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4-99. もうすぐ寒くなるから潜み始めた

約2,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 この世界の中心に鎮座する世界樹。その世界樹の根が張る樹海の中にはいくつもの洞窟が存在し、その洞窟の中には死者の住む数々の地獄にも繋がっていると言われているほど深いものがあった。


 その地獄まではいかなくとも、ある洞窟の最奥に、毒蛇の住む沼とも湖とも呼べる場所がある。


「ってことらしいぜ? まったく、どうなっちゃうんだろうな。ま、俺には関係ないけどな! もし俺に関係するとしても、俺の華麗でビューティフルな動きでかすり傷1つ負うことないぜ?」


 薄暗い洞窟の中でも明るそうな声色が聞こえてくる。ケタケタと笑う張本人は、毒蛇ではなく、深緑色のシマリスだった。


 このシマリスは、ラタとも呼ばれており、毎日世界樹の上から下まで走り回る体力お化けの妖精族である。ラタの艶やかな毛並みは世界樹の葉のように瑞々しさと艶やかさを兼ね備えているが、この暗い洞窟の中では色あせて見えてしまうような色合いになる。


「ほう……レブテメスプ様が眠りから覚められたのか。アニミダック様に続き、レブテメスプ様までも。これは他のお2人の目覚めも近いのか?」


 ラタの言葉に反応した声の主こそ、この毒蛇の住む沼の主であり、毒蛇の王とも呼ばれるニドだった。


 全身が真っ黒な大蛇であるニドは、かつて自分が妖精族の王となるために、妖精王ケット・シーことケットに反旗を翻した。その結果、敗北を喫したニドはこの薄暗い洞窟の中に幽閉状態となっていたのだ。


 幽閉状態が過去形の理由は、ニドが既に赦された状態であり、洞窟から這い出ることも許されているためだ。しかし、ニドは赦されてもなお出ることがなかった。


「かもしれないな! まあ、世界樹や樹海には近づかないと思うけど、ムツキ様の家には来るようだから、気を付けないとな! まあ、ニドはなおのこと、会うことはないかもしれないけどな!」


「そうかもしれぬな。まあ、たしかに、人族と魔人族の始祖の方々は何をしでかすか分からぬから、用心するに越したことはないだろう」


 ラタがニドと話すのは、半分話し相手欲しさ、半分ニドの監視、という意味を含んでいた。ラタのほかの主なお喋り相手は世界樹の頂上にいる大鷲のフレスだが、フレスがいつもいるとは限らないため、ニドと話すことの方が多い。


「だな。っと、じゃあ、俺はそろそろ帰るぜ? ニドもそろそろ冬ごもりだろう? 俺も冬支度くらいはしなきゃな。まったく、寒いのは嫌んなるぜ」


 ラタは両手を腕組みして擦って身体を温める真似をする。それを見たニドが笑みをこぼして面白いと伝えている。


「ふはは……そうは言っても、寒くとも食べ物が豊富にある樹海で困ることはなかろう。私は周りが寒いと動けぬ。しばしの眠りにつく。次は暖かくなった頃に来るといい」


「おう、じゃあな! 暖かくなったらたたき起こしに来てやるぜ!」


 ラタはお喋りで満足した様子で、明朗快活な雰囲気のままに薄暗い洞窟から去っていった。ラタがいなくなると、洞窟が急に静けさを取り戻す。


 ニドはしばらく笑顔を貼り付けたままで洞窟の出入り口を眺めていたが、しばらくすると無表情を通り越して、面倒ごとが片付いたと言わんばかりの小難しい表情になる。


「まったく……お喋りリスめ……長々と無駄話に付き合わせおって。……まあ、おかげで私が何かを知っていても、奴のせいにしやすいからよいのだがな。さて、我が同胞たちよ、眠りの準備はできただろうか」


「シュー、フシュシュ」


 ニドが仲間の毒蛇たちに声を掛けると、どこからともなく無数の毒蛇たちが現れ、鎌首をもたげた後に恭しく礼をするように上下に頭を動かしている。


 ニドは毒蛇の王と呼ばれるが、仲間との同列意識が高く、かつ、仲間思いのニドにとって、自分こそが王と自負しているわけではなく、あくまで役割として引き受けているだけと位置づけている。


 一方の毒蛇たちはニドを自分たちの王としているため、彼らは必然的にニドを持ち上げるような態度を示す。


 このお互いに緩やかながらも尊重し合う関係により、毒蛇たちの関係はどの種族よりも結束力が高かった。


「素晴らしい。今年もこの忌むべき季節がやってきた。寒く動けぬ季節がな」


「フシュ、フシュ」

「シュー、シュシュ」


「そう、種族によっては冬と呼ぶ寒い季節だ。我らはその中で冬眠というものをせねば、次の暖かな季節まで生き残れぬ」


「シュ」


 毒蛇たちは人の言葉を話すことができないが、ニドが理解できるため、彼らの意思疎通に問題はなく、むしろ、毒蛇たちのコミュニケーションをほかの妖精たちが理解できないので、ニドや毒蛇たちにとって都合がよかった。


「ふむ。計画は確かに遅れてしまう。だが、焦ることはない。いや、むしろ焦ってはいけない。私は同胞の身も自分の身同然に案じている」


「フシュ、フシュ」


「もちろんだとも。まったく動かぬわけではない。触手を使うことにより、同胞たちが危険に身を晒すことも少なくなった。寒く動けぬ季節もこ奴らには関係ない」


「フシュシュ」


 ニドは後天的に固有能力【適応】を得ていた。【適応】は、他者の血や体液などを取り込むことで他者の力も得られる能力であり、その他者の力には固有魔法や能力も含まれている。


 この【適応】によって、アニミダックから【触手生成】の能力を取り込み、毒蛇に擬態した触手を使えるようになっていた。


「あぁ……我らの楽園は近付いている。ここで他の者にバレるわけにはいかんのだ。4人の始祖の力と、ユースアウィスの創世の力を必ずやこの手に」


「フシュ、フシュ」

「フシュ、フシュ」

「フシュ、フシュ」


「さぁ、休もう。同胞たちよ。我らの目覚めはまだまだ先だ」


 ニドは見果てぬ野望を抱いて、しばしの眠りについた。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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