4-Ex19. 比べられたから拗ねた
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
レブテメスプはUFOの中で背もたれにもたれて深々と腰を掛けていた。
「次は普通に遊びに行くかな。いつがいいかな」
「あんな劇的な別れ方をしたのに、結構軽めに、しかも早めに遊びに行こうとするんですね……」
レブテメスプが楽しそうにムツキたちの家に来訪する予定を考えていたため、ワルキューレの一人が苦笑いと冷や汗を浮かべて彼の独り言に小言を呟いた。
「ブーリュン、そう言うなよ☆ 予想外はボクの専売特許さ☆」
ワルキューレにはそれぞれきちんと名前がある。
ブーリュンヒルデ、ヴァールトラウテ、ゲールヒルデ、オルートリンデ、シューヴェルトライテ、ヘールムヴィーゲ、ジクルーネ、グリムゲルデ、ロスヴァイセである。
それぞれの名前は単純に短縮されて、ブーリュン、ヴァール、ゲール、オルート、シューヴェル、ヘールム、ジクル、グリム、ロスヴと呼ばれている。
「……案外、機嫌が良いのですか?」
「それはないね」
「急に真顔で返事しないでください。怒られているかと思って、びっくりするじゃないですか」
「ごめん☆ ごめん☆」
レブテメスプは機嫌が良いわけではないとブーリュンの言葉を否定していたが、周りから見れば間違いなく機嫌が良いように見えていた。
きっとレブテメスプの中にあった過去からのわだかまりのようなものが取り払われたのだと周りは理解した。
それに安心してしまったのか、ワルキューレの中では八女にあたるグリムが口を開き始める。
「あー、それにしても、ちょっとだけいいなって思っちゃった」
「ん-?」
グリムの言葉に九女のロスヴは間延びした言葉で聞いているといった意思表示をする。
「あの男の人……ムツキだっけ?」
「あー、そうねー、そんな名前だったかもー」
「たしかに、あの人に好きとか言われたら落ちちゃうかも」
グリムはムツキの顔を思い出して少しだけトキメキを感じている。
ムツキは今のレブテメスプを大人にして、さらに美形な感じにし、優しそうな雰囲気も、余裕そうな笑顔も織り交ぜたようなものである。つまり、彼女たちワルキューレにとってある意味、理想の父親の姿をした他人が現れたようなものである。
レブテメスプが好きな彼女たちにとって、ムツキもまた割と容易に好きになる対象となる。
「飛べなくなるのー?」
グリムは飛びながらコケる真似をする。
「物理的にじゃない! 恋に、よ! 恋に!」
「あー、恋にねー」
ロスヴは分かったような分かっていないような顔で返事をした。
「たしかに、それはわかるかも」
「うんうん」
「うんうん」
「うんうん」
「うんうん」
グリムとロスヴの会話に、三女ゲール、四女オルート、五女シューヴェル、六女ヘールム、七女ジクルが参加し始める。すると、急に7人でワイワイガヤガヤ、キャッキャウフフと会話がムツキのことで盛り上がる。
それが耳に聞こえてくるレブテメスプの表情は険しくなる。
「……後ろの娘たちは大盛り上がりのようだね」
「そうですね」
「…………」
長女のブーリュンと二女のヴァールは妹たちの会話に参加せず、レブテメスプの側で彼と会話をするように努めている。
本当のところ、2人も妹たちの会話に参加したかったが、徐々に頬が膨れてきているレブテメスプを先に見てしまったためにこの役回りを負うことにした。
「じゃあ、あの人に「ついてこい」とか言われたら?」
「うーん、ついていくかもね」
「ちょっと、最初に言ったのは私じゃない」
「別に早い者勝ちってわけじゃないでしょ?」
「そうだけどさ」
「レブテメスプ様だっていいじゃなーい?」
「まあ、ねえ……でも、パパと結婚するって言う歳じゃないし? それにかっこよさはあっちの方が上よね」
「まーねー」
レブテメスプからすれば、散々な言われようである。
次第に彼は閉口気味になって、頬が膨れている。
「…………」
「こら、みんな! レブテメスプ様が拗ねちゃったから! やめて!」
「それ直接周りに言うのもやめてくれない!?」
「あ、ごめんなさい」
ブーリュンが妹たちを叱るために使った言葉が一番効いたレブテメスプだった。
「もういいさ! ボクは先に帰って寝る!」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
「レブテメスプ様、待ってくださいー」
もはや聞く耳も持たなくなったレブテメスプがUFOを最大速度にして目的地へと向かっていった。
最後までお読みいただきありがとうございました!




