4-97. 自由だからなんか来ていた(1/2)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
キルバギリーを奪還してから数日経ったある日のこと。ムツキは起き上がり、ベッドに眠ったままのリゥパとミクズを残して、寝ぼけ眼に大きな欠伸をして自室から出ていく。
まだ朝も早い時間帯だが、彼はナジュミネやケットがもう起きているだろうと思い、喉の渇きを潤そうと自室のある2階から1階へと降りていった。
「キール、あーんして」
「レブテメスプ様、あーん」
ムツキは思わずコケた。
1階のダイニングテーブルの端には、何故かレブテメスプが我が物顔で座っており、そのL字で隣、つまり、彼の斜め前にいるキルバギリーに命令して野菜スープを口に運んでもらっていた。
「れ、レブテメスプ?」
ムツキがレブテメスプを呼ぶと、レブテメスプは驚いたような表情を一瞬だけ浮かべた後にすぐに平然とした表情に戻って、キルバギリーからのあーんを受けていた。
「お、ムツキじゃないか☆ 結構、朝早くに起きるんだね? キールからは毎晩お盛んだと聞いていたんだけどさ☆ ボクのキールにまで手ぇ出してムカつくったらないけどな」
「そんなことよりもだ」
ムツキはレブテメスプを睨みつけ、話をはぐらかされないように気を付ける。レブテメスプもはぐらかせなかったかと内心思いつつ、観念したように説明し始める。
「なんで、ボクがここにいるかって? そりゃ、ボクがここに来ようと思ったからさ☆」
「ナジュはどうした?」
「あぁ、鬼族の女の子かい? もうボクへのお仕置き熱はすっかり冷めていて、ワルキューレたちが訓練相手になると言ったら、嬉しそうにワルキューレたちを借りていったさ☆」
ムツキはパワーアップしたナジュミネの訓練相手などワルキューレたちには荷が重そうだと思いながらも、ナジュミネならある程度相手の力量から手加減もできるだろうと思い、何かを言うこともなかった。
「それじゃあ、ケットは?」
「ああ、ケットね。ケットは致命的な弱点があるからさ☆」
ムツキは今の時間に確実に起きているケットの名前を出す。ケットの名前を聞いて、レブテメスプが不敵な笑みを浮かべながら不穏な言葉を口に出した。
「レブテメスプ、まさか、ケットを!」
ケットに危害が加わったと思い込んだムツキの怒りの感情が沸き上がってこようとしたとき、台所の方から鼻歌交じりに嬉しそうな様子で料理を持ってくるエプロン姿のケットが現れた。
ケットは2本の尻尾を嬉しそうにくねらせながら、いつも以上にご機嫌である。
「レブテメスプ、お代わりを持ってきたニャ……いるかニャ……はっ! ご主人!」
「え、ケット? 無事なのか! ……あー……なるほど……」
ムツキは機嫌の良さそうなケットを見ると、ケットが着けている紺色のエプロンのポケットからケットの大好物であるマタタビがチラチラと見え隠れしていた。
「こ、これは……その……ごめんニャ……」
「いや、まあ、無事ならいいんだ」
「面目ニャいニャ……」
ケットはマタタビに目がなく、容易に買収されてしまっていた。普段は家の一切をケットが任されているが、マタタビを前にするとセキュリティがガバガバになる。
ムツキはひとまずケットが安全無事であることに安堵して、思わせぶりな言い方をしたレブテメスプを睨みつける。
レブテメスプはニヤニヤとドッキリ大成功と言わんばかりに、イタズラっぽい笑みを浮かべている。
「で、キルバギリーは?」
ムツキがキルバギリーを見ると、彼女は動きを止めて口を開く。
「レブテメスプ様にもマスター同様にアドミニストレータ権限がありますので、私単体ではレブテメスプ様の命令に背くことができません。ただし、マスターの命令があれば、やめます」
「命令まではしないけど、嫌ならやめてもいいんだぞ?」
「いえ、親の介護ですし」
キルバギリーの言葉に、レブテメスプは頭をテーブルに打ちつけ、ムツキは腹を抱えながらも笑いを押し殺していた。
彼女には二人がそのような反応をする理由がよく分かっていなかった。
「ぷっ……介護……くくっ……親の介護……」
「ぐっ……ぐぅ……介護って……親子の甘々なやり取りの感じじゃなかったのかい!?」
「いえ、そういうつもりはありませんでした。食事の補助は介護かと」
「ぷっ……ははっ……いいぞ、キルバギリー」
「って、笑っているけど、ムツキだって、介護されているようなものだろ!?」
「ぬぐうっ……補助……介護……それも食事だけじゃなくて、風呂、着替え、その他諸々……俺の方がダメダメじゃないか……」
レブテメスプのことを笑っていたムツキは、思いもよらなかったブーメランのような指摘で、心に致命傷を受けていた。ムツキは立っていることもままならず、レブテメスプと対面になるように席へと座る。
「はあ……」
「はあ……」
2人の溜め息が同時に出てくる。
「2人ともそこで争うとお互い様ニャ……レブテメスプのお代わりのつもりで持ってきたけど、レブテメスプのスープはまだ残っているようだから、先にご主人に渡すニャ」
ケットはムツキの目の前にスープを差し出し、新しいスプーンをキルバギリーに手渡す。キルバギリーは理解したと言う代わりにケットに向かってコクコクと縦に頷いた。
「まあ、いいさ☆ 気を取り直そう。ボクはちょっとムツキに言いたいことがあって、来ただけだからね」
「俺に?」
ムツキは訝しげな表情でレブテメスプを見つめることになった。
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