?」


「もちろん。レディファーストだ。お先にどうぞ」


 ナジュミネがそう訊ね、ムツキは快諾した。


「いい月だ」


 ナジュミネは少し大きめな岩を見つけ、その上に脱いだ衣服と着替えを置き、一糸纏わぬ姿で湖へと入っていく。


 静かな水面が揺れ、湖に浮かぶ月はひどく歪む。その周りの森からは虫や鳥の鳴き声が聞こえるが、彼女に敵意のある気配を感じられない。


 やがて、彼女は大胆にも湖の深い所まで歩き、身体を湖に預けた。


 水面に映るよりも幾分か輝いている月をただただ眺める。静寂の中で、彼女は自分が自然に溶け込んで自我がなくなるかのような感覚に陥る。


 しかし、その時間も長くなかった。ナジュミネは何かの気配を感じ取る。


「ん? 誰だ!」


「……あらら? 先客がいたのね」


 ナジュミネは何かの気配を感じて思わず叫び、気配の主は少し驚いた声色を出していた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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