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4-98. 自由だからなんか来ていた(2/2)

約2,500字でお届けします。

楽しんでもらえますと幸いです。

 レブテメスプ、キルバギリー、ムツキはダイニングテーブルで「く」の字の型になるように座っており、キルバギリーが2人ともに食事の補助をしやすい状態になっていた。


 キルバギリーは野菜スープを掬い、ふーふーと息を吹きかけて少し冷ましてから、彼らの口元へと運んでいく。


「レブテメスプ様、あーん」


「あーん。んくっ……そう、2つあって、1つはたまに遊びに来るってことさ☆」


 レブテメスプが野菜スープを飲み干した後に何事もなかったかのように話を始める。遊びに来るという話も悪びれもせずに言えてしまう部分が彼らしいとムツキもキルバギリーも感じていた。


 結果だけで言えば、レブテメスプはムツキの日常を乱して、場を混乱させてと迷惑極まりないことをしてしまっているが、後に引くような実害もなく、むしろ、女の子たちが試練を乗り越えたことで達成感を持ち、心のどこかに残っていたわだかまりもなくなっていたので、怒るに怒れない状況に至ってしまった。


 唯一、サラフェだけはレブテメスプへの嫌悪感で満ち満ちている。


「次はマスター、あーん」


「ありがとう。あーん。……ん-、まあ、みんなに危害を加えるわけじゃないなら、遊びに来たって構わない。ただし、またキルバギリーに何かしたり、ほかの女の子にちょっかいを出そうとしたりしたら許さないぞ?」


 キルバギリーはそれぞれのスプーンに持ち替えつつ、野菜スープを交互に与えていた。


「レブテメスプ様、あーんしてください」


「あーん。もぐもぐ……んっ、ありがたいね☆ ボクがキールを取り戻すとしたら、前に言った通りだよ。……まあ、たまに発明品のお披露目にでも来るさ☆」


 レブテメスプがキールを幸せにしろと目で訴え、ムツキは無言で頷いた。その頷きを見て、レブテメスプの表情が少し柔らかくなる。


「マスターも、あーんです」


「あーん。ごくっ……まともなものなら歓迎するさ」


「レブテメスプ様、口の開き方が小さいですよ? あーん」


「あーん。んっ……心外だな☆ ボクの発明はいつだって、まともかつ画期的で究極さ☆ まあいいさ。で、もう1つは……気を付けろ……ですね」


 レブテメスプは心外と言いつつも特に怒った様子もなく、凡人にはその素晴らしさが分からないから仕方がない程度の雰囲気でムツキの言葉を受け止めている。


 ムツキもまたその程度に受け止められているのだろうなと理解しているので、そのような雰囲気で言われても怒る気にもなれなかった。


 それよりも彼が気になるのは「気を付けろ」という言葉である。


「マスター、いいですか? あーん」


「あーん。もぐ……気を付けろ?」


「はい、レブテメスプ様、あー」


 レブテメスプがキルバギリーの方を見て、少し申し訳なさそうにしながらも彼女を制止した。


「キール、ちょっと待った。これから真面目な話だから、食べながらはちょっと……」


「承知しました。では、マスター、あーん」


 キルバギリーがレブテメスプに軽くお辞儀をした後、スプーンを持ち替えて、ムツキの口元へスープを運ぼうとする。


「あーん」


「ムツキもやめなさい! それは人の話を聞く態度じゃないでしょう!」


「……冗談だ」


 ムツキは何の気なしにあーんでの食事を続けようとしたが、レブテメスプの当然の指摘に思わず冗談という言葉を使って苦しい言い訳をしてしまう。


「冗談って、普通に口を開いていましたけどね。まったく……まあ、自分でご飯を食べられないのだから仕方ないのかもしれませんが……」


「レブテメスプ様、すみません。マスターは女性からの誘いを断れないので、私がやめるべきでした」


「いや、キルバギリーは悪くない」


「そう、キールが謝ることではないですよ。こほん、さて、話を戻しますよ。いいですか? ボクにも分からないですが、アニミダックとボクが急に永い眠りから目覚めた。これの意味するところはまだボクには見当がつかないが、春になって冬眠から一斉に目が覚めたクマじゃあるまいし、立て続けに起きてしまうのは不自然ですからね」


 レブテメスプは、アニミダックが目覚めたことも、ほぼ同時に自分が目覚めたことも違和感だらけで、その何とも言い難い気持ち悪さをムツキにやんわりと伝えた。


「何かが起ころうとしているってことか?」


「かもしれないし、そうじゃないかもしれない」


「どっちだよ」


「どっちか分からないから気を付けろと言っているんです。ボクにも分からないと言っているでしょう」


 冗談でも脅しでもなく、他人事でも自分事でもないようなレブテメスプの曖昧な言葉は、少なくともムツキにレブテメスプが戸惑っている印象を与えている。キルバギリーもその様子に少し戸惑いを覚えている。


 その中、ムツキは同じように戸惑うわけにいかなかった。ふっと笑うと、少し背中を反って、肩を竦ませながら問題ないと言わんばかりに余裕そうな表情を浮かべる。


「そうか。まあ、大丈夫だ。俺は世界樹と妖精族、自分のパートナーたちなら守るさ。レブテメスプは自分の身を守れるだろう?」


「ええ。それで十分です……ボクもエニアード・ハーミットの改良をして万全を期すとしましょう」


「そうか」


「さて、言いたいことも言えましたから……ボクは帰るよ☆ じゃあね☆」


 レブテメスプは用事が終わったからと帰ろうとして、椅子から勢いよく降りた。その後、どこからともなく、彼のUFOが飛び出してきて、ロボットハンドが彼を掴んでコックピットに乗せて、ムツキの家から去っていった。


「本当に何か起こるのでしょうか?」


「分からない。でも、さっきも言ったけど、俺はみんなを守るだけだ。安心してくれ」


「そうですね。ありがとうございます」


「さて、ご飯の続きをお願いしてもいいか?」


「はい。あーん」


「あーん」


 キルバギリーはムツキの言葉に安心感を覚えて、彼との食事の続きを再開した。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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